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大江健三郎著「あいまいな日本の私」(@岩波新書)を読んでみた。

大江健三郎著「あいまいな日本の私」(@岩波新書)を読んでみた。
発行は1995年1月。
1994年に大江健三郎はノーベル文学賞を受賞してストックホルムで12月7日に受賞記念講演をされました!本書はその講演録を初めとしていくつかの講演を採録して日本語訳にして出版されたものです!

本書を読んでみようと思ったのは、3月3日に大江健三郎さんが88歳で亡くなられたからでした!高校時代の同級生だった小杉からラインが来て、大江健三郎が亡くなった!と、小杉は大江作品をかなり読んでいました!家にいくと書棚に何冊かの大江さんの本があったように記憶しています!
私も「個人的な体験」「万延元年のフットボール」や「雨の木(レインツリー)を聴く女たち」などのタイトルがあったのは記憶しています!
しかし、私は大江さんのお書きになったものを一冊も読んでいませんでした!そんな時に大江さんが亡くなられ、その時に映画監督である小玉憲一さんが本書のことについてSNSに書かれていたのを見て、読んでみようと思いました!

読んでわかったのですが、日本人で最初にノーベル文学賞を受賞した「川端康成」さんの受賞記念講演が「美しい日本の私」という題名での講演だったことを知りました!
本講演の題名はまさにそれを意識した「あいまいな日本の私」
(英語名:Japan, The Ambiguous, and Myself)というもの。https://www.nobelprize.org/prizes/literature/1994/oe/lecture/

二番目の受賞者として、独特な価値観を持つ日本の文化についてちゃんと伝えたいという気持ちを強くお持ちだったのではないでしょうか?
そして彼の思索の果てに書かれたのがこの講演録だったのではと思いました!広範な教養がないとこんなものを書くことは出来ません。それをベースに深い思考をされ、それと自分の体験、自分の家族との体験を紐づけて語っておられます。

恩師でもあるフランス文学者の渡辺一夫先生についても言及され日本が生んだ知の巨人について光をあてようとされています!
同時に戦争で被爆国になった私たちの国のこと、それ以前に日本が帝国主義として戦前に行って来たことなども含めてストレートに世界に向けて発言をされています!これこそが芸術家である人たちの大きな役割ではないかと思うのです!大江さんはその役割を自覚されておりストレートに世界に向けて発信されておりました!

今のような簡便にSNSで発信するというのではなく練りに練った文章をわかりやすく伝わりやすい英語に翻訳していただき、それを大江さん自らが自らの声で、もちろん、英語で、スピーチされています!

なぜこれを知っているかというと、実は、4月1日のNHKのETV特集で「追悼 大江健三郎さんノーベル賞の旅(1995年放送)」というのが放送されており、その録画を先日、観たからなのですが。大江さんには障害を持つ息子の大江光さんがおられます!音楽家として有名になられた光さんですが、その光さんのことと障害者を抱えている自分たちの家族のことをストレートに話されております!
ある日、その光さんと健三郎さんが森の中を歩いている時にクイナという鳥の鳴き声が聞こえて来たそうです!
その時光さんが初めて言葉を発せられたと。
それがレコードで聞いていたNHKのアナウンサーの声「クイナです!」というものだったと!
それから光さんは喋るようになられたとおっしゃっていました!

自らの息子の素晴らしいところを発見して同等の立場で生きて行きたい!と願う大江さんの姿勢が本当に清々しく気持ちがいいものでした!

他の講演で語られたものもいくつか収録されています!その中で日本文学について語られていたのが印象に残っています!まずは「源氏物語」そして明治の言文一致から始まった夏目漱石の功績。さらには大江さんと同世代とその前後の三島由紀夫さんや安部公房さんのことそして大岡昇平や自分のこと、その後に出て来た世代でもある村上春樹や吉本ばななのことなどに言及されておられました!今なら川上未映子や多和田葉子、そしてカズオ・イシグロなどについてどう思われているのか?などが、とても興味があります!

最後の章になる「日本研究会議京都」で講演された「世界文学は日本文学たりうるか?」の章はものすごくユーモアにあふれた講演でした!大江さんについてまだまだたくさん学ぶことがあります!
1995年に大江さんは60歳になられました!その年に小説の執筆はお休みして数年にわたって読みたい本を読んで勉強したいとおっしゃったということも同じアラカンの世代になった私にとってとても印象に残りました!
そうして大江さんは「スピノザ」の著作を読まれたそうです!
何と今年、岩波書店から「スピノザ全集」が刊行されるそうです!https://www.iwanami.co.jp/spinoza/

図書館でどんなものか読んで見たいと思いました!
本書を読むきっかけを与えてくれた小杉と小玉さんに感謝です!

R.I.P.大江健三郎さまへ!



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