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さよならと君へ

大学から定期的に送られてくる学生紹介の冊子に、君が映っていた。

決められた質問に対して、自分の答えを紙に書き、それと一緒に映るという、大学パンフレットでありがちな内容だった。

“クリスマスに欲しいもの”

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結局、あの講義の後は席が隣になることも、話す機会もなく、いつの間にか冬休みを迎えていた。

何か分かったことと言えば、君は上京して大学に来たということ。

実は別の講義も被っていたということ。

バイト先に何度か来ていたということ。

めちゃくちゃ頭が良いということ。

恋愛漫画だったとしたら色々展開がありそうだが、現実は何もなかった。

なぜあの時、連絡先を聞かなかったのだろうと今でも後悔している。

たぶんこの先もずっとーー。

君は紙に”心のゆとり”と書いていた。

他の学生は彼女や金などと欲を曝け出した中学生みたいな回答をしていたが、その分君の回答を瞬時に見つけることができた。

そしてその回答を見て、あの時の寂しいという言葉と勝手に繋げてしまった。

もしあの時一歩踏み出していたら。

そう考えるたびに、後悔が上書きされていく。

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君が映っていた冊子を見てから一年以上が経った現在、ついに大学4年間の教育課程が修了した。

この一年大学にも図書館にも行けなかった。

だから君を一度も見かけていない。

もし大学に行ける生活が続いていたら、もし図書館で勉強する生活が続いていたら。

やはり後悔はどんどん上書きされていく。

しかし、この気持ちを社会に出てまでも引きずるわけにはいかない。

この大学唯一の後悔と大学最大の幸せな時間を心の中にあるキャンパスノートに記しておこう。

いつかまた、出会った頃の君のように書物の整理をする時まで。

さよなら。

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