「宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶」内山崇【読書記録】
今回は内山崇 「宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶」の紹介になります。
先日ポッドキャストで、JAXAの宇宙飛行士選抜試験を知り、どのような試験内容か気になり本書を手に取りました。
もともと宇宙にはそれほど興味はありませんでしたが、宇宙飛行士選抜試験というこの世で最も過酷な選抜試験には興味がありました。
そして何より、試験に受かった人物が語るのではなく、最終試験に落ちた人物が語る試験の全貌に惹かれて一気に読了しました。
本書はこんな人にオススメ
・宇宙飛行士選抜試験がどんな試験か知りたい
・本気で何かに挑戦したい
・失敗から学べることを知りたい
本書の3つのポイント(見どころ)
・受験者同士の絆の深さ
・宇宙飛行士に求められる能力
・全力で挑むことの尊さ
あらすじ
著者はもともと有人宇宙開発に関心があり、宇宙工学を学び、IHIに入社。
その後、JAXAへ転職し、技術者として宇宙開発に従事する立場にいました。
そんな中で、JAXAが宇宙飛行士の募集を行ったことで、著者の人生が大きく動き出します。
著者の挑戦は最終的には不合格に終わったものの、後から振り返ると非常に価値あるものとなっていました。
本書が面白いのは、宇宙飛行士選抜試験内容の奇抜さと、他では決して見られない受験者同士の絆などが随所に見られる点にあります。
また、ファイナリストという立場から語られる体験談は、読者にも大いに役立つものとなっています。
著者は、この試験を以下のように振り返っています。
最終合格できなかったにも関わらず、このような感想を抱かせるこの試験を通じた気づきは、非常に興味深いものとなっています。
以下、個人的に印象的だったシーンをご紹介します。
1.受験者同士の絆
受験者の経歴は様々であり、著者の経歴が霞むほど皆優秀で輝かしい経歴を持っています。
その上で、今のキャリアを捨ててでも、足を踏み入れたい魅力が宇宙には、有人飛行にはあるということです。
そのために、皆全力で試験に臨むわけですが、皆ライバルでありながら他人を蹴落とすような関係にはなりません。
お互いがお互いの能力の高さや人格を認め合い、宇宙開発を進めたいと願う同志として共感しあっていると言います。
印象的なシーンとして、最終合格が決まった時に、合格した同志を心から祝福している場面があります。
なぜ最終合格が自分ではないのか、なぜあいつが選ばれるのか、といっった感情は全く見られません。
自分が選ばれなかったことは悔しいが、相手が合格したことに対して、100%納得しているということです。
それほどまでに、受験者同士の性格や内側が分かる試験でもあり、自分自身が曝け出される試験ということなのでしょう。
2.宇宙飛行士に求められる能力
メディアとして初めて宇宙飛行士選抜試験を密着したNHKは、この試験のことをこう表現しています。
試験やその後の活動で宇宙飛行士に必要な要素として以下の8つが挙げられています。
この中で、「啓発啓蒙活動の素養」という、見慣れない用語が登場します。
本書では下記のようにこの素養について語られています。
宇宙飛行士は、子供が憧れる代表的な職業の一つです。
自信が宇宙に行くだけでなく、それを通じて子供にとって魅力的な存在であり続ける必要があるというのは、確かに宇宙飛行士にとして重要な要素だと思います。
たとえ、宇宙飛行士になったとしても、その後も自分を進化させるために努力を重ねていかなければならないということです。
3.全力で挑むということ
このような過酷な試験に著者は挑みますが、試験を下記のように振り返っています。
このように、自分のベストを出し切ったと果たしてどれだけの人が自信を持って言えるでしょうか。
少なくとも私の身の回りでは見たことはありません。
そこまで全力を出し切れた試験であれば、結果がどうあれ受け入れられると著者は言います。
全力で試験に臨み、受験者の隅々まで試験し尽くされたのであれば、自分の全てを見た上で宇宙飛行士としての適性を判断してくれたと思ったということでしょうか。
これらのことからも、宇宙飛行士選抜試験が相当に過酷な試験であることが分かります。
全体を通して
本気で挑戦した結果の失敗には意味がある。
これが、この本を読んでの率直な感想です。
巷には成功体験が溢れていますが、これは本気で挑戦し、失敗をした人の物語です。
だからこそ、深く共感できる内容になっています。
宇宙飛行士になれなかったこと自体は残念なことではありますが、著者はかけがえなのない財産を手にしたと言います。
かつて、これほどまでに本気で挑戦したことがあっただろうか。
もう悔いはないと思えるほど、自分の実力を出し切ったことがあるだろうか。
本書はそんなことを考えるきっかけとなりました。
これほどまでに大きな挑戦はこれから難しいかもしれませんが、やりたいこと、成し遂げたいことを徹底的に追求しよう。
そう思える良書であり、何かに挑戦したいと思っている人に贈りたい一冊でした。
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