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SF/ディストピア小説「地球の果ての温室で」がめちゃくちゃ良かった!!【読書感想】

キム・チョヨプ著、カン・パンファ訳の
「地球の果ての温室で」
というSF小説がめちゃくちゃ良かったので語らせてください。

忘れないうちに書かなければ!と床に正座して書いています笑

ちょっと長めなので見出しもつけてみました。

あらすじ

「ダストフォール」という謎の現象が起きて、すでに世界が崩壊した状態からのスタート。

ダストが何なのか具体的な説明はされない。

分かるのは、

ダストとは赤い霧のような何かで、
「耐性」を持たない動植物は防護服なしでダストに見舞われるとすべて死に絶える

ということだけ。

死んだ森。
微生物も死に絶え、死んだ植物が腐ることもなくそのままの形をとどめている。

あたりが暗くなり、ぼんやりと明るく照らされる場所を見つけ、
ようやく「座標」を頼りに目指していた目的地が実在することを知る。

そこで突然、防護服を着ていない人間の集団に囲まれ、うなじに激痛を感じ、まもなく意識を失う。


ここまでがプロローグ。

ダストって何!?
防護服着てない人たち何者!?
崩壊した世界で遠くからもわかるほどの明かりが灯っているってどういうこと!?

とこの時点でぐっと引き込まれるのですが、
そこから始まるのは「ダスト」から再建した後の
「ダスト生態研究センター」での植物学者のお話。

これがまたリアルで面白くて。


とってもリアルな植物研究者の話がぶっ刺さる

ダスト再建後の世界では、再建以前の植物の復元と保存を担当する植物研究者がメインでお話が進んでいきます。

食用とか薬として「使える」植物じゃないと、
研究費を使ってまでわざわざ保存する必要なんてない!

と切り捨てられることを嘆くシーンがあるんですよね。
「すっごくおもしろい形をしてるのに。」って。

なんてリアルな研究費の使い道に対する葛藤~!!

私は学生時代、生物系の研究室に所属していたのですが、
あまりにもリアルでまだ序盤なのにここが読めただけでこの本面白かったなって満足できると思いました。

実験の結果の分析とか、それをまとめて報告するメールの文面とか、初めての学会での発表の緊張感とか、すべてがリアルだし詳しく描かれていて。

今の仕事は内容もやっていることも全く研究と関係ないのですが、
頭が研究者の世界に戻ってきたような感覚になってしまって、
この一週間は仕事にあまり身が入りませんでした笑


伏線回収の巧みさに鳥肌

ここからいよいよ物語の根幹に関わる謎の植物、「モスバナ」が出現します。

ある地域で突然異常増殖していて困っていると政府から研究所へ、分析をお願いしたいと依頼がきます。

ここからモスバナの謎を追っていくうちにプロローグの死んだ森とのお話がつながっていきます。

もうすでに過去のものとして「ある」ことが当たり前の状態で描かれていたものが
終盤にかけて本当に少しずつ少しずつ明らかになっていくのですが、

伏線回収が巧みで何度も鳥肌が立ちました。


崩壊した世界での人々の葛藤と暮らしの描写に心揺さぶられる

近未来のテクノロジーや植物研究の話もさることながら、

崩壊した世界における人々の心理描写がたっぷりで、設定の面白さだけじゃなく感情面からものめり込んでしまいました。

著者のあとがきがすべてを表しているなと感動したので引用します。

この小説を書きながら、わたしたちがすでに深く介入してしまった、後戻りできない、けれど今後も住みつづけなければならないこの地球を思った。とうてい愛せそうにない世界を前にしながらも、最後にはそれを建てなおそうと決心する人々についても。

きっとわたしは、その気持ちについての物語を書きたかったのだと思う。

こんな醜い世界なんかなくなってしまえばいい、と半ば本気で思っているのに、
一方ではなんとか生きていく道を模索してしまう。

滅びゆく世界の中で葛藤する等身大の人たちの姿がびしびし伝わってきて、
読んでいるこちらも一緒に不安になったり呆然としたり、めちゃくちゃに感情が揺さぶられました。


海外文学初心者にもおすすめ

それから、世界が一度崩壊してしまっているので、文化的な側面の描写がほとんどない分、
海外文学初心者でも読みやすそうだなとも感じました。

再建後の世界はせいぜい研究所の中と、学会発表の場と、もう一箇所くらいしか出てこないのですが、

どれも概念としてひっかかりなく読めると思うので、気になった方はぜひ読んでみて欲しいです!




ここまでお読みいただきありがとうございました✨
↓ちゃんとしたあらすじが気になった方のためにリンクも貼っておきます!

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