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豚提督オジャム-サイレント ネオ-ムーン ソング

巨躯(きょく)、武装商船(ぶそうしょうせん)、豚舎(とんしゃ)、北閥(ほくばつ)、10将(じゅっしょう)、

上記もご覧ください!

主な登場人物
オジャム…ソデの息子、大飯ぐらいで太った少年。カイバの提督にまつりあげられるが、口をきくことも許されず、実権を持たないお飾りの提督。
人々はその容貌から「豚提督」と陰口をたたいている。

ソデ…オジャムの父親で、シャギ党と共謀して提督の座を強奪した。
金に目がない政治家。

シャギ…西の砂漠で大暴れしていたシャギ党のボス。極悪非道で通るシャギ10将を率い、いつも仮面をかぶっていることから仮面騎士と呼ばれることも。カイバの名門、コンクリオン家を滅ぼしたのもシャギ党だった。

サシャ…オジャムと後に出会う5歳の少女。

皆さんはオジャムという人物を覚えているだろうか?
オジャムはカイバを乗っ取った父親ソデに変わり、提督についた人物である。
提督といっても実は名ばかりで、実権は父親のソデと、筆頭将軍であるシャギが握っていた。
カイバの名門だったコンクリオン家は悲劇的な結末を迎えたが、その後はソデとシャギによる2頭政治のような形になった。
しかし、それはうまくいかず、やがて両陣営は敵対するようになっていった。


オジャムは常に提督の椅子に座り、一言も話すことなく朝議を聞いていた。
勝手に話してはいけないと、きつくソデに言われていたからだ。
あまりの退屈さから眠ってしまうと、屋敷に帰って父親に容赦なく折檻された。
だから、オジャムは退屈を持て余しながらも、叩かれるのが怖くて目をカッと見開いていた。
その様子があまりに滑稽で「豚提督が今朝も大きなまなこを見開き、面くらっている」と家中の者はかげ口を叩いていた。

豚提督とかげ口を叩かれるオジャムにとって唯一の自由は好きなものを食べまくることだった。
オジャムはカイバはおろか、月歌全国から取り寄せた贅沢なものを貪り食うのが趣味で、非常に太っていたのである。
医者からはこのままでは命が危ないといくら諭されても、食べることをなかなかやめられなかった。
また、胴長短足の家系であるため、豚提督というあだ名がついてしまったのだ。
そんなオジャムのことを皆はばかにこそすれ、情を寄せる者は1人もいなかったのである。

実のところ、オジャムは少々頭が足りなかった。
だから、父であるソデは自分が実権を握るために、オジャムを提督に据えているのにすぎないのだ。
オジャムの唯一の願いは退屈でしかない提督の椅子をぶち壊し、「余は提督である。頭が高い、控えよ!」と宣言して、家臣をひれ伏せさせることだった。
しかし、オジャムを提督とみなすものはおらず、オジャムは朝議で一言も発する機会はなかったのだ。

カイバ一の実力者と言われるまでとなったシャギは、そんなオジャムのことを心底馬鹿にしていた。
ただ、馬鹿にこそすれ、実害がないため利用しようとしていたのである。

このような折、カイバへの影響力を強めたい北閥は、シャギとの結びつきをさらに強めていた。
北王フィヨルド3世は、惜しげもなくシャギ党に資金援助をし、時には最新鋭のCAも送った。その中にはこの時期、非常に稀少性の高いとされる高機動パンツァーも含まれていた。
シャギはいたく感激し、北王のことを「北のオジキ」と呼ぶまでになっていたのである。
北閥の援助を受けて力を強めていたシャギは、いよいよ提督の座がほしくなっていた。
何かと楯突くソデが、目障りだったからである。

しかし、ソデはソデでシャギ党の動きに気付いていた。
ただ金に強欲なだけの男ではなかったのである。
ソデは挽回の一手として、ムーンキングダムのシャローンに連絡を取るようになった。
そして、提督のオジャムを押し立て、旧臣を率いてシャギ党を打つ段取りをとりつけた。当然、シャローンが軍を率いてくる前提であった。

だが、すでに家臣から愛想をつかされていたソデの動きは、シャギ党の知るところとなったのである。
「あの強欲の狸爺が! 誰のおかげでバカ息子が提督になれたと思っているのだ!」
シャギは大いに怒った。
そして、ついにはソデを抹殺することに決めたのだった。

翌日の早朝の朝議でのことである。時間になってもシャギ党の姿は政庁になかった。
不審に思うソデであったが、居合わせた者だけで会議を開くことにした。
しかし、大臣たちはうつむいて口さえきかない。
「大臣がた、何をしておるのじゃ。さあ、さあ、早く各自報告をしなされ」
ソデが手を叩いてうながすが、誰も口を開かない。それどころか、意を決したように立ち上がり、1人、また1人と会議の場から去っていく。
「な、なにをしておる! 提督閣下の前で無礼であろう! 貴様ら、職務を何と心得る」
ついには、会議の場にオジャムとソデしかいなくなった。
「いったいどうなっておるんじゃ。この大事な時期に…」
すると、1人の警護兵が駆け足でやってきた。
「ソ、ソデ様、大変です。シャギ党が兵を引き連れて…」
警護兵はそれだけ言ってバタリと倒れた。腹部に銃弾がめりこんでいたのだ。
「あわわわ…」
腰をぬかすソデとオジャム。
窓を見下ろすと、政庁の周りをCAの大軍が取り囲んでいた。

そこに10将を引き連れてシャギがやってきた。
「これは、これは、オジャム閣下とソデ大臣、ご機嫌はいかがでしょうか。どうも顔色がよくありませんな。どこがお体の具合でも悪いのでしょうか」
しらじらしくシャギが言う。
「ソデ様、朝議に遅れたことお詫びいたす。さあ、早速始めましょう。議題はそうだな…」
とシャギが首をかしげる。
すると、参謀のマーバイムが前に進み出て言った。
「シャギ様、次の提督に誰がつくかという議題はいかがでしょうか」
それを聞くと、シャギは愉快そうにクックと笑い、大きくうなずいた。
「それもよかろう。さあ、ソデ大臣、この議題で話をしましょう」
「な、なにを言うか…提督はオジャム閣下が生きている限り、変更などありえぬ…」
ソデがそう言い終わるやいなや、シャギは愛刀を抜いた。

「ほう、オジャム閣下が生きている間はと申されるか…」
シャギは一度はオジャムの方を向いたが、すぐにソデに向き直った。
「しゃ、シャギ、貴様は受けた恩を忘れたのか!?」
ソデが叫ぶが、シャギには何も響かない。
「恩…恩とは、何とも…」
シャギはため息をつくと、ゆっくりとソデに近づいていく。
巨躯の仮面騎士が、ぶるぶる震えるソデを見下ろしている。
「いつお主がワシに恩を売ったというのか!? いつも血を流すは我がシャギ党のみ。貴様のように都合が悪い時は陰にかくれて、裏でこそこそする狸などに恩を受けた覚えはないわ!」
「しゃ、シャギ…本気でそう言っておるのか!?」
「・・・お主はムーンキングダムの小娘と連絡を取っているそうではないか!?」
ソデはそれを聞くと顔色をさっと変えた。
「お前のような文官ふぜいが、我がシャギ党と対等に戦えると思ったか!?」
シャギはそういうとソデを蹴り飛ばした。
「ぎゃ!」
と悲鳴をあげたソデは、壁に叩きつけられた。

生きた心地もしないソデは赤ん坊のようにはって近づくと、ついにはシャギの足にしがみついた。
「シャギ…いや、シャギ殿、シャギ様…どうか、命だけは…」
シャギは不気味なほど冷たい目で、ソデを見下ろしている。
「わ、わかり申した。提督の座は、シャギ様にお譲りいたします。どうか、どうか、お許しを…我が息子、オジャムはシャギ様のお好きなようにして結構です」
「ほう、ワシが提督になることに不服はないと申すか」
「もちろんですとも…実を言えば、私はいづれシャギ様に提督の座をお譲りするつもりでした。それが、予定より早くなってしまって、はは…」
ソデが作り笑いすると、シャギが「なるほど、それならこのような大層なことせずにすんだの」と言って大笑いした。
すると、シャギにつられて10将も笑い声をあげた。
「では、これからワシを提督としてあおぐのだな」
「もちろんです」
ソデはよろよろ立ち上がると、手でごまをすりながらうなずく。
「なるほど、ならば、まず提督として最初の命令を下さねばならんの」
「なんなりとおっしゃってください!」
ソデがほっと息をついたのも束の間…
「ソデ、貴様を死刑といたす」
「…え!?」
「ソデよ、ワシはお主のような輩が反吐がでるほど嫌いでの。自分の手を汚さず権力を握り、心にもないことを平気で口にするような奴がの」
「しゃ、しゃ、シャギ様、御冗談を…どうか御慈悲を」
ソデは再び腰を抜かした。
「ああ、慈悲はかけてやろう、今までのつきあいもあるで。本来ならば、はりつけにして八つ裂きにするつもりじゃったが…」
シャギは抜いていた刀を一閃、ソデの首を切り落としてしまった。
「これが、ワシができる唯一の慈悲じゃて…」
ソデの首はごろごろと転がり、提督の椅子に座るオジャムの足元で止まった。

呆然と口をあいている哀れなオジャム。現実かさえ理解できていなかったのだろう。
「マーバイム、この豚提督の始末はどうつけようか」
シャギは愛刀を持ったまま尋ねた。
「閣下、謹んで申し上げます。ご覧の通りオジャム様は、ふぬけでござます。
閣下が手を下して世のそしりを受けるより、身ぐるみをはがして無一文にし、カイバから追放するのが吉かと存じ上げます」
「追放じゃと…のちのち邪魔にならぬか…」
「閣下ともあろうお方が心配しすぎです。オジャム様を押し立てて、閣下に刃向う者がおりましょうか。
オジャム様を野に放てば、おそらく2日か3日でのたれ死にするのがおちであります」
「そうか、それもそうじゃの。このような豚提督を切り捨ててワシの刀を汚したところで、得るものは何もないの。
砂漠の真ん中にでも捨てておけば、勝手に野垂れ死にするわいな」
シャギはそういうと大きな声をたてて笑った。
オジャムは悪夢のような光景を前に、口をあけたままぼんやりするよりなかった。

その後、シャギはソデに近かった旧臣を朝議の場に呼び寄せ、有無を言わさず次々と処刑していった。
そのむごさは、シャギ党の兵士でさえ吐き気を催すほどだったという。
その間、オジャムはただ提督の椅子に座り続けていた。
オジャムは父親のソデに命令されなければ、何一つできなかったのだ。
後始末が片付くと、シャギがやっとオジャムの存在を思い出した。
「うむ、いったいこの豚提督は、何を考えておるのか!?」
シャギはじっと座っているオジャムの前に行くと、上から見落ろした。
そうして、マーバイムの方を振り向き、
「やはり、この痴れ者は殺す方が世のためかの」
とたずねた。
「…」
マーバイムも返答をしかねていた。
「オジャム、貴様は何か言いたいことがないのか。貴様の親父はすでに死んだ。お主は自由だ。ワシが許そう、話してみよ!」
シャギがうながした。
すると、何ということであろうか。
オジャムが、一同を見回したかと思うと、おもむろに口を開いたのだ。
「余は提督である、頭が高い、控えおろう!」
オジャムは恐ろしい父親がいなくなり、もう黙っていなくていいと勘違いしたのだろう。
実際はこのような状況で口走った言葉は、狼の群れに肉を持って飛び込んでいくような恐ろしいものだった。

しかし、これにはシャギ党の一同も面食らった。オジャムの言葉を初めて聞いたからだ。
シャギも仮面の下の細い目を、大きく見開いて驚きをかくせなかった。
「オジャム、残念ながらもうお前は提督ではない。さっさと提督の椅子から降りるのがよかろ」
「余は提督である」
オジャムは一歩も引かなかった。それどころか、ついに念願の号令をだし、「僕は偉い、提督なのだ!」と高揚感に浸っていた。
「ほう…で、提督閣下はいったいどうするおつもりじゃ?」
シャギの声を受けると、オジャムはすくっと立ち上がり、座っていた椅子を踏みつけた。
さらに、壁に投げ飛ばし、壊れた所を踏みにじってこなごなに壊してしまった。
これは、シャギ党からすればオジャムが不満を現し、提督の椅子をぶち壊したようにしか見えなかった。
マーバイムと10将が固唾をのんで2人を見守る。
だが、シャギはそれをみるとカラカラと大笑いした。
「なるほど、豚提督でも気概というものを少しはもっていたようじゃの。今日はいつにもまして機嫌がよい。とっとと余の前から姿を消すがよい」
こうしてオジャムは身ぐるみをはがされたあげく、すべての財産を没収されて、西の砂漠の真ん中に置き去りにされてしまった。

無一文になったオジャムはボロ衣をまとい、砂漠の真ん中に捨て置かれた。
極悪非道で通るシャギ党の兵士も、オジャムの落ちぶれようをあまりに憐れに思ったのだろうか…シャギのいいつけを破り、ボトル1本の水と黒パンが2つ入った布袋を置いていった。
オジャムが置き去りにされた西の砂漠地帯は、シャギ党の兵士が慈悲深くなるほど、恐ろしい場所であった。
すなわち、昼は50度まで気温が上がるが、夜は氷点下にまでさがっってしまうのだ。
何の土地勘もないオジャムはここを1人、1本の水とパン2個だけで突破しなくてはならないのだ。

オジャムはよたよたと暑い日差しの中、カイバを目指して歩き始めた。
といっても、全くのあてずっぽう、目印は何もなかった。
360度見渡す限り、陽に照らされた砂漠が広がっているだけだ。
すでに持っていたボトルの水はほとんど残っていなかった。
「おーい」
オジャムはためしに叫んでみたが、もちろん返事などない。
砂塵を巻き上げる乾いた風の音がするばかりだ。


それでも何とか歩き続け、大きな岩を見つけてその陰に隠れるように座り込んだ。
残りの水を飲みほし、硬い黒パンをかじる。
水気がないので、飲み込むこともままならない。
生活力が全くといってないオジャムの運命は、ほぼ確定していた。
つまり、シャギがいうように2,3日で野垂れ死にして、砂漠で骨となるということである。

オジャムは岩陰に寝転がると、もう何の気力もなくなってしまった。
砂漠に吹く乾いた風が、みじめなオジャムの耳に悲しく響く。
思えばあまりに哀れな運命と言えよう。
オジャムはゆっくりと目を閉じた。

それから、どれくらいたったのだろうか。
砂漠を照らす太陽は橙色に変わり、間もなく暗い世界が訪れるだろう。
水がなくなったオジャムは、もう息もたえだえ、動く気力もなかった。
砂漠の甲虫がオジャムの顔をするする歩くが、何の反応も示さない。
こうして、あまりに悲惨な人生の最後を、オジャムは砂漠の真ん中で迎えるのであろうか!

いや、実際はそうではなかった。
何という幸運だろう。
地上をいく小型の武装商船が、オジャムの方に近づいてくるではないか。
オジャムは音を聞くと、ぱっちりと目を開け、どこにこれほどの力が残っているのかというぐらいの元気が湧いた。
そして、一目散に商船の方に走り出したのだった。
オジャムはわかっていたのだ。
これを逃せばあの世行きということが。

一隻の武装商船は闇にそなえ、すでにライトを照らしていた。
そのライトの先にぼろ衣をまとったオジャムが、手を振りながら狂ったようにかけてくる様子が映し出された。
武装商船は驚いて急停止した。
オジャムはよだれをたらし、目を大きく見開き、砂だらけの顔で立ち止まった。
武装商船をあやつる2人の商人は…1人はひげをはやしており、もう一人は目つきが悪い中年の男たちだった。
2人は顔を見合わせると、首をかしげた。
「どういうことだ、砂漠の真ん中に妙な身なりの太った小男がおるぞ!」
ひげの商人が言った。
「そうだのう、砂漠で野たれ死んだ亡霊ではあるまいか!」
目つきの悪い商人が震えながら言う。
「馬鹿をいえ! あの身なりを見ろ。きっと乞食のたぐいだろう」
「し、しかし、なんで乞食がこんな日が沈む砂漠の真ん中にいるというのか」
目つきの悪い男の問いかけに、ひげの男が再び首をかしげた。
「それもそうだのう…まあ、あんなものは相手にしない方がよかろう。ほっておこう!」
ひげの商人は再び武装商船を走らせようと、動力を上げる。
だが、これを逃せば後がないオジャム、動き出した武装商船の一部にしがみついたのだ。
最初は気付かなかった武装商船の2人も、オジャムが船にぶらさがっているのを見て驚きあきれた。
また、このような往生際の悪い奴ならば、何かたしになるかもしれないと思い直したのだった。

武装商船は止まり、銃を持ったひげの男が降りてきたのである。
「おい、お前は何者だ…」
ひげの商人が銃口をオジャムに向けた。
オジャムはごくりと生唾を飲んでから、大きなを出した。
「余は提督である! ひかえおろう、頭が高い!」
これを聞くとひげの男は頭をぽりぽりかきながら面倒くさそうに言った。
「哀れな奴じゃ、暑さで頭がおかしくなったようだ。まあ、しかし、ものはついでだ。特別に船に乗せてやる。運が良い奴だ」
ひげの男はそういうと、オジャムを武装商船に招き入れた。
こうしてオジャムは、目の前の窮地から脱したのだった。
しかし、これには理由があった。

武装商船に乗り込んだオジャム。中は空調も整って涼しく、まるで天国だった。
しかし、オジャムは歓迎されるはずもなく、すぐに船の中の狭い一室に押し込められた。
そこには10人の子供がおり、泣いている子供、うつむいている子供、目を閉じて動かない子供など様々な表情があった。

オジャムは部屋の片隅に腰を下ろすと、与えられたポットの水をガブガブと一気飲みした。
それから何か言おうとしたが話しかけれる雰囲気ではなく、部屋はすっかり静まり返って誰1人も口をきかない。
実を言えばこの子供たちはさらわれたか、売られたかした子供たちだった。
そう、この2人の男は人買いの悪い商人だったのだ。
つまるところ、オジャムは人買いにつかまり、どこかに売られることになってしまったのだ。
窮地を脱したどころか、さらなる窮地に追い込まれたのだ。
しかし、そんなことは思いもよらないオジャムは、水を飲むと元気も少し戻り余裕が出た。

外からはわからなかったが、部屋にある大きな窓はマジックミラーになっていた。
人買いの船だから、当然、外から中を見られたらまずいわけだ。
子供たちはオジャムに全く関心を示さなかったが、とりわけ小さな5歳くらいの子供が1人いて、この子供だけはオジャムをじっと見ていた。
オジャムは指をくわえながら自分を見る子供に狼狽して言った。
「余は提督である…」
とオジャムは強がった。
「ていとく…」
子供が言った。
「そう、提督だ…とっても偉いんだぞ!」
「えらい? どれくらい?」
「え……」
オジャムは困ってうろたえていたが、手を横にいっぱいに広げた。
「こーんなに偉いんだぞ!」
すると面白がって、子供も同じように手を広げた。
「こーんなにえらいの!」
「うん、そう、そう。本当に偉いんだぞ」
オジャムは得意げに言った。
「ねえ、なんで、へんなかっこうしてるの?」
子供はオジャムのぼろ衣を指さして言った。
とたんにオジャムは恥ずかしくなって、顔を赤くする。
「こ、こ、これは…その…」
オジャムは困って話題を変えた。
「僕はオジャムって名前なんだけど、君はなんて名前なの?」
「わたし…わたしは”サーたん”」
「サーたん?」
「そう”サーたん”…」
「ああ、さっちゃん!」
オジャムがいうと、子供はうれしそうに笑って拍手した。
「そう、サーたん、サーたん」
オジャムがさっちゃんと呼ぶこの子供は、サシャという名前だった。
「よし、さっちゃん、君を家来にしてあげよう。これはとっても名誉なことなんだよ!」
オジャムが調子に乗って言った。
「けらい? めいよ?」
サシャが首をかしげた。
「そう、家来になる!?」
「けらいになると、どうなるの?」
「え…そうだね、とーってもいいことがあるよ、きっと」
「ほんと…なら、いいよ」
サシャは何のことかわからずにあっさり承諾した。
しかし、オジャムは大喜びして手を叩き、
「君が新しい家来、第1号だ! 第1号だ!」
と飛び跳ねて叫んだ。
このようにオジャムは、小さな小さな家来を1人見つけることができたのだった。

それから、外はすっかり闇に包まれ、サシャを始め他の子どもも寝息を立て始めた。
しばらく、オジャムは窓から砂漠に浮かぶ星々をぼんやりと眺めていたが、いつの間にか眠ってしまった。

オジャムが目を覚ますと、もう窓の外は緑がある草原に変わっていた。
商船は砂漠を抜けて、リムリの国境を走っていた。
リムリは水の都と呼ばれる水に恵まれた豊穣な土地と鮮やかな田園が広がる小型都市だ。
何でも最初に入港した人々は地球の欧州というところからやってきたそうである。
そのため、白い壁に大小の三角屋根がある建物が目立っている。
川の近くにある家々には水車があって、くるくると回っていた。
何とも雰囲気のある都市で、ムーンキングダムからの観光客も多いという。

商船がしばらく行くと肥沃な農園地帯が広がり、太陽が麦を黄金色に染める。
涼しげな風がふくたびに、黄金色の麦が気持ちよさそうに揺れている。
実を言えばオジャムは、カイバから一歩も出たことはなかった。
しかも、屋敷と政庁を往復するだけの日々だった。
そのため、悲惨な状況であるはずなのに、まるで旅行をしているかのような楽しい気持ちになっていた。

船はリムリを南東に進んでつっきると、ムーンキングダムとリムリの国境地帯にさしかった。
ここは放牧業が盛んな場所で、いたるところで馬や牛、羊などを放し飼いにしていた。
そこからしばらく行くと、今度はうってかわってうっそうとした森にさしかかった。
ここはバンシーの森と呼ばれる不吉な森で、近くの市民たちも恐ろしがって近づくことはなかった。
この森をだいぶ奥に進むと、ついに武装商船は動きを止めた。
目的地についたのである。

うっそうと生い茂る暗い森の中に不自然に現れたのは、要塞のような建物だった。
灰色のぶあつい壁で囲まれており、まるで監獄にさえ見える。
もちろん、オジャムはこの施設がなんなのか全く知らなかった。
それどころか、武装商船の2人の人買いも、詳しくは何なのか知らなかったのである。
わかっていることは、この施設では10歳~18歳までの子供を、やたらと集めているということだけだった。
しかも、恐ろしいことに、ここに入って出てきた者は1人もいないと言われるいわくつきの建物だったのである。

ひげの商人はオジャム以外の子供をひきつれて、外に出ていく。
子供たちはみんな背を丸めて、とてもさみしそうに出て行った。
いつも人差し指を加えているサシャもつれていかれる。
サシャはじっとオジャムを見ていた。
オジャムは立ち上がって「さっちゃん!」と手を伸ばしたが、どうにもならなかった。

窓の外には軍人が何人もいて、子供たちを順番に数えて、ゲートの中に招き入れていく。
しかし、サシャだけはゲートの前で止められて、中に入れずに立っていた。
「上出来だ、しかし、この子供はあまりに小さすぎる。10歳以上というのが決まりだ」
軍人たちの上司らしきかっぷくの良い男がひげの商人に話しかけた。
「申し訳ございません。何分、子供を集めるのもなかなか難儀でして…しかし、この子は素性は申し上げられませんが、それはいい身分の子供です。ええ、間違いありませんよ!」
ひげの商人はすっかり軍人の前では態度を豹変させ、下手に出てへいこらしている。
「ほう…しかし、まだ5,6歳であろう…研究には不向きだ、この子はとても耐えられない。連れて行け」
「分かりました。しかし、子供集めには銭がかかります。どうか、約束通りお金は払っていただければと…」
ひげの商人が両手を差し出した。
「ふん、二言目には金、金、金…どいつも、こいつも、同じことばかりいう」
不機嫌そうに軍人が吐き捨てる。
「へえ、申し訳ありませんね、旦那。しかし、こちとらも生活して、家族を養わねばなりませんで」
「…仕方あるまい。しかし、10人という約束は守っておらん。報酬は半分だ」
軍人が言うと、ひげの商人は驚きと怒りを隠せなかった。
「そ、それはあんまりですぜ、旦那! ここまでの輸送費やら子供を手に入れるのにかかった費用、半分ではこちらが大赤字ですよ!」
「しかし、約束は約束だ…」
「そんな……そうだ、もしものことを思って、とっておきを用意しておきました。おい!」
ひげの商人がいうと、目つきの悪い男がオジャムを部屋から連れ出した。

「旦那、ごらんください。この肥えよう。こう見えても、なかなかしぶとそうな子供でしょう。砂漠の中をさまよっているところを引っ掴まえました。
本来なら奴隷として売り払う方が高く売れるでしょうが、今回は特別ですぜ! 煮るなり焼くなりしてください。きっといいだしが出ます!」
などと、ひげの男が不吉なことを次から次へと口走った。
軍人はじろじろと足元から頭に目をやり、オジャムの品定めをし始めた。
「ふーむ、年齢は?」
オジャムではなく、ひげの男が間髪入れずにこたえる。
「歳は17歳です。ええ、先月17歳になったばかりですとも」
「なるほど…それで、名前は…」
「え、名前ですか…名前はその、えーと…」
とひげの男が慌てる。
「…まあ、いい。ここに入れば名前などあってないようなものだからな」
軍人は子供の多くが売られてくるのを知っているので、それほど名前を重要視していなかった。
「それで、お前は今まで何をしていた?」
軍人がオジャムにたずねる。
「えーとですね、こいつは…」
とひげの商人が間に入るが、
「貴様に聞いておらん、黙れ!」
と軍人が怒鳴った。
全員の視線がぼろ衣をまとったオジャムに集まった。
オジャムは大きく息を吸うと、
「余は提督である、頭が高い、控えおろう!」
といつもの決め台詞をはいた。
すると、軍人はあきれて言った。
「この子はだめだ。どうみても、頭がおかしい。これでは実験に使えん、連れて行け。報酬は7割とする。これが不服なら、この場で貴様らをつかまえて豚箱にぶちこんでもいいのだぞ!」
有無を言わさない口調の軍人。
商人はすごすごひきさがり、7割の報酬を受け取らざるを得なかった。

商船に戻ると、明らかに2人の男は機嫌が悪かった。
7割の報酬では儲けがほとんど出なかったからだ。。
それもこれもオジャムのせいだと、2人は憎しみの目を向けていた。
「このデブにしろ、チビにしろ、ついてねえや」
「本当そうだ」
「チビなんざ相当危ない橋を渡って捕まえてきたというのに…無駄骨だ! 名家のガキをつれてきたら、高く買うと言ってるくせに、実際は買い叩きやがる!」
ひげの男が吐き捨てる。
「ああ、そうだとも。あいつら何をしてるかしらんが、どうせ子供は生きて帰らないという噂だぜ。年齢や頭の中身なんざ関係ないではないか!」
目つきの悪い商人も怒りを隠さなかった。
そうして森をぬけたところで、オジャムとサシャを商船から叩きおろし、
「とんだ疫病神だ! 骨折り損のくたびれ儲けとはこのことだ。お前みたいな本当のバカはどこにでも行くがよい。ああ、きっとお前は行き場をなくして、野垂れ死にするのが関の山だろうがな!」
2人の商人は吐き捨てて去って行った。
こうして、再びオジャムは宿無し、無一文に戻ってしまったのである。
途方に暮れるオジャムの後ろで、たった1人の小さな”家来”サシャも指を加えて立っていた。


オジャムとサシャは森の入り口で途方に暮れていた。
そうこうするうちに、空はオレンジ色に染まり、夕日が沈んでいく。
仕方なくオジャムはサシャの手を引き、行くあてもなく歩き始めた。

「ああ、まいったな僕たちは宿無しだ」
オジャムがほっとためいきをついた。
「やどなし?」
サシャがたずねる。
「ああ、宿無しだよ。今日はどこに泊まればいいんだろう…」
二人が歩いているうちに、空には星々が現れ、まるで互いが連絡を取り合っているかのようにチカチカ光っている。
「ねえ、オジャム。わたしつかれた」
サシャはそういうと、その場に座り込んでしまった。
「ダメだよ、さっちゃん。こんなところにいたら、野犬や狼に食われちまうよ」
「でも、もう、つかれた。あるけない。オジャムひとりでいって…」
サシャはすっかり参っていた。ほんの5歳の子供だから無理もないだろう。
それでもこの我慢強い子供は、泣きべそをかいたりはしなかった。
「さっちゃん、がんばって歩かないと、こんなところにいたら恐ろしい目に遭っちまう! 人買いだっているかもしれない」
2人はすっかり困ってしまった。
そうこうするうちに、遠くでワオーンと野犬の鳴く声が響いた。
早いところ寝床を確保しなければ危険だった。
「仕方ないな…家来の君を提督の僕がおんぶするなんて、あべこべだけど…特別だぞ!」
オジャムはサシャを背負うと、再び歩き出した。
「オジャムのせなか、あったかいね…パパのせなかみたい」
サシャがオジャムの背中に顔をうずめてうれしそうに言う。
「サシャのパパはどこにいるんだい?」
「パパ…もう、いないよ、すこしまえにしんじゃった…」
「そう…ママは?」
「ママももういない」
「そう…僕とおんなじだ」
オジャムは一瞬立ち止まって、ぼそりと言った。


少し行くうちに、サシャはオジャムの背中ですっかり寝息をたてていた。
オジャムはもくもくと無言で歩く。
それから1時間もすると、遠くに明かりが見えてきた。
森からはだいぶ離れているが、それでも一番近くにある小さな村が見えてきたのだ。
そこは牧畜業を営む農夫たちが住んでいる村だった。
家から照らされるほのかな明かりを頼りに、オジャムは村に入っていった。

外には人が誰も歩いておらず、閑散としていた。
オジャムは家々をたずねてドアを叩くが、ほとんどが無視された。
たまに返答が返ってくるが、「あの、ぼくは提督です。どうか一晩泊めてください」
とオジャムが言うと、返事は帰ってこなかった。
結局、どの家もドアさえ開けてくれなかった。
それでもあきらめずに村の奥に進むと、小高い丘がありそこを上るとポツンと一軒家が建っていた。
そこはゴサクという農夫の家だった。
オジャムが家のドアを1度、2度……3度と叩いた。
すると、ドアを開けてくれた。

そこにはいかにも農夫という感じに日焼けをし、麦わら帽子をかぶったゴサクが腕組みをして立っていた。
「なんだ、おめえは、物乞いか?」
「いえ、僕は提督です。どうか一晩泊めてください」
「提督だって! こんな夜更けに、そんなぼろ衣をまとって家をたずねる提督がどこにあるか!」
ゴサクはバケツに入っていた水をオジャムにぶっかけると、怒ってドアをぴしゃりと閉めてしまった。

ぽたぽたと頭から水が垂れるオジャムは、いつにもましてみじめな気持になっていた。
しかし、サシャのことを考えると、夜露をしのぐ場所を見つけなくてはいけなかった。
辺りを見回すと豚舎があった。
ゴサクの敷地にある豚舎で、20数匹の豚が飼育されていた。
オジャムはその豚舎に連なる干し草置き場を見つけた。
屋根もあって、夜露をしのげるだろう。
オジャムは寝ているサシャを干し草の上におろし、草を体にかけてやった。
そうして、自分もごろりと寝転がり、あまりの疲れからすぐに眠ってしまった。

次の日の早朝…
「おきろ、おきろ!」
オジャムはゴサクの大声で目を覚ました。
目を開けるとすごい剣幕をしたゴサクが、苦虫をかみつぶしたような顔でオジャムをにらんでいた。
「とんだ提督だ! この物乞いめ! 勝手に忍び込んで、眠るやつがあるか!」
ゴサクが叫ぶと、豚舎の豚たちが驚いていっせいにぶひぶひと鳴き出した。
オジャムは申し訳なさそうにうつむくばかりだ。
「お前みたいなもんは、軍隊につきだしてやる!」
ゴサクが怒っていると、ゴサクと2人だけで住んでいる母親オネがやってきた。
オネは目がほとんど見えず、歩くのも難儀という感じで足をひきずっている。
「これ、ゴサク…朝っぱらから何さわいどるだ!」
「おっ母か、いやな、昨日の夜更けに提督とか言ってたずねてきた物乞いが、勝手にしのびこんで干し草の上で寝てたんだわ!」
「おやまあ…」
オネはゆっくりと近づき、目を細めてオジャムを見た。
それから、「あはは」と笑い、
「ゴサクや。よー見てみ。まるで豚のような顔をした子供でねえか!」
「あんだと!?」
ゴサクは変な声を出した。
「わしらは豚のおかげておまんま食えとるでねえのか」
「そ、そうだけども…おっ母、何がいいたいだ!?」
「豚のようなこの子は、なんかの縁でここにいるんでねえか!?」
「またおっ母の宗教が始まった」
ゴサクは呆れて言う。
しかし、オネの言うことに何かを感じたのだろう。
ゴサクはオジャムに顔をじっと近づけて、まじまじと見つめた。
「なるほど…よくみりゃ見るほど、豚のようだのう。豚と思えば人と思え、人と思えば豚に見える、こりゃ不思議だべ」
「これは怪異でねえか。あんまり粗末にするのも考えもんだど」
オネが神妙に言う。
ゴサクは腕組みをして、すっかり考え込んでしまった。
すると、干し草の中で眠っていたサシャが目を覚まし、顔だけひょっこり出した。
これにはゴサクもオネも大いに驚いた。
「これは驚きだ! 小さな子供が草から生まれた!」
オネがカラカラと笑って言った。
「おっ母、冗談もたいがいにせえ……それにしても、こいつらいったいなんなんだべ」
ゴサクも驚き呆れている。
「なあ、ゴサクや。うちはお前とオラの2人暮らしだ。子供2人くらいなら何とかなるべ。それに人手も足りん。宿無しの哀れな子じゃで、おいてやったらどうか?」
「おっ母、こんな素性も怪しい子らを家に置いたら、何があるかわからんど…それに、おれら2人だけでも食うのがやっとというのに…」
草から顔を出したサシャは、ニコニコ微笑んでいる。
草の中に眠るなど初めてだったし、とっても楽しい気持ちになっていたのだ。
すると、ゴサクはすっかりそのかわいらしい笑みから目が離せなくなった。
「ま、まあ、家にはおけねえが。物置にしているプレハブ小屋ならいいかの…人手も足りねえし、豚舎の掃除くらいはできるべえ」
ゴサクはうなずいた。オネはサシャに向かってにっこり笑い返すと、家に戻って行った。
こうしてオジャムとサシャは、ゴサクの庭にあるプレハブ小屋に住めることになったのだった。

プレハブ小屋は、薄い布団と小さなテーブルだけが置かれた質素な建物だった。
それでも、泊まる場所もなかったオジャムたちには充分だった。

オジャムはその日から豚舎の掃除やえさやりが任された。
労働というのもの知らないオジャムだったが、とにかく一生懸命働くしかなかった。
というのも、さぼってしまえば、オジャムだけでなくサシャも追い出されてしまうからだ。
オジャムはサシャの分もと悪戦苦闘しながら、必死に働いたのだ。

労働の後の食事はとても粗末なもので、野菜くずの入ったスープと黒パン、ゴサクが飼育している山羊の乳だけだった。
1日2食で、バターやチーズがつくのはまれだった。
それでも、働いた後に食べる食事は、何とも言えぬおいしさだった。
月歌中のおいしいものを食べまくっていたオジャムだったが、過去に食べたどんなものよりおいしいと思った。

カイバで好きなものを貪り食う日々は、虚しさや寂しさを何とか紛らわせようと誤魔化してきただけにすぎなかったのだ。
だから、どんなに食べても満たされなかったし、いつまでたっても足りなかった。
1人でむしゃむしゃ食べるオジャムを、周りの家来がうらやましそうに、また侮蔑した目で見ていた。
オジャムはそんな視線に気づくこともなかったし、家来のことを気にかけて分けてやることもなかったのだ。

しかし、プレハブ小屋ではサシャと一緒に食べることができた。
オジャムがあっというまに平らげた横で、サシャはまだ半分も食べていない。
オジャムはごくりと喉を鳴らしながらサシャの食事を見つめる。
今食べたばかりというのに、お腹の虫がもう鳴いている。
「どうしたの、オジャム?」
オジャムの視線に気づいてサシャが尋ねるが、
「う…ううん、何でもないよ、ゆっくり食べるんだよ!」
オジャムは自分のことを棚に置いて、そう注意しては「そういえば僕はすぐ食べちゃうな」と頭をかいた。
大食らいのオジャムにはとても足りない量だったが、オジャムは満足していた。
サシャが幸せそうに食べる姿を見ると、何とも心が満たされた気持ちになるのが不思議だった。

食事も終わり少したつと、サシャはいつものようにスヤスヤと寝息を立てる。
毎晩、サシャに布団をかけてやるのもオジャムの日課だ。
すると、サシャが寝言を言った。
「むにゃ、むにゃ、オジャム……けらいになって、いいことあったよ!」
オジャムはそれを聞くと、何とも幸せな気持ちになっていた。

そして、いつものように、オジャムは外に出て夜空を眺めた。
オジャムは何ともいえない表情…つまり、泣きそうな、悲しそうな、うれしそうな表情で、長い時は1時間も空を見ていた。
それから「ああ、明日も早く起きないといけない。寝坊したら親方にどやされる」と思いだし、そそくさと小屋に戻っていった。
小屋に戻るとサシャの布団を改めて直してあげてから、オジャムも布団に入って目を閉じるのだった。
こうしてオジャムは、新しい人生を見つけたのだ。小さな家来サシャと共に…。

豚提督オジャム編 終


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