豚提督オジャム4 サイレント ネオ-ムーン ソング
呆然と口をあいている哀れなオジャム。現実かさえ理解できていなかったのだろう。
「マーバイム、この豚提督の始末はどうつけようか」
シャギは愛刀を持ったまま尋ねた。
「閣下、謹んで申し上げます。ご覧の通りオジャム様は、ふぬけでござます。
閣下が手を下して世のそしりを受けるより、身ぐるみをはがして無一文にし、カイバから追放するのが吉かと存じ上げます」
「追放じゃと…のちのち邪魔にならぬか…」
「閣下ともあろうお方が心配しすぎです。オジャム様を押し立てて、閣下に刃向う者がおりましょうか。
オジャム様を野に放てば、おそらく2日か3日でのたれ死にするのがおちであります」
「そうか、それもそうじゃの。このような豚提督を切り捨ててワシの刀を汚したところで、得るものは何もないの。
砂漠の真ん中にでも捨てておけば、勝手に野垂れ死にするわいな」
シャギはそういうと大きな声をたてて笑った。
オジャムは悪夢のような光景を前に、口をあけたままぼんやりするよりなかった。
その後、シャギはソデに近かった旧臣を朝議の場に呼び寄せ、有無を言わさず次々と処刑していった。
そのむごさは、シャギ党の兵士でさえ吐き気を催すほどだったという。
その間、オジャムはただ提督の椅子に座り続けていた。
オジャムは父親のソデに命令されなければ、何一つできなかったのだ。
後始末が片付くと、シャギがやっとオジャムの存在を思い出した。
「うむ、いったいこの豚提督は、何を考えておるのか!?」
シャギはじっと座っているオジャムの前に行くと、上から見落ろした。
そうして、マーバイムの方を振り向き、
「やはり、この痴れ者は殺す方が世のためかの」
とたずねた。
「…」
マーバイムも返答をしかねていた。
「オジャム、貴様は何か言いたいことがないのか。貴様の親父はすでに死んだ。お主は自由だ。ワシが許そう、話してみよ!」
シャギがうながした。
すると、何ということであろうか。
オジャムが、一同を見回したかと思うと、おもむろに口を開いたのだ。
「余は提督である、頭が高い、控えおろう!」
オジャムは恐ろしい父親がいなくなり、もう黙っていなくていいと勘違いしたのだろう。
実際はこのような状況で口走った言葉は、狼の群れに肉を持って飛び込んでいくような恐ろしいものだった。
しかし、これにはシャギ党の一同も面食らった。オジャムの言葉を初めて聞いたからだ。
シャギも仮面の下の細い目を、大きく見開いて驚きをかくせなかった。
「オジャム、残念ながらもうお前は提督ではない。さっさと提督の椅子から降りるのがよかろ」
「余は提督である」
オジャムは一歩も引かなかった。それどころか、ついに念願の号令をだし、「僕は偉い、提督なのだ!」と高揚感に浸っていた。
「ほう…で、提督閣下はいったいどうするおつもりじゃ?」
シャギの声を受けると、オジャムはすくっと立ち上がり、座っていた椅子を踏みつけた。
さらに、壁に投げ飛ばし、壊れた所を踏みにじってこなごなに壊してしまった。
これは、シャギ党からすればオジャムが不満を現し、提督の椅子をぶち壊したようにしか見えなかった。
マーバイムと10将が固唾をのんで2人を見守る。
だが、シャギはそれをみるとカラカラと大笑いした。
「なるほど、豚提督でも気概というものを少しはもっていたようじゃの。今日はいつにもまして機嫌がよい。とっとと余の前から姿を消すがよい」
こうしてオジャムは身ぐるみをはがされたあげく、すべての財産を没収されて、西の砂漠の真ん中に置き去りにされてしまった。
つづく…
→オジャム1
→オジャム2
→オジャム3
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