難しい判断4(最終)-サイレント ネオ-ムーン ソング

「グリフォン、貴君の申し出は頼もしいが、今キングダムに援軍を出す余裕はない」
「と、いうと…」


グリフォンは下からのぞきこむようにシャローンをうかがっている。
「キンコムの叔父上には援軍を出せるかお願いをしてみるが…キングダムは兵を出すことができぬ。
援軍を出せば、北門、南門が示し合せ、南方のモーリス党を手引きいたすであろう、そうなれば、キングダムは危機に陥る」
これはシャローンにとっても苦渋の選択であった。
本来ならば全軍を率いてでもルーゼンフェルムに向かいたいのは当然である。
しかし、それをすれば、下手をするとキングダムを失う恐れがあった。

シャローンの言葉を聞くと、グリフォンは信じられないとばかりに首を何度も横に振った。
そうして、高笑いをしてから、
「諸君、聞いたか!? この新提督はローゼンフェルムのツォング党を見殺しになさると言っている。このようなでたらめな兵法、古今東西、聞いたことはござらぬ!
しかも、自らは安全なキングダムにとどまり、キンコムのアービン様には援軍を出せというではないか。いくらエビル様の一人娘とはいえ、このような御方に従うことができましょうか!?」
グリフォンはたまった不満をぶちまけた。
もともと、シャローンが新提督につくことを気に入らなかったのだ。
すると、重鎮派を中心とした重臣たちは強くうなずくもの、遠慮がちにうなずくものなど、少なくない人数がグリフォンに同調した。
シャローンはぐっと拳を握ってグリフォンの罵倒を聞いていたが、次の瞬間立ち上がり、グリフォンの方に近づいていく。
これには居並ぶ家臣もあっけにとられるばかりだ。
そして、シャローンはグリフォンの前に立つと、何ということであろうか…深々と頭を下げたのである。
「みなすまぬな、私が若輩者ゆえ、苦労を掛ける。今は内部で争っている時ではない。どうか、不満は内にしまって私に力を貸してくれ」
これにはさすがのグリフォンも困り果て、言葉も出ない。
目をそらしつつ、いつもの癖であめをなめるように、舌で左右のほほをさすっている。

シャローンは再び提督の椅子に戻ると、すぐに威厳のある姿に戻っていた。
「一同、よく聞くがよい。余が提督につくことに不満があるものもあろう。
しかし、余の命令は絶対である。規律違反は例外なく許さぬ。
従わぬ者あれば…」
シャローンは帯刀する提督の剣を抜くと、天にかざした。
「切る!」
これには、居並ぶ家臣団も圧倒され、思わずシャローンから目をそらした。

しかし、それでもグリフォンは食い下がった。
「シャ、シャローン様、確かにおっしゃる通り、今は家中で争っている状況ではございませぬ。しかし、私だけではなく多くの者が、シャローン様が提督に就任されることに納得していないのも事実。
仮にシャローン様が提督に不適格と思われた時には……」
ここで長い間が開き、誰かが生唾を飲み込む音さえ聞こえてきた。
「時には…?」
静寂をシャローンが破って、グリフォンの言葉を問いただした。
「その時には、提督をやめていただく!」
グリフォンの宣言に、シャローンは微動だにせずに答える。
「よかろう」
そのダークブラウンの瞳はおそろしいほど冷たく、グリフォンを見つめていたという。

こうして、シャローンは提督として初めてのぞんだ朝議を終えたのだった。
さすがのシャローンも思うことが多かったのだろう、家臣たちが退出したあとも、提督の椅子にじっと座ってしばらく動かなかった。
そこに、シャローンに近い同世代の若手たち、シャルル・コンクエスト、ゼ・マリア、ソル・エルメールといった面々がやってきた。
「シャローン様、提督ご就任おめでとうございます。これからはお手柔らかにお願いしますよ」
親族のシャルル・コンクエストが軽口を叩く。
「よかろう、明日から早朝出勤を命じなくてはいけないな」
はりつめた表情だったシャローンの顔が少しほころんだ。
「おっと、父上にもよくいわれたっけな、口は災いの元だって」
とシャルルが口を手で覆い、おどけて見せた。
「ゼ・マリア。バタバタして礼を言わなかったが、西門の時はよく来てくれた」
シャローンの言葉にゼ・マリアは感激して、思わずひざまずいた。
「もったいないお言葉。マリア党、メルセデウス家に受けた御恩、私の代ではとても返せないほどと思っております。これからも、命をかけてシャローン様をお支えする所存です」
シャローンはうれしそうにうなずいた。
「シャローン閣下、相変わらずの美しさですが、今日は提督の新しいマントが輝き、一段と美しく見えますな」
ソル・エルメールの言葉に、シャローンは少し呆れ、
「ソル・エルメール。相変わらず口だけは達者だな」
と言いつつも、一回転してマントを舞わせて見せた。
「いや、本音を言ったまでですよ」
「商人出は信用できんからな」
ソル・エルメールは頭をかきながら、
「まあ、シャローン様、これからの私をご覧になってください。
ええ、きっとシャローン様が驚くほどの、活躍をお見せますよ!」
と流暢に話した。

この様子を入り口から顔半分をのぞかせて見ていたグリフォンは、
「ふん、子供のままごとではないんだぞ。今に見ているがよい。きっとぼろが出るだろうて。初陣の勝利などまぐれも、まぐれ。
シャローン様は提督に不適任。きっと、アービン様をお迎えしてみせる。それがキングダムのためである!」
と鼻息荒く言うのだった。
難しい判断おわり

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