【作品紹介】第4回 精霊の水瓶

サークル”白水の小説棚”にて執筆した作品を、インタビュー形式の体裁でご紹介して参ります。

作品紹介シリーズ第4回は、久しぶりのファンタジー世界観を舞台にした作品にして、当サークル屈指の”衝撃のラスト”の作品。

”本編イラストなし冊子+イラストポストカード”という、イラストレーターには、ミサラギ氏(えすだぶりゅー)をお迎えし、当サークル初の純地元作家産作品となった、ファンタジー冒険ノベル『精霊の水瓶』です。



人々の命、健やかなる体、だからこそ宿る心……それはありとあらゆる、いかなる尊い価値観や叡智よりも、さらに尊きもの。その尊さを軽んじるすべての人間に、慈悲なき大自然と精霊の怒りを!(マリーシャ・ハノック)

――現代世界観の作品が多い中、ファンタジー世界観で書かれた作品となっています

 今回の『精霊の水瓶』は、実はラストが最初に決まっていたので、逆算で書いていくことになる作品となりました。

 現代世界観(地球)ではちょっと無理があったので、ファンタジー世界観にしたという事情もあります。

 実際にファンタジー世界を書くのは、『皇女より、戦場から』(現在は『白水の小説棚 短編バトルファンタジーアーカイブ』に収録)以来で、実に9年ぶりということになりました。
 現代世界観と違って、設定に現実縛りがないので、その点はいわゆる下調べの時間が短くて書くのはスムーズでしたね。
 基本設定は好きに自分で作れて、自由度が高いっていうのがファンタジー世界観の一番の利点かなと思いました。

――物語の前半と後半で、テイストが違う作風となっていますね 

 物語の前半は、『ストリング・クロス』『十字架の翔ばたき』で培った音楽ノベルテイストの作風をかなり取り入れていて、アクション場面も多少ありますが、全体的に世界観を染みこませる的な意図で、落ち着いた展開になっています。

 物語の後半は、『ライジングパトス』や短編で培ったアクションノベルの作風を活かして、ゴリゴリのアクション展開となっています。
 仇討ちとか、時代劇的な展開になっているのも意図的ですね。やってみたかったので(笑)

――登場キャラについて、主人公のルセナは巡礼者という設定ですね 

 主人公の武器が剣、は既存の剣術各流派の操法や、これまで培った表現技法を使えるので割と書きやすいんですが、それじゃありきたりだなってことで、今回は武器として杖を使わせたかったから巡礼者にした、というのもあります。
 杖術は操法が複雑なため、表現にはかなり苦労しました。
 代わりに、敵として立ちはだかるグルカは、両刃剣二刀流というゴリゴリの剣士ということにしました。
 
 また、巡礼者とか清楚っぽい職業なのに性格が大雑把というか豪快というか、ギャップがあった方がキャラがよく動くイメージがあったので、主人公のルセナはああなった、な感じです。
 
 ルセナは書いてて、魅力的で面白いキャラでしたね(笑)

――ヒロインのマリーシャについてはいかがでしょう?

 マリーシャは、音楽ノベルの延長線上の作品ということも考慮して、設定がリュート弾きとなっています。

 2018年以来、音楽テーマの小説を2本続けて書いている関係で、本流(?)のアクションノベルをちょっと雰囲気的に書きづらくなっていたので、音楽ノベルからアクションノベルへの回帰(復帰?)のため、両方の作風をハイブリッドさせた、過渡的なやり方をしています。

 そのため、新作アクション冒険ファンタジーにして、音楽シリーズ3部作完結編、という2つの位置づけがある作品ともなっています。

 ルセナを巡礼者設定にしたのは、アイテムとして十字架を持たせたかった、というのもあります。『精霊の水瓶』本編に限定すればお話の流れには大きく絡んでこないのですが、音楽シリーズ3部作完結編、という本作のもうひとつの位置付け内では実は隠れ重要アイテムとなっています。

――同人誌版は、キャラクター表紙をはじめ、イラストがない冊子となっていますね

 今回は初めて、キャライラストなしで本冊を製本印刷しています。
 本の体裁としては、純粋に“文芸誌”ということになります。

 一方、ルセナとマリーシャのイラストは、ミサラギ氏にポストカード用として本冊とは独立したものとして、イラストを起こしていただきました。 
 本作品を大変評価していただいたこともあり、地元作家のミサラギ氏にお願いすることにしました。

 キャライラスト表紙で印刷製本する、ライトノベル式スタイルを基本としていたのですが、販促上の理由から今回、文芸誌とイラストを分離し、お互いの作品を相互オプション装備仕様にして多様化する、という方法を試みました。

 というのも、

 イラストがあったほうが嬉しい =本冊(無イラスト本)+イラストポスカ
 イラスト無い方が良かった =本冊のみ
 イラストだけ欲しい =ポスカのみ(オンライン版QRで本冊も読みたい場合は内容だけなら読める)

 と、それぞれ購入ポイントがピンポイント化かつ多様化してきているのに、対応するためのひとつの方法、ということになります。
 ここ数年の同人誌即売会の参加状況から、個人的感想として考え出したひとつの回答、ということにもなります。

 ゼロ年代以前のような、キャラ表紙で目を引いて購入いただく流れ(ジャケ買い的なもの)は今は通用しない、場合によってはマイナスになる可能性もある、が一次創作文芸の即売会での現状かなということで、新しいスタイルを模索した第1弾作品、ということになりますね。

――さいごに

 全体的にはいろんな楽しみ方ができる、多角的なエンターテイメント小説として仕上がった作品かなと思います。

 同時に、寓話的要素にも挑戦しようというコンセプトも盛り込まれ、それがラストに集約されています。

 『精霊の水瓶』の執筆期間は2021年後下半期~2022年2月ですが、社会情勢や価値観が非常に混迷を深めていった時期に当たり、それをいち国民として当事者としても目の当たりにしてきました。

 文学者・漫画家を問わず、物語作家というのは、社会が混迷を深めた時、人々の心の在り方が非人道的な方向へと向かわないように食い止める、人間の良心を訴える砦としての社会的役割もあると考えていますが、本当に微力な同人作家としてでも、一矢報いるという気概を込めて書かれた作品でもあります。

 マリーシャとルセナ、それぞれの最期の想いが、ひとりでも多くの人々の心に響くといいなと思っています。

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 チャンレンジングな試みも多い意欲作となった『精霊の水瓶』は、それまでの作品の総決算的な意味合いも、次の作品のスタイルに繋げるきっかけともなる意味合いもある、当サークルにとってターニングポイント的な作品になるといいいなと思います。

 『精霊の水瓶』は、イベント頒布の他、BOOTHで通販も行っています。(BOOTHではA5版を通販限定で販売しています。対面頒布は2024年より文庫版となっています)
 また、Web版として小説投稿サイト「ステキブンゲイ」さんにも掲載されています。(Web版はポストカードイラストはありません)
■精霊の水瓶 BOOTH通販ページはこちら
■精霊の水瓶 Web版(ステキブンゲイ版)はこちら


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