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置き換えの力学:AIは、あなたの仕事にちょうど役立つところで止まってくれるのか?

 多くの人々が、AIによって自分の仕事が楽になることを期待している。そのようにAIの未来に期待を持つ人は、自分の仕事が、完全にAIに奪われるとは考えていない。
 しかし、なぜ、あなたの仕事を代替するよう発展したAIが、あなたの仕事にちょうど役立つところで、その発展を止めてくれるのだろうか。そこでAIが発展を止める、魔法のような何かがあるのだろうか?
 

1.あなたの仕事がAIで楽になり、あなたがクビになるまで


 利益を生む仕事があり、仕事の忙しさに苦しむあなたがいる。もっと仕事を効率化すれば、より大きな利益を上げられる、という期待がある。そして、あなたの仕事の一部を任せられるかもしれないAIがあるとする。あなたは、AIを仕事に役立てようとする。

 AIの能力が低いと、あなたは「使えない」と思う。AIの性能が上がるに従い、あなたは「楽になった」と思う。まるで、AIが、労働からあなたを解放してくれる福音であるかのように感じる。
 あなたは、面倒なタスクをAIにやらせて、より効率的に仕事をする。より利益が大きくなる。あなたは仕事の「コア」の部分に集中して取り組むことができる。まるで、理想的なAIの活用が行われているように思える。ここで話が終わればいいのだが、そうならない。AIにとって、まだ解決すべき非効率の問題が残っている。あなたの存在である。

 あなたがやっている仕事を、AIに代替させるべく、研究開発が進む。あなたはさらに楽になって、ボタンを一つ押すだけで仕事が終わるようになるかもしれない。AIは最高に役に立つと感じられる。ボタンを押すだけで仕事が終わり、給料がもらえるなんて!なんと素晴らしいことだろう!

 そして、あなたはクビになる。
 なぜなら、あなたがやっている仕事はボタンを押すことだけであり、あなたの雇用主は、あなたにボタンを押させるだけのために、高い賃金を払いたくないからだ。あなたがボタンを押すより、AIがそれを行った方が正確で、効率がいいからだ。そのように、AIが発展したからだ。
 あなたの仕事は、AI技術に置き換えられる。なおも、利益効率を求めて、AIの研究が続くかもしれない。しかし、あなたにはもはや関係ない。あなたは、新しい仕事を探さなければならない。あなたの履歴や、身につけた技能は、役に立たない。なぜなら、あなたの業種は、もうAIに置き換えられたからだ。あなたに残っているのは、AIがまだ進出していない、あまり稼げない仕事だ。しかし、その仕事にも、自分の仕事を、AIに置き換えられた多くの人が列を作っている。

2.「コアな作業」の幻想


 悲観的な未来予想だろうか。
 しかし、繰り返すが、あなたの仕事にちょうど役立つところで、AIが発展を止めると考える理由は何もない。あなたの仕事に導入されるAIは、コストカットとさらなる利益増大のために開発されている。AIによって利益が伸びているうちは、ボタン係となったあなたも、その恩恵を受けるかもしれない。しかし、いずれ、AIの能力で、あなたの仕事の領域のほぼ全てがカバーできるようになれば、余計なコストをもたらしているのは、あなたの存在であることに、すぐに経営者は気が付くだろう。

 例えば、自動運転技術の発展を考えてみよう。当初は運転支援システムとして導入され、ドライバーの負担を軽減するとされた。しかし、技術の進歩は止まることなく、完全自動運転の実現に向かっている。ドライバーは、AIによる運転に任せて、操作を行う必要がなくなる。完全無人の自動運転車が導入される。そうなれば、タクシーやトラックのドライバーの仕事を根本から脅かす可能性がある。

 例えば、コールセンターでのクレーマー顧客対応が、AIチャットボットに置き換えられる。初期のAIチャットボットは単純な質問にしか答えられず、顧客の不満を招いた。しかし、自然言語処理の進歩により、AIは複雑な問い合わせにも対応できるようになった。これにより、オペレーターの負担は大幅に軽減された。その先には何が起きるだろうか?完全にAIチャットボットがオペレーターの仕事をこなすようになり、人間のオペレーターが不要になる。

 金融アドバイザーの仕事はどうだろう。AIによる投資分析と推奨が高度化すると、アドバイザーの役割は徐々に縮小する。最終的に、アドバイザーの仕事は、AIの推奨をクライアントに伝えるだけになるかもしれない。そうなれば、企業はコスト削減のために人間のアドバイザーを削減し、AIシステムに完全に置き換えるだろう。

 人間にしかできない、「コア」な仕事がある、と考える人々もいる。例えば、漫画家は、ストーリーを考えたり、キャラクターを作ったり、ネームを作ることは創造的な活動で、漫画の「コア」だと思っているかもしれない。それに対して、モブのキャラクターを描いたり、背景を描いたりすることは、周縁的で、アシスタントやAIに任せることができる、と思っているかもしれない。だが、その作業がAIに代替できるかどうかは、AIの能力によって決まることであり、人が何を創造的だと考えるかや、何を「コア」だと考えるかとは、無関係だ。
 実際、イラストなど芸術分野は、「創造的であるので、AIには代替されにくい職業」だと、当初予想されていた。しかし、現実はその予想を裏切っている。AIによる画像生成技術の急速な発展により、高品質なイラストがAIによって生成されるようになった。企業は、イラストレーターにイラストを発注する代わりに、生成AI画像を利用するようになっていく。
 

3.置き換えの力学


 AIの能力が低いうちは、それはあなたの仕事の役に立たない。AIの能力が高まるにつれ、それはあなたの仕事に役立つように感じられる。さらにAIの能力が高まると、あなたの仕事は簡単になる。そして、最終的に、あなたが仕事に対してコスト要因になり、コストカットとして首にされる。このような一連の流れによって、AIによって職業は置き換えられる。
 ここには、AIによる効率化とコストカットの追及という、置き換えの力学が働いている。この置き換えの力学が、都合よくどこかで止まる要素があるだろうか? もし、そんな要素がないのであれば、私たちの仕事は、必然的に、AIに置き換えられる。

 もちろん、すべての仕事が同時に置き換えられるわけではない。AIの得意分野、高収入をもたらす業種では、置き換えへの経済的インセンティブが強くなる。専門性を持った高度な知的職業がそこには含まれる。例えば、医療、法律、金融など。置き換えが進みにくい業種もあるだろう。技術的な課題、倫理的決定、規制、社会的な受容、政治など。それでも、部分的にそれらの領域にもAIが補助的に導入され、その範囲を広げていくだろう。

 AIが新しい仕事、新しい雇用を生みだすという期待もあるかもしれない。だが、そのような新しい仕事もやはり、置き換えの力学によって、完全AI化を目指しての研究が行われるだろう。

 資本主義の根幹には、利益の最大化と効率性の追求がある。この原理は、AIによる人間の労働の置き換えを、強く推進する要因となるだろう。企業や資本家にとって、この置き換えの過程は、短期的には非常に大きな利益をもたらすことになる。置き換えを行わない競合企業は、コストにおいて明確に差をつけられる。「置き換え」を行うことは、企業の生き残りにとって必要不可欠になる。

 しかし、長期的には、「置き換え」によって多くの人間が職を失い、より低収入な仕事に就くことになる。あるいは、全くの無職になってしまう。購買力の低下が起き、需要が減少する。社会が不安定化する。それでも、個々の企業は、短期的利益の最大化を選ばざるをえない。一言でいえば、AIにより、労働者が労働から疎外されることになる。

4.おわりに

 今は、まだ、AIはあまり役に立たないと多くの人が思っている。一部の人は、自分の仕事の一部をAIに代替させ、大きな満足を得ている。政府は、躍起になって、AIの導入を推進し、社会を効率化しようと試みている。AIによって、完全に代替される未来が見え始めた仕事が出てきている。
 置き換えの力学が働き始めたとき、それを止めることは非常に困難だろう。その力学は、社会を取り戻しがきかないところまで、変容させてしまうかもしれない。最後に、もう一度問いかけよう。

 あなたの仕事を助けるAIは、あなたの仕事にちょうど役立つところで止まってくれるだろうか?それとも、あなたがクビになるまで、発展を続けるだろうか?
 答えが分かる日は、そう遠くないだろう。

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