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エベレスト街道トレッキング記-はじめに-

2022/12/17から2023/1/8まで、ネパール・エベレスト街道トレッキング旅を敢行した。
この記事はその記録であり、次に行こうと思っている方々に対して少しでも参考になれば嬉しい。



1.ヒマラヤトレッキングに行くことにした理由

そもそもなぜヒマラヤトレッキングに行きたいと思ったのか。


去年還暦を迎えた父がいる。
登山好きの父は、普段は日本の山梨など関東近郊の山を登っているが、年末年始に長期休みを必ず取り、ヒマラヤに行く。それを9年前からやっている。
初めの頃は、「なんかめっちゃハマってんなあ」くらいに見ていたのだが、
私も2年前くらいから登山をするようになり、父のやっていることに興味が出てきた。
そこで父からヒマラヤについていろいろ話を聞いたり、撮った写真を見せてもらうと、行きたさが凄いことになった。景色がもう圧倒的なのである。


ということでヒマラヤトレッキング行きが決定。
初めてなので、ベテランの父の山行について行くことにした。



2.エベレストエリア-3 Passコース-

ヒマラヤトレッキングには大きく分けて3つのエリアがある。
エベレストエリア、アンナプルナエリア、ランタンエリアの3つだ。
その中から選択することになるのだが、何も予備知識がなかったので父親のおすすめに任せることにした。

選ばれたのはエベレストエリア。
父曰く、
・エベレストやその他8000m級の山々をかなり“近く”から眺められる。
・トレッキングの“序盤”から高い山が見えて景色が良い。
というのがおすすめポイントらしい。

エリアを決めたら次はコースを選ぶ。
エベレストエリアにはいくつかコースがあり、1番メジャーなのはエベレストベースキャンプ(EBCという)を最終目的地とするコースだ。Luklaというトレッキング拠点の街からスタートし、約45キロほど離れたEBC(標高5364m)へ行って同じ道を帰ってくるコースで、Kala Pattar(標高5644m)というエベレストがよく見える山に登るのがメインイベントとなる。トレッキング期間は2週間弱で、内容・所要時間・費用などバランスのとれたコースと言える。

我々は時間には余裕があったので、「3 Pass」という少し長めのコース(下のマップの赤いルート)を選択することにした。簡単に言うと、EBCコースに3つの5000m級峠越えをプラスした欲張りコースだ。同じ道を往復するEBCコースとは違いエベレストエリアを周遊するため、各所で異なるヒマラヤの山景色を楽しめるのが魅力である。エベレストをはじめとした名峰たちを様々な角度から眺められる他、Gokyoではエメラルド色の氷河湖、Cho La Passでは巨大な氷河上ウォーク等々、激アツなコンテンツが詰まったコースなのだ。トレッキング期間は16日程度で、前後の移動日(国際線含む)やトレッキング予備日等を入れると23日程度の行程となる。

エベレストエリアマップ(BOCHI-BOCHI TREK HPより転載)



3.エベレストトレッキングのレベル感

エベレストと聞くと、超高度の雪山を命懸けで登って行くイメージを持つ人も多いだろう。たしかにエベレスト登頂を目指すとそうなのだが、トレッキングの範囲であれば積雪もほとんどなく、登山道もかなり整備されているので歩きやすい。日本で2000-3000m級の山登りをしている人であれば技術的には充分だ。ただ、毎日6-8時間くらい歩くので持久力を鍛えておく必要はある。

“トレッキング”コースから少し足を伸ばすと、6000m超えの“クライミング”コースにもトライできる。クライミング範囲になると、凍った斜面などの登攀があるのでそれなりの技術(アイゼン、ピッケル、ハーネスを着用)が必要となる。エベレストエリアでは、Island Peak(標高6189m)やLobuche Peak(標高6119m)などがそれにあたる。最近、野口健さんが娘さん(18歳)とIsland Peakに登ったニュースがあったな。

Chukhung Ri(標高5550m)からの下山、積雪はない、奥に見えるのはNuptse(標高7861m)



4.気候とシーズン

エベレストトレッキングのベストシーズンは10月-12月上旬と言われている。晴れの日が多く、気温も快適なため人気が高い。次に人気なのは3月下旬-5月である。秋よりは少し暖かいが、天気が崩れやすく、高い山が雲で隠れてしまうことが多いらしい。(下に転載したグラフを参照されたい。)
2月は寒すぎ、7-8月は雨多すぎでNG。
とはいえ、シーズンを狙って休みを取るのはなかなか難しい。我々も年末年始休みを拡大して行くことにしたので、シーズンからは少し外れたプランとなった。


エベレストエリアの月別トレッカー数(HONEY GUIDE HPより転載)
Namche(標高3440m)の月別降水量と最高気温/最低気温(HONEY GUIDE HPより転載)


結果から言うと、12月後半-1月上旬のトレッキングは、寒さ以外にデメリットはなかった。

  • 天気が基本晴れ。半日雪の日が1回、霧の日が2回あったがそれ以外はほとんど晴れていた。高い山々の眺めが醍醐味なので天気が良いのはとてもありがたい。

  • 観光客が少ない。ピークシーズンだと山小屋の部屋が埋まって、食堂のソファで雑魚寝になるケースもあるらしいが、今回はピークから外れたため部屋の心配をする必要はなかった。また人が少ないと、大自然を独り占めしてる感が強まるのでおすすめ。

  • 気温は寒いが耐えられるレベル。ヒマラヤは緯度が低いので、日本の同じ標高の場所と比較すると暖かい。Namche(標高3440m)くらいまでは日中長袖シャツ1枚でも行動できるくらい。5000mを超えても、日本の冬の高山に行くようなウェアがあればOKであった。ただし、天気が悪く太陽が隠れると寒いので注意。朝や夕方に展望の良い場所から写真を撮りに行く時なども、低温+強風で体感-20℃くらいになることがある。また当たり前だが、夜はとても寒い。山小屋に暖房はないので、室温が-10℃くらいまで下がる。厚着をして寝袋(mont-bellの#2)に入り、さらにその上から毛布をかけて寝る。山小屋の部屋が空いていれば、他の部屋の毛布を追加取得できることがあるので宿の人に聞いてみると良い。(私は旅の途中でこの裏技を思いつき、発動しまくっていた。)



5.宿

トレッキングのコース上には、数キロおきに必ずロッジ村がある。よって、クライミングコースに行かない限りテント泊をする必要はない。
各村に大体複数のロッジがあり、その中から空いている宿を選ぶことになる。ただし、我々のようにポーターさんを連れている場合、彼らと付き合いのある宿に自動的に案内される。宿の変更は可能だが、ポーターさんがやや不機嫌になるらしいのでやめておいた方が吉。

Syomareの街、背後に世界4位のLhotse(標高8516m)

5-1.部屋

ロッジの部屋タイプはシングル2ベッドタイプの個室が多く、1人でもそこに泊まる。混んでいると相部屋になることもあるという。部屋代は基本500ルピー(約500円)と非常に安く設定されていた。(ただし、この価格はシーズンオフの割引価格だ)。寝具はマットレス、シーツ、掛け布団、毛布、枕等が完備。暖房は無し。
部屋は早い者勝ちで、環境の良い部屋から順に案内される傾向があった。日当たりや眺望の良い部屋を取りたい場合は早めに目的地に到着できるようにスケジュールを建てるべし。

Namcheのロッジ、斜面に建っているので眺めが良い

5-2.食事

ロッジには食堂があり、どこに行っても豊富なメニューから食事や飲み物を選ぶことができる。1食で500-1000ルピー程度(標高が上がるほど高くなる)。部屋代が安い分、自分が泊まった宿の食堂で食事・喫茶するのがマナー。食事をしない場合は宿代が高くなると書かれているロッジもあった。
もちろんトレッキングの途中に昼食休憩等でロッジに立ち寄ることは可能。また、宿泊しているロッジで昼食用ランチボックス(ゆで卵とサンドイッチなど)を作ってもらったりもできる。したがって、食べ物の入手に困ることはまずないと言える。

スープヌードル(ゾッキョの肉入り)、大体麺が伸びている

5-3.シャワー

2週間にもわたるトレッキング中、シャワーはどうするのか。
序盤の拠点であるNamcheまでは温水ガスシャワー設備のあるロッジが多く、宿泊費に加えて追加料金500-1000ルピー程度を払うとシャワーを浴びることができる。
Namcheより上のエリアでは、充分なシャワー設備があるところが少なくなるため、ほとんどの人はシャワーを浴びない。およそ期間にして10日くらい。シャワーを浴びると、後で身体が冷えるので高山病になるリスクも高まるらしい。

え、無理。。と、行く前は思っていたが、意外と大丈夫。気温が低く、かつ乾燥しているのであまり汗をかかないのである。ただ、私は髪の毛が徐々にオイリーになってくるのが気になった。基本帽子を被っているので見た目はぎりぎりのラインを維持できるのだが、なんだかムズムズする感じがあった。そこで、天気の良い昼間の時間帯を狙って2度シャワーを浴びた。だいたいパワーがなくぬるいお湯がちょろちょろしか出ないのだが、めちゃくちゃスッキリする。
標高の高い場所でのシャワーテクニックについては、後で投稿する日別記事を待たれよ。



6.高山病

標高5000mを超えるトレッキング。高山病は一番心配な要素のひとつであった。
空気中の酸素分圧は、標高3000mで平地の3分の2、標高5000mで半分程度になる。血中酸素飽和度(SpO2)が低くなるとそれに伴い高山病の症状が出やすくなる。
具体的な症状としては、頭痛、消化器症状(食欲不振、嘔吐、下痢)、倦怠感、朦朧感、睡眠障害など多岐に渡り、重症化すると死に至る。
高山病を発症すると、基本的には高度を下げるしか治療法はないが、自分の足で下山することもままならない重度な状態の場合、救助ヘリを呼ぶことになる。救助ヘリを頼むと数十万円かかるので、必ずヘリ救助がカバーされた旅行保険に入ること。実際にヒマラヤに行くと頻繁にヘリが往来している(観光用のヘリもいるが)。

高山への耐性は人それぞれであり、あまり鍛えられるものでもないとも言われている。トレッキング出発地のLukla(標高2860m)ですぐにリタイアする人もいれば、エベレストに酸素マスクなしで登る人もいるくらいだ。

幸い、我々は特に大きな症状は出ずに旅を終えることができた。高山に強い体質だったのか、行動のペースが良かったのか、理由は定かではないが、心掛けていたことを書き留めておく。

  • 深呼吸が出来るくらいのペースで歩く。実際に高地を歩いてみると、日本の山と比べ物にならないくらい息が上がるし、足も重くなる。なので、ペースを上げすぎる心配は逆にない。ただ、油断するとすぐに小刻みな浅い呼吸になってしまう。そうならないように、できるだけ深く、肺に空気をいっぱい送り込むイメージで呼吸をするように意識していた。

  • 推奨されている高度順応のスケジュールを遵守する。1日に上げる高度は400m-500m程度とし、それ以上登る場合は停滞日をつくる。停滞日には付近の高い山に登り、高所の空気に慣れる。

  • ダイアモックス(という薬)に頼る。高山病予防にダイアモックスを朝夜半錠ずつ服用した。利尿作用が強いので夜中トイレに起きがちになる。我々は日本で入手して行ったが、Namcheとかでも買えるらしい。

  • パルスオキシメーターで血中酸素飽和度(SpO2)をチェック。父がパルスオキシメーターを持ってきていたので、朝夜の食事のタイミングでSpO2を測定するルーティーンにしていた。自分の体調を定量的に把握できるので良い。私のスコアは、Namche(標高3440m)で92%、Grakshep(標高5164m)で79%であった。このくらいの値が出ていると大丈夫らしい。現地のシェルパさんたちは、私より5ポイントくらい高い値を出していた。高地への強さが数値にも現れていた。



7.ポーター

ヒマラヤトレッキングはひとりで敢行することも可能だが、現地の方にサポートをお願いするケースが多い。サポートの種類は大きく2種、ガイドとポーターに分かれる。
ガイドは、トレッキングに終始同行し色々と案内をしてくれる仕事だ。英語も堪能で、コミュニケーション能力が高い人が多い。荷物は自分のものしか持たない。相場は1日3000円くらい。
一方、ポーターはトレッカーの荷物を持って目的地まで運んでくれる方々。シェルパ族がほとんどなので、「シェルパさん」と呼ぶ人も多い。20kg近い荷物をものすごいスピードで運んでくれる。彼らのペースで歩くので、トレッカーと一緒に歩く時間はあまりない。相場は1日2000円くらい。

我々は荷物が多かったので、ポーターさんを雇うことにした。父が9年前からお世話になっているカルマさん(写真左)に手配を頼み、親戚のおっちゃん(写真右)を連れてきてもらった。

今回の相棒のポーターさん

2人とも英語がそれなりに話せるので意思疎通で不自由はなかった。(これは珍しく、大抵のポーターは英語は片言レベルとのこと)。荷物持ちだけではなく、宿での食事の注文など現地の人とのやりとりを全面的にサポートしてくれる頼もしい存在。トレッキング中もタイミングが合えば色々と質問に答えてくれたり、案内をしてくれる。エベレストエリアの天候も熟知しているので、空の様子を見ながら適切に登山計画を立ててくれる。もはやガイド以上ではと思うレベル。



8.費用

今回の旅で1人当たりかかった費用は31万円ほど。
内訳は下記、

  • 国際線(東京ーカトマンズ往復)(Cathay Pacific):約14万円

  • 国内線(カトマンズーLukla往復):約6万円

  • ポーターさん代:約3万円

  • その他トレッキング諸費(食事、宿泊、入山フィー等):約5万円

  • カトマンズ滞在費:約3万円

飛行機代を除くとトレッキング期間中は1日5000円以下で活動できている計算になる。

ちなみに、トレッキング中は基本的に現金支払いとなるので、カトマンズで現金を入手しておく必要がある。LuklaやNamcheでもATMはあったがそれ以上の場所では現金の入手は不可能。




だらだらと書いてしまったが、概論は以上。

日別の記録や持ち物について、後で詳述していく予定。
乞うご期待。



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