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サシャの秘密10-サイレント・ネオ-boy meets girl-

実のところ、ゲンバ・オーウェンはサシャがいなくなり、一週間もするとショックのあまり高熱を出して寝込んでしまった。
ゲンバ・オーウェンにとって、サシャは唯一の光だったのだ。
その光を失った老提督は、もはや生きる希望をいっさいなくしてしまったのである。

すっかり変わり果てたゲンバ・オーウェンを知った人々は、「これは今までの無慈悲な行為の報いだ」とかげ口を叩くものも少なくなかった。
一方でゲンバ・オーウェンを取り巻く側近、とりわけ高い忠誠心を持つ筆頭将軍のミッチ・リッチモンド卿や軍師のジョセフ・モンデシーらは、屋敷を見舞っては激励した。

「ようきてくれた、2人とも。余はこの通り、ここまでじゃろう。どうか、ララのことは頼みましたぞ」

ゲンバ・オーウェンは天井を無念そうにじっと見つめて、弱弱しく言うのであった。

「閣下、何をおっしゃられます。サシャ様とて、きっとどこかで元気にされているはず。気を強くお持ちくだされ」

大柄で日焼けした精悍な面持ち、スキンヘッドのリッチモンド卿が励ますように言った。ゲンバ提督随一の信頼を得ている軍人である。

「いや、わかっておるのじゃ、もう捜査してずいぶんたったが、サシャはどこぞの砂漠に迷い込んで死んでしまったのじゃ。
ああ、かわいそうな我が孫娘よ! しかし、これも余への報いじゃ。余はあまりにも命を奪いすぎた。ついに神が怒りの裁きをくだされたのじゃ」
「提督、お気を強くお持ちくだされ。きっと、サシャ様は生きておられまする。提督の孫娘ですぞ、やすやすと死ぬものですか!」

叱咤激励したのは頬骨がみえるほどやせている軍師ジョセフだった。三度の飯より本が好きというララ一の知恵者である。

「そうかのう…そうであるならば、どんなにうれしいことであろうか。
サシャはどこぞで生きておるのか…砂漠の砂嵐で苦しんでおらんか、腹をすかせておらんか、夜露はしのげておるのか…ああ、どうか、サシャをお助けくだされ!」

痛々しいほどに弱っているゲンバ・オーウェンを目にした兵士の中には、すっかり見損なう者も少なくなかった。

そんな弱弱しい老人を見舞うためやってきたある女は、わずかに開いたドアの隙間から中を注意深くのぞいていた。もちろん、耳をそばだて、一言一句洩らさないようにするのも忘れなかった。

つづく…

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