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Food Journey- ホットワインに広がる小宇宙

クリスマスの季節になると、ドイツでよく飲んだホットワイン(Glühwein グリューワイン)を思い出す。
※ホットワインは和製英語だそうで、Mulled wineが本物の英語。

今日はホットワインの作り方とそれにまつわることを綴る。

ホットワインの作り方(ドイツ仕込み)

材料は、赤ワイン・シナモンスティック・クローブ(丁子)・スターアニス(八角)・オレンジ・リンゴ・砂糖かはちみつ。

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ワインは白でもよい。ドイツのワインエリア(西側)では白ワインベース(多くはリースリング)のホットワインも人気。ボルドー系やオーストラリアのシラーズなどの濃いワインのほうがおすすめ。今回は、KALDIで800円くらいだったポルトガルの赤ワインを使用。とにかく安いワインでOK。

分量はお好みで。オレンジは半分はスライス、残りは絞ったジュースを入れると、自然な甘さが加わる。煮立たせないようにゆっくり火にかける。

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ドイツのレシピを検索していたところ、ラム酒を入れるとおいしいと書いてあったので、ラム酒も隠し味に入れる(ワイン350mlに対し大匙1くらい)。

アルコールもある程度飛んでしまうのでお酒の弱い人にもおすすめ。

【こばなし】ちなみにドイツでは、ホットワインにラム酒をドボボと入れたFeuerzangenbowle(ファイヤーツァンゲンボウレ)という胃の中が燃えそうな飲み物がクリスマスマーケットに登場する。日本語に訳すと「火のトングパンチ」。氷点下の中、外で飲むと体がかっと熱くなる冬の着火剤。

ホットワインはどこから来たのか?-小宇宙が広がっていた

近年、日本でもホットワインが気軽に楽しめるようになってきた。
皆、これはクリスマスマーケット発祥のドイツから来た、と思っているに違いないが、実はこれ、ギリシアが発祥だった。

ヒポクラテス、という古代ギリシアの医者が、医療の一環で発明した、とされている。その後、ローマ帝国がヨーロッパ全土を支配し、ローマ軍の冬の健康のために飲むことを促進していたため、ヨーロッパ全土にホットワインの習慣が広まったのだとか。

しかし、先ほど私が作った「ドイツ仕込みのレシピ」、これに入っている材料は、全然ドイツやギリシアを起源としないものが入っていることに気づいた。

・クローブ(丁子):原産はインドネシア
・スターアニス(八角):原産は中国とベトナムの国境あたり
・シナモン:エジプトが起源?と言われている
・オレンジ:そもそもドイツにはない植物。実は昔はオレンジは甘くなくて、今の甘いオレンジは10世紀ごろスペインアンダルシア地方で品種改良によって生まれ、その後16世紀の大航海時代に地中海やアメリカ大陸に広がった。
※そして今回使ったオレンジはオーストラリア産。

つまり、今私たちが飲んでいる「ホットワイン」は、結構近代に入って形作られたもの、ということがわかる。

ヨーロッパ人が、大航海時代に世界を旅をして、各地でいろいろな珍しいものを見つけてくる。その中の一つがスパイス。
このスパイスをワインに入れたらおいしいのでは?とかそういうノリで今のホットワインが形作られたに違いない。

世界をいろいろ旅して、おいしいものを神の血なるワインに集結させた飲み物、それがホットワイン。

このことを知って、今回作ったホットワインの香りをかぐと、ヨーロッパのワイン畑だけではなく、インドや東南アジアの蒸し返すような暑さや、オーストラリアの広大な大地に注がれる日差しを感じることができる。

ホットワインには小宇宙が広がっていた。


今年は、どこの国もクリスマスマーケットは軒並み中止と聞いている。
さみしいけれど、こうやって自分で作ったホットワインに世界を感じてみるのも悪くない。

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