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小説 私だけの世界 エピローグ

 私だけの世界。

 ずっと、欲しかった世界。


 私の現実は、家と学校とこの街だけだった。

 テレビで流れるニュースも、インターネットで飛び交う芸能人の噂も、現実ではあったけれど――私にとっての現実ではなかったんだ。

 私の現実は、とても狭く小さかった。それをもっと広く、外へ広げることができなかった。

 ……もしかしたら、しようとしなかったのかもしれない。


 でも。

 自分の狭い現実を外へ広げるのは、意外と面白いことかもしれない。

 意識をほかへ向けたことで、私は気づけたことがある。あの偽りの理想郷で、知ったことがある。

 重なり広がる、厚みを帯びた世界。


 もしそれが本当なら、私は――


 思うんだ。

 私の世界は、この大きな世界を構成する一部分でしかないから、私が消えてもなにも変わらない。

 そう考えていた。

 私が消えたとしても、この世界はなんの変哲もなく廻るだろう。少しの滞りもなく。

 それは否定できない確かな事実だ。

 けれど……

 今、この瞬間に廻っている世界は、私の小さな世界も含んで成り立っている。私の世界も、この広い世界を造っている。

 そうだとしたら。

 私が消えた世界は、もう元の世界ではないだろう。

 それが小さな変化だとしても。たとえ、目に見えず誰も気づかない違いだとしても。

 そこは、私の世界じゃないんだ。


 周りの人々、生きているすべてのもの、生きていない無機物も含めて、現実は存在している。その個々の世界が、この大きな世界を構成している。

 今、私が生きている世界は大きな世界。誰かの世界。それでも、それは、私の世界でもあるはず。

 帰るのだ。重なりから生まれた世界へ。

 ――私の世界へ。


 私は、目の前の光に手を伸ばした。

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