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#8 天才より、あなたの友達でありたい

子供の頃から「自分は天才だ」と信じたかった。

天才でなければ困る、とすら思っていたし、
自分以外の人間すべてを
天才と凡人に分けて見ていた。
「天才か凡人か」という価値観は
呪いのように俺の脳を支配していて、
ここ最近は特に呪いで苦しむ日々が続いていた。


そんな呪いがついさっき、終わりを迎えた。
(たぶん!)

うぉんうぉん泣いていたので今すごく眠いのだが、
この気持ちを忘れないうちに記しておく。


1. 天才でなければ心が持たなかった過去


そもそもなぜ俺は、自分を天才だと信じたかったのか。
思い返すと、その理由は3つあったように思う。


1つ目に、生きる理由を見出せなかったから
少年時代の俺は自分がやりたいことも分からず、
自分に社会的価値があるとも思えず、
何を根拠に生きていっていいか分からなかった。

もし自分に、
教科書に載るような偉人になれる可能性がある
天才の素質を秘めているのなら、
それは十分に生きる理由として成立する!と思った。
この世に何も残せずただ死んでいくのは
生まれなかったのと同じではないかと考えて、
怖がっていたような記憶がある。


2つ目に、自分が他人と違うことを悩んでいたから
コミュニケーションが苦手で友達も少なかったし、
そもそも他人に興味を持てなかった。
クラス全員が笑うような場面でも全く面白いと思えず、
どうして自分だけ?と悩んでいた。

しかし、伝記を読むと
天才や偉人は子供の頃から周りと違っていた
と書いてあるではないか!
自分も天才だから、周りと違うのは仕方ないこと。
そう思い込むことで、
一定以上落ち込むのを自ら防いでいたのだ。


そして3つ目が、
他人からの悪口を気にしたくなかったから

俺は今でも、冗談と本気の区別がつかない。
小中学生の冗談は強烈だ。
友達同士のノリで
「しねよ」「ばーか」などの言葉が毎日飛び交う。
そして俺は、その全てをまっすぐ受け取ってしまう。

自分の心を守るため、
「これは凡人の言葉だ、気にすることはない」
と言い聞かせていた。
本当に失礼なことをしていたとは思うが、
悪口を言う人は凡人=自分より下だと思わなければ、
心が持たなかった。


2. 28歳で自分は天才じゃないと気付いた


多くの人が、
自分天才かも!と思う瞬間を経験するだろう。
しかし、20歳前後あたりで他人と見比べて
自分の力量・スキルの限界に気づく。
そのうえで自分なりの幸せを目指して進んでいく姿を、
世間的には「大人」と呼んでいるような気がする。

俺は、ずっと大人になれずにいた。


天才の素質があるなら、という条件で、
自分に生きる免罪符・執行猶予を出していたのだ。
俺が天才でなければ、俺が困る。
これまで散々、他人を心の中で凡人呼ばわりし、
下に見てきた俺が、
今更「天才ではありませんでした」なんて
認められるはずがない。

だが、
自分への期待は年齢と共にどんどん下がっていく。
音楽活動をしたが、バンドはダメになった。
会社員も向いていないと辞めてしまった。
「こいつ、本当に天才の素質があるのか…?」

俺に期待していた小さな俺の分身が、
ぞろぞろ席を立ち、去っていくのを感じる。
待ってくれ!
まだ成功のチャンスは残ってる。
ほら、また新しいことを始めたんだ。
今度こそ、成功して見せるから!!


心の奥の方では、少し前から分かっていた。
俺は天才じゃない。
少し変わっているだけの凡人だ。

だけど、それを認めてしまったら
今度こそ自分を応援できる理由がゼロになる。
これを書いているついさっきまで、
天才の可能性を捨てきれずにいた。
だからこそ、ずっと苦しかった。
思い描いていた成功にたどり着くイメージが、
もう全く湧かなくなっていたから。


3. 天才じゃない、友達だからすごさが分かる


今日、妻と電話で話していた時に
俺は抱えきれなくなった思いを全て打ち明けた。

全てを聞いてくれたうえで、彼女は言った。
「でも、私も凡人だよ?」

俺はとっさに答えた。
「あなたは凡人じゃないよ!!
 まだ知られてないだけで、
 世間をひっくり返せるほどの天才なんだ!」

 あなただけじゃない。
 俺の友達は全員天才だ。
 俺は誰のすごさを聞かれたって、
 本気で語れる自信がある!!」


妻は、ゆっくりとした言葉で教えてくれた。
「それはさ、友達だから分かることじゃない?

 私は、みんなすごさを持ってるんだと思う。
 天才・凡才とかじゃなくて。
 みんなすごいけど、近づかないと見えないの。

 君が、友達みんなをすごいと思えるのはさ、
 みんなが君に見せてくれたからじゃないの?」


ふっ、と心が軽くなるのを感じた。
そうだったのかもしれない。
俺の友達みんなが絶対的な天才の素質を持っていて、
それに惹かれたから友達になったわけじゃない。
みんなと友達になって、
近くでそれぞれのすごさを見せてくれたから、
俺はみんなのこと、天才だって思ってたのか!!


4. あなたの友達だから、生きていける


なんだか色んなことが腑に落ちた俺は、
妻にお礼を言って電話を切った。
出先で車を停めたまま話していたので、
自宅に向けて発進させる。

さっきまでの話が、頭の中をぐるぐるしている。


俺は、俺の友達みんなのすごさを知っている。
そして、そのすごい人達が俺を認めてくれている。
「俺は天才だ!」と胸を張るのは無理していたけど、
「俺は○○ちゃんの友達だ!」と思えば
力を抜いたまま自分を誇れるような気がした。

俺は、もう天才じゃなくてもいいんだなぁ。
あぁ、よかった。


そう思った瞬間、涙が込み上げてきた。
一人になって、安心したのかもしれない。
車を走らせながら、俺は声を上げてしばらく泣いた。
(声まで出たのは自分でもちょっと驚いた)

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そうして今、家に帰ってきてこれを書いている。
少し前までは自分の中から
「凡人であることを認めていいんだな!?」
と恐喝めいた声が聞こえていたが、
今は何も聞こえなくなった。

俺はすごい人達の友達だ。
それだけで、十分胸を張れる。


俺の長年の劣等感が
たった1度の電話で解決したとは考えにくいので、
まだまだ自分との戦いは続く気がしている。
だけど、俺には友達がいるからきっと大丈夫だ。

それに、天才・凡人の価値観が無くなったのなら
これからもっとたくさんの人と
友達になれるチャンスが巡ってくるだろう。
その時を楽しみに、明日からも胸を張って
一所懸命生きていこうと決めた。

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