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望郷

違う国の大学寮の一室に住んでいる。一人で歯を磨いて目覚ましをかけてぬいぐるみを抱いて寝る。人々が異国の言葉で仲良くなったり恋人をつくったり喧嘩をしたりしているのを眺める。私も異国の言葉で友達を作ってときどき喧嘩をして泣いたりする。

それでも夢を見る。私が選ばなかった全てのものの夢を見る。それは例えば私の故郷の海であったり、地下鉄であったり、高校の制服を着た友達であったりする。あるいは家族や、兄弟や、自分の国の言葉で友達を作って喧嘩をする生活であったりもする。

ここにはその全てがない。私がさみしくなっても、病気になっても、怪我をしても、誰もやってこない。ここでは私はいつもひとりでいる。友達を作って、一緒にご飯を食べて、隣で授業を受けても、ひとりで眠りにつく。置いてきたものの夢を見る。ここには故郷の海も地下鉄もない。

私は違う国でもうすぐ二十歳になる。友達が異国の言葉で私の誕生日を祝ってくれるだろう。

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