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「欲望で捉える デジタルマーケティング史」森永真弓:著(@太田出版)を読んでみた。

「欲望で捉える デジタルマーケティング史」森永真弓:著(@太田出版)を読んでみた。

発行2022年4月。森永さんは博報堂でいち早くデジタルマーケティングの分野を研究されていた方。なので、業界ではとても有名な方です。現在、HDYホールディングスのメディア環境研究所の研究員をされています。一種のシンクタンクなのでしょうか?

本書は広告の仕事がどのようにデジタルに変遷していったか?ということをわかりやすく、しかも編年体形式で書かれているので、まさに「現代デジタルマーケティング史」です。そして森永さんの広告に向けた視点が、クリエイティブというものがベースになっているということが嬉しい。数字や科学的知見だけでは語れない以上のコミュニケーションが確実にあるということを信じておられ、それをベースに本書が書かれていることが嬉しかったのです。

それは、引いて見ると博報堂自体が自らのクリエイティビティを売り物にしているからということもあるのですが。
毎年6月にフランスの南の地中海側にあるカンヌで広告のフェスティバルが行われています。現在の名称は「Cannes Lions International Creativity Festival」というものです!これを見ても「クリエイティブ」ということを抜きには世界でも広告を語れない!ということなんですね。クリエイティブのチカラで世界の課題を解決し、この世界がよりよいものになっていくためにスタッフが知恵を絞り続ける。そんな業界なんです。

面白いけど大変な仕事で、しかも仕事とそうでない境界がわからないんです!なので、仕事とプライベートをちゃんと分けて暮らしたい!という方はクリエイティブな仕事には向いてないんじゃないか?と思うのですがいかがでしょうか?どこかに旅行に行ってそこでの体験みたいなものもクリエイティブに活かせるし、ふっとした時に課題解決の素敵なアイデアが浮かぶことがあるかも知れません。

本書には2000年代からのインターネット広告を初めとした事例もたくさん登場します。制作会社の私もワクワクした。2003年のBMWのインターネットフィルムとか?2008年のユニクロックの事例とか?デジタルの歴史を繙くと、PC、スマホ、タブレット(日本はそこにガラケー時代のiモード時代が入ります)の進化、並行してネット環境の進化とが並行して進んで行き、その環境に合わせて新たなスタイルが登場して来ているのは事実です!森永さんもそうした具体的な事例を含めて語っておられます。

ネット環境などの進化によって、発信できるものが、テキストから画像に移行しそして動画の時代!というような変遷を遂げていっています。それに伴い広告クリエイティブも変わりますよね。最近だとYouTubeショートやTIKTOKでのクリエイティブも注目され日常的に制作が行われるようになりました!画面のサイズや比率(アスペクト比)も多様になり適切な出口にどのようなスタイルで出稿していくのか?なども課題になって来ています。

以前、大学の後輩でサイバーエージェントの営業をされていた方と話したのですが、10数年前、サイバーさんのデジタルの仕事の案件は1件、10万円から受注していた事を聴いて、驚いたことを覚えています。10万で制作し原価が6割だとしたら、それ以外の利益でどうやって運営していくのだろうか?みたいなことを考えて、すごい気の遠くなるような話だな!と思っていました。
そして、2020年4月に、サイバーエージェントは時価総額で一時的にあの電通を抜いたという記事が出ました。
サイバーエージェントなどでは「バナー」のAI自動生成は今や普通のこととなり、今では動画バナーなども自動生成を行っているそうです!CHAT GPTの最新版などが登場し、さらにそうしたものが進化して行くのでしょう!私たちはその現状に合わせて仕事の仕方やコミュニケーションの方法、そしてそのためのクリエイティブなども含めた新たな方法を考え出さなければなりません。

同時にデジタルマーケティングはデータの活用というのが必須になっています。データを取れるからこそ広告主はそこから「情報」をどう見つけて、次の戦略に活かすか?ということが出来るようになるのです!だからデジタル広告に投資する。

そのために私が今学んでいる「統計学」やさらには「統計分析」「データ解析」などの手法がとても大事になって来ているのが現実です。

広告会社のクリエイティブの仕事も、デジタル以前は、4マス広告(TV・新聞・雑誌・ラジオ)のクリエイティブを中心に考えるで良かったのが、今では、どんな施策をして、どうしたマーケティングモデルを考えて企業の顧客価値創造や利益貢献に寄与するのか?という数段階高いレベルで広告主とコミュニケーションされる時代になりました。もはやマーケティングは経営のひとつのスタイルです。

広告会社の役割が変わるとともに制作会社の役割も変わって来ています。以前は、広告のクリエイティブの細部までのコントロールを広告会社のクリエイティブが行っていましたが、このように複雑になっていくとすべてをやることが難しくなって来ます。そんな時だからこそ、制作会社のプロデューサーは専門性を高く持ち、具体的な制作クリエイティブの多くに責任と課題解決のチカラが求められる時代になって来ています。広告主もそうした流れをわかって来ており、今までと違ういろんな座組でプロジェクトを進行されるようになっているのではないでしょうか?デジタル化インターネット化が進み情報のオープン化がどんどん進むとすべての境界がなくなりフラット化していきます!いまは、まさにその時代。

その時に私たちは、ある専門性を高く持ちながらそこから派生した技術やテクノロジー、それ以外の新たな施策などを通じて常に学び続けていかなければならない、という時代になりました。学び続けることが「ワクワク」につながる人はこんなに楽しい時代はないのではないでしょうか?一方、学ぶことを止めてしまうと、企業も同じですが、その後、成長は並行でなく、必ず下降線をたどっていくことになります。

本書で森永さんがドラッカーのマーケティングについての言葉を引用されています。引用します(P163)

「本来マーケティングとは、経済学者のピーター・ドラッカーが述べた通り『販売よりはるかに上のレイヤーの活動であり、販売を不要にすることを理想とする。』活動にほかなりません。」

と。そのための最善の施策は「広告」ではないのかも知れない!という時代になりました!
ただ、森永さんは「クリエイティブ」とともに「ブランド価値」「ブランデッドムービー」などの大きな価値をとても大切に考えておられます。この「のれん代」とも言える顧客価値の創造には必ずアイデアとクリエイティビティが必要です!という考えに勇気を頂くとともに常に私たちも学び続け思考し続けることが大切なんやで!ということを肝に銘じさせていただけるような読書体験でした。

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