小説 シスター・コンプレックス①
私が姉の模造品だと感じたのは、いつくらいからだったろう。
五歳違いの姉は、いつも私の前を歩いていた。いや、私だけでなく、同年代の子たちの前を。
人は彼女のような人間を天才と呼ぶ。
そう、彼女はほとんどの能力において、ずば抜けていたし、それを鼻にかけない心を持ちで、人心を握るのがうまかった。しかも、それらを無意識のうちにやってのける。
彼女は私の両親の自慢だった。
対して私は、そう、自分でいうのもなんだが、出来は悪いほうではなかった。むしろ良いほうだった。
しかし、良いほう、と圧倒的に良い、では開きがあるのだった。
姉を知る人はみんな、私にもそれを求める。だが、姉のように何でも器用にこなし、それでいて妬みを買わない人間が、こんな近くに二人も存在すると思うのか?
私はすべて中途半端な人間だった。出来は良くても、最高ではない。
誰しもそうだ、上には上がいる、そういわれたこともある。
それはそうだ、きっとみんな、多かれ少なかれ、同じような悩みを抱えているのだろう。
だが、私の場合は、あまりに身近に彼女がいた。
佐原真幌という人間が。
彼女が私のことを嫌っていてくれていたら、まだよかった。
しかし、彼女は第一に妹のことを考えるような人間なのだ。無関心のほうがまだよかっただろう。
姉に愛され、しかし私は彼女と肩を並べられない。年齢差のせいもあるだろう。そして、別に能力において肩を並べる必要はない、という人もいるだろう。
だが、私はよくない。
私は姉を敬愛し、姉のようになろうとした。
しかし、やはり私は模造品だった。
それに気づいた私は、目標を失った。できればその目標を見なくて済むところに逃げればよかったのかもしれない。
だが、姉は私を離さなかった。
愛情という名の鎖が、私たちの間でこんがらがっていた。
そして、私も離れられなかった。最初は敬慕のために、そして絡まった鎖のせいで、私の愛情は憎しみに変わった。
私は姉が憎い。
姉になりたかった私は、すでに、変わってしまっている。
栞は兄を取り込んだ、そういったが、私はそれを聞く前に、既に、その願いを心に持っていた。
佐原真幌という人間を私のなかに取り込みたい。私が主体の一人の人間、模造品ではなく本物に。
そういった共通点から、きっと、私と栞は、私が姉と、栞が兄と深く結びついているのとはまた違った意味で、つながれている。
だが、私は栞との関係を心地よく思う。
たぶん、私は殺人者なの、と彼女がいったなら、それを信じるくらいには。
姉との鎖を断ち切って、栞のもとへ行く。
それができたらよいな、と考えたことは一度や二度ではない。
友情とも愛情とも違うのだが……いうなれば、私たちは前世で双子だった、というような結びつき。
じゃあ、前世で、私と姉はなんだったのだろう。
もしかしたら、カインとアベルの兄弟だったかもしれない。どっちがどっちだろう。
だが、少なくとも、現世で、アベルのように、上の兄弟から追い詰められたくはない。真幌という存在自体の重圧で。
だから、世界に何かを刻み付けるために、私に道具をください。
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