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宝塚月組公演 満足度100%の和洋2本立て

  師走で仕事の繁忙期ではありますが、前から7列目のSS席当選という幸運に恵まれたので、日比谷の東京宝塚劇場に和物レビュー『WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-』(監修/坂東 玉三郎 作・演出/植田 紳爾)とミュージカル『ピガール狂騒曲』〜シェイクスピア原作「十二夜」より〜(作・演出/原田 諒)を見てきました。コロナ禍で6ヶ月遅れての公演です。

 結論から言いますと、2本とも完成度が高く、大満足でした!! 宝塚はショーとミュージカルの2本立てのことが多いのですが、どちらも傑作ということは滅多になく、ショーが良ければミュージカルが悪く、あるいはその反対とかで、「だからブルーレイを買う気になれない」というファンが少なくありません。それが今回はどちらも佳作で、美しく華やかで、最後は大団円でハッピーと、文句なし。劇場を後にしたときは、心が晴々としてました。

 あ〜、これだから宝塚はやめられないヽ(´▽`)/

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日舞の至宝・松本悠里さんの舞に涙腺がゆるむ

 『WELCOME TO TAKARAZUKA -雪と月と花と-』は歌舞伎界から坂東玉三郎さんをはじめて監修に迎えた作品です。舞台稽古にいらして最後までアドバイスされていたとか。玉三郎さんのおかげか、舞台装置がスタイリッシュでセンスが良く、モダンなショーでした。

 どうしても触れておきたいのは、今回の公演、入団64年の特別顧問で日舞の名手・みえこさん(松本悠里さん)の退団公演なのです。1957年入団のみえこさんは松岡修造さんのお母様・千浪静さんの同期なんですよね。若い頃はダンスも得意だったそうです。

 かつて春日野八千代とか天津乙女といったレジェンド的なスターさんがいて、その方たちは亡くなるまで在団されていたので、松本さんもそうだと思い込んでいたので、退団が発表されたときは驚きました。でも、日舞はカツラと衣装で30キロの世界ですから、83歳(おそらく)になられるうみちこさんは、これ以上は最高のパフォーマンスができなくなるからと退団を決意されたのかもしれません。

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 この写真をご覧いただくとわかりますが、赤の振袖姿がお似合いで京人形のよう。20代と言われればそうかと思う美しさでした。舞姿は品格があり、典雅の一言。2回の台湾公演はもちろん、9回の海外公演に出演された方なので、もう二度とみえこさんの舞台が見られないのかと思うと、涙腺がゆるんでしまいました。

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 歌舞伎と違って、宝塚の和物は洋楽で日本舞踊を踊ったりするのですが、今回はヴィヴァルディの「四季」から「冬」とかベートーヴェンのピアノソナタ「月光」をボレロにアレンジした曲とかを使っていて、それがとても効果的でした。バレエの群舞のように、一糸乱れずテンポの良いリズムでぐんぐん舞い踊る。爽快です。歌舞伎役者の方が見たら、「自由でいいな。俺もあんな風に踊ってみたい」と思うんじゃないでしょうか。日舞をやっていた親友は「間が大事なのに、洋楽なんて想像できない!」と言ってましたが、ヅカファンにとっては、「これぞTAKARAZUKAの和物レビュー」なんですよね。

『十二夜』の舞台をムーラン・ルージュに移した着想に拍手

 ミュージカル『ピガール狂騒曲』はシェイクスピアの「十二夜」を原作とし、舞台をベル・エポック(古き良き時代)と謳われる1900年の万国博覧会が開催された時代に移した喜劇です。舞台はムーラン・ルージュで歌やダンス、フレンチカンカンが登場し、踊りが傑出して上手いアリちゃん(暁千星)がセンターで大活躍。この着想が素晴らしく、華やかで明るく、宝塚らしい作品になっていました。

 作・演出の原田諒先生は、これまで偉人を題材とした作品をたくさんつくられてきました。「白夜の誓い-グスタフⅢ世、誇り高き王の戦い-」「アル・カポネ-スカーフェイスに秘められた真実-」「For the people-リンカーン 自由を求めた男-」「MESSIAH-異聞・天草四郎-」等々。

 読売演劇大賞の演出家賞や読売演劇大賞 優秀演出家賞・優秀作品賞も受賞されていて、外部の評価も高いのですし、リンカーンなんて、私は感動しすぎて席から立てなかったほどですが、先生のせいじゃないけど、最後がね、暗いんです。お気づきになりましたか? グスタフⅢ世とリンカーンは暗殺、天草四郎は幕府軍の銃弾に倒れ、アル・カポネは逮捕されて刑務所へ。そのせいか、若いファンからはあまり評判が良くなかったようです。ですが、『ピガール狂騒曲』は違います。なにしろ『十二夜』はよくできた喜劇ですから、陽性のトップスター・たまきち(珠城りょう)の良さが引き立つのです。

『ピガール狂騒曲』の面白さは「男役が男役を演じる」こと

 『ピガール狂騒曲』の面白さは「男役が男役をやる」ことです。たまきち(珠城りょう)演じる美青年ジャックは実は女性です。女衒(ぜげん)のマルセル一味から逃れるため男装しているジャンヌなのです。なので、いつもは骨太で素朴なイメージのたまきちが、かなり痩せて声のトーンを上げ、ちょっと女性を匂わせる役作りをしています。

 そのジャックがムーラン・ルージュで働きたいと面接を受け、れいこさん(2番手スター・月城かなと)演じる支配人シャルルから、ガブリエル(トップ娘役・美園さくら)という著名作家の美貌の夫人を舞台に立つよう説得できたら雇うと言われます。自分をゴーストライターとして利用する夫との離婚を決意していたのガブリエルはジャックに一目惚れ。ジャックが相手役になるのを条件に舞台に立っても良いと言い出すのですが・・・。

 実はジャック(ジャンヌ)は熱く劇場経営の理念を語るシャルルに恋をしており、そのジャックが好きなのはガブリエルで、そのガブリエルが好きなのはシャルルという三角関係。そこにジャンヌの異母兄であるベルギー名門貴族のヴィクトール・バーレンベルクがパリに現れます。彼はまだ会ったことのない妹のジャンヌを探し出し、自分の財産の半分を譲りたいと語ります。そのヴィクトールはひょんなことからガブリエルと出会い、一目惚れ。四角関係となり、ガブリエルの夫・ウィリー(鳳月杏)やその弁護士のボリス(風間柚乃)、マルセル一味も加わって、ムーラン・ルージュの舞台はハチャメチャとなるのですが、最後はガブリエルとヴィクトール、シャルルとジャンヌのカップルが成立し、ヴィクトールの援助でムーラン・ルージュの資金難も解決し、万事めでたしとなるのでした。

「芝居の月組」の本領発揮し、トップコンビの代表作に

 この作品で印象に残ったのは、トップ娘役・美園さくらのスタイルの良さ。ものすごくスリムなウエストに超絶な足の長さ。彼女は歌が上手く、三拍子揃った娘役さんですが、あんなに細くてどうして舞台が務められるのだろう? さくらちゃんは姉御肌なので、フェミニストの女流作家は適役でした。

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 れいこさん(月城かなと)の力量の高さにも感心しました。演技も歌も新人の頃から上手い人ですが、センターに立って歌うと説得力があって、レ・ミゼラブルのジャン・ヴァルジャンみたい。既にトップスターの貫禄がありました。堀の深いお顔が抜群にキレイな人です。

 アリちゃん(暁千星)の踊り上手さはわかっていましたが、歌のレベルの高さにも驚きました。元プロ野球選手の山内和宏さんのお嬢さんですが、きっと運動神経が遺伝してるんでしょうね。足がパーンと高く上がるし、ピルエット(回転)の軸がぶれません。若手の頃は踊りが売りの人でしたが、この2、3年、歌が飛躍的に進歩してます。オペラ歌手の人が舞台を見て、歌が上手いのは暁千星だと言ったそうですが、納得です。

 最後にボリスを演じたおだちん(風間柚乃)。彼女は故夏目雅子さんの姪で美貌を受け継いでますが、男役です。ですが、役が付くのは七光ではありません。おばさんの存在などなくても、トップスターになること間違いなしの逸材です。入団時から貫禄があって、何をやっても上手いのです。月組が「エリザベート 」をやったとき、2番手スターの美弥るりかさんが休演し、れいこちゃんが皇帝フランツ・ヨーゼフの代役になったので、そのれいこちゃんが演じたルイジ・ルキーニをおだちんが演じたわけですが、入団5年目(確か)のおだちんは本役と言っても気づかないほどの出来で、ヅカファンの度肝を抜きました。

 月組は「芝居の月組」と言われていますが、技量の高い生徒さんが揃っていて、穴がない、つまり、歌・ダンス・演技のどれかがすごく下手という人がいません。その良さが最大限に発揮されたのが、今回の公演だった気がします。トップコンビはあと1作で同時退団ですが、二人が代表作に恵まれたのは喜ばしいことです。

 最後に日比谷ミッドタウンイルミネーションをどうぞ!

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