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半地下の窓から『パラサイト 半地下の家族』(ネタバレなし)

「半地下」の窓から、電柱がぼんやり見える。天井からは汚れた靴下が下がっている。もちろんクリスマスではない、乾かすためだ。

あらすじ

 「半地下」に暮らす4人家族。ギヴと姉のギジョンは、wifiが繋がらないかと家の中をうろうろしている。目の部分が黒線で隠された意味深なポスターと『寄生虫』というSFスリラーのようなタイトルから緊迫した映画を想像していたので、家族の軽妙なやり取りに肩の力が抜ける。そもそも半地下に住んでいるのだし、このキム一家はかなり切迫した生活を送っているはずだが、悲哀よりもコメディのような感覚が勝っている。

 そんなキム一家にも、転機が訪れる。ギヴの友人が、自分は留学に行くからと今までやっていた家庭教師の仕事を紹介してくれたのだ。彼が教えてくれたのはホテルもかくやと言うほどの邸宅に住むパク家。庭には芝生が広がり、4人と家政婦一人には広すぎる家で、ギヴは巧いこと彼らに取り入る。そこからいとこの友人と偽ってギジョンを家庭教師として引き入れ、ギジョンは父をドライバーとして雇わせようと画策し……とキム一家は「他人」という設定でパク家にそれぞれ就職する、というお話(だけではないのだがこれ以上は言わない)。

まざる笑いと哀しみと

 カリスマ性の溢れる家庭教師を「演じる」ギジョン始め、なんとか職を得ようとするキム家の策略は手が込んでいて可笑しい。演技の練習をしたり、トラップをしかけたり、4人のやり取りはコミカルでテンポが良い!


 でも、自分が職を得るということは、それまでその仕事についていた人を追い出すという訳で。追い出す場面に確かに私は笑ったはずなのに、次の瞬間には笑えなくなる。上を見上げればきりがないけれど、下を見ても果てしなく続いているという苦しみ。ある場面でこの映画はがらりと空気を変える……ともいえるし、私が笑っていただけで重苦しい空気はずっとそこにあったのかもしれない。逆に、シリアスなはずの場面にもどこかにユーモアがある。その混ざり合いが見事だ。



そして、裕福と貧乏も、地上と地下のようにはっきり分かれているわけではない。

「パク氏はお金持ちなのにいい人だ」
「お金があるからいい人なんだよ」

こう思っていたキム家が、パク氏たちの「特権意識」に気が付くとき、それはきっと面と向かって差別されるよりも堪えたはずだ。
誰も、誰かを傷つけようとは思っていない。でも、自分がいる位置からしか世界は見えない。地上からは地下は見えず、半地下からは「上」の少ししかみえない。半地下の窓が地上の半分しか切り取れないように。そしてその余白に期待したり、逆に見限ったりする。


ギジョンが、汚水溢れるトイレの蓋を下し、その上に座って煙草をくわえている場面が印象に残っている。その目に浮かぶ諦念。

上と下は決まっている。善と悪は分かれている。

そうだろうか。

『パラサイト』は、そんな天井と諦念に揺さぶりをかける映画だと思った。

作品情報

『パラサイト 半地下の家族』

監督:ポン・ジュノ
製作年:2019年
日本公開:2020年1月9日(2/4現在188館で上映中)
言語:韓国語


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