見出し画像

生きてさえいれば

こんばんは。

「作家は短命、画家は長寿」

横山大観は90歳、葛飾北斎は89歳と当時としては相当な長生き。
モネは80代後半、ピカソは90代と洋の東西を問わず、後世に名を残す画家はご長寿も目立ちます。

一方、芥川龍之介が35歳、太宰治は39歳、三島由紀夫は45歳でいずれも自殺。
ラディゲは腸チフスで20歳、カフカは肺結核により40歳と早逝しています。
79歳まで生きた谷崎潤一郎、38歳にして胃潰瘍で亡くなった岸田劉生の例もあるものの、早逝している芸術家の中では作家や詩人などの文字で表現する職種が目立ちます。


小坂 流加さんもまた39歳の若さで、自著の主人公と同じ病でデビュー作文庫化の刊行を待たずにこの世を去っています。
死後4年が経過した今月に入り、映画化されることが発表され、再度注目を集めています。


最初で最後の作品と思われた『余命10年』ですが、実は小坂さんが亡くなった約半年後に家族によって愛用のパソコンに残されていた原稿が発見され、書籍化されています。
それがこちらの『生きてさえいれば』です。

大好きな叔母・春桜(はるか)が宛名も書かず大切に手元に置いている手紙を見つけた甥の千景(ちかげ)。病室を出られない春桜に代わり、千景がひとり届けることで春桜の青春の日々を知る。学内のアイドル的存在だった読者モデルの春桜。父の形見を持ち続ける秋葉。ふたりを襲う過酷な運命とは?
魅力的なキャラクター、息もつかせぬ展開。純粋な思いを貫こうとするふたりを描いた奇跡のラブストーリー。
『余命10年』の著者が本当に伝えたかった想いの詰まった感動の遺作。


こちらは死との距離感は遠いとはいえない登場人物が少なくないものの『余命10年』とは異なり、まだまだ色々できる人たちの物語です。
どこか粗削りで著者がまだ存命であれば、更なる編集がなされていたのかもしれないという印象は受けたものの、長生きできぬことを知っている人が先を生きる人へ向けておくるエールのようにも思える作品。

”人はね、どんなに悲しいことがあっても、どれほど絶望しても、ひとつの感動や、ひとつの喜びや、ひとつの恋で生きられるの”
”生きていなくちゃ、悲しみや絶望は克服できない”
”生きてさえいれば、きっといつか幸せが待っているよ”

辛い時、悲しい時、生きていれば色々あります。
落ち込んでいる時には、目の前でエレベーターが通り過ぎただけで、自分の運の悪さを嘆きたくなるという、些細なことでもダメージを受けることもあります。
「生きてるだけでまるもうけ」とは思えぬ気持ちの時だってあるでしょう。
それでも、誰かに会えるのは生きているからこそです。

人生もお天気と同じく晴れの日ばかりじゃない、曇りの日も雨の日も嵐の日もあるでしょう。
自分だけがなぜと思うこともあるかもしれません。
電車を待つ間に涙が止まらない時も、どうしても起きるのも外出するのも辛い時があるかもしれません。
それでも、生きているからこそできることがあります。

前向きになれない日があるのも人間です。
できないことよりもできることを考える。

もっと生きていれば著者は何をしたかったのか?
『生きてさえいれば』は、タイトルや冒頭の暗い気配とは裏腹に、パンドラの箱のように最後に希望が見える作品です。


この記事が参加している募集

サポートして頂けると嬉しいです。あなたの応援が励みになります♪