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短編小説

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架空のおはなし
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記事一覧

幻影のシンガポール

チャンギ空港に降り立った。そこに無駄なものはなく、逆にいうとすべてが無駄なものであった。…

Haru
4か月前
1

パリから足をのばして

狭い部屋に置かれたMarshallのスピーカーからMaroon5のSundayMorningが流れた。 もう朝か。 …

Haru
10か月前
2

ルクセンブルクの影

「結婚してほしい。」 彼は私に跪き、そう言った。 次の瞬間には小さな箱が開けられていた。…

Haru
1年前
7

古都クラクフに根付く因縁

カツカツと乾いた音が、軽快に鳴り響く。 私の手捌きは安定感があり、いつものルートの歩みを…

Haru
1年前
4

あの子とブリュッセル、時々アントワープ

「しょんべん小僧は残念スポットなんかじゃない。」 「EUの本部は絶対にここはじゃない。」 …

Haru
1年前
1

アムステルダムの裏側

ドラッグとセックスの街、アムステルダム。 そんなのは虚構だ。 アムステルダムは優等生のよ…

Haru
1年前
3

ベルリンは笑う

広がるコンクリート。 けたたましく駆け込む電車の音。 垂直に歩けたってなかなか辿り着かないような高いビル。 それは日常であり異常な光景である。 この光景にもう一つ付け足せば東京ではないことが分かるだろうか。 すれ違う人たちはいくら仲がよくてもオリンピックを一緒に観ることはない。 移民がひしめくドイツの首都、ベルリンである。 ベルリン駐在の前任者からの引き継ぎ資料を久しぶりにパラパラとめくっている。 そこに書かれているのは、彼の旅行記のようなものだった。アウシュ

おはようプラハ

ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿が一匹の…

Haru
1年前
2

ブダペストの夜警

ドアを開けた。そろそろ陽が落ちる。 仕事が始まる。 1週間分の食料も買い込んだし、久しぶ…

Haru
1年前
4

ウィーンでは女神が歌う

21歳。はじめての海外旅行。 その場所に選んだのはオーストリア、ウィーンだった。 一番懸念…

Haru
1年前
1

ヴェネツィアはどんな都

水と、ともに生きてきた。 これはよくある比喩でもないし、人間の60%が水で出来ているという…

Haru
1年前
1

フィレンツェの窓

いつも一人だった。 それは仕方なく一人なのではなくて、間違いなく自らの手で掴み取った一人…

Haru
2年前
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ローマでひとり

僕は悩んでいた。 この店を手放すか否かについて。それは10年ぶりに街で見かけた同級生に声を…

Haru
2年前

透明なモスクワ

待ち合わせをしていた。 待ち合わせというのは、大抵が目的地の近くの駅だったり、その日予約している店だったりする。ただその日は違っていた。 家を出てから既に半日ほどの時間が経っているのにも関わらず、時計の針は半分しか進んでいなかった。ツカヤは小学生の時からずっと住んでいる高円寺の駅から、電車と飛行機を乗り継いではるばるロシアの首都に来ているのであった。 「珍しくおばあちゃんから手紙が来ているわ。見ておいてね。返事の手紙は引き出しの一番下の便箋を使って。なかなか減らないのよ