「崖下人の理想」~崖から落ちそうな君を下から押し上げる人間でありたい~
自分が人間としてどう在りたいか。
それは私が生を送る中で自己に投げかける問いの一つだ。
その答えの1つは、
「崖から落ちそうな人間を下から押し上げる人間」だ。
そりゃあもちろん、崖の上から引っ張り上げる人間が一番素敵に決まっている。崖の上からなら落ちそうな人間もよく見えるだろうし、多くの人を引っ張り上げられるだろう。そして、引っ張り上げた後も一緒の道を進むことだってできる。
けれども、それは崖の上にいる人間にしかできない。自分が下にいる以上、それをいくら夢想したって仕方がない。自分は自分のできることを考えるのだ。
昔、崖から落ちたときに脚をやられているから、舗装もされていない道をひいひい言いながら這って進む毎日さ。
ちょっとした段差でもあれば、先の道も見えなくなるし、目線には毒虫の類もうようよいる。
でも、だからこそ、崖から落ちることの恐ろしさ、崖下の厳しさを知っている。
自分のことで精一杯だから、あっちもこっちも助けることなんてできやしない。
でも、たまたま自分の頭上でぶら下がって今にも手を放しそうになっている奴が目に入った時くらいは、立ち上がってそのけつを押してやるさ。
別に善人気取りをしたいわけじゃない。
崖の下からだと、目障りなくらいぶら下がってる姿が目につくだけだ。
それに、想像してみてほしい。陰気臭い顔で匍匐前進してるやつらが隣に横並びになってるところを。鬱陶しくて仕方がない。
崖下の資源は有限で、一度そこの住人となったら上に戻るのは困難だ。
上から他人をこっちに突き落として来るやつ。
上の人間をこっちに引きずり込むやつ。
上に上がろうとするやつの足を引っ張るやつ。
こんな奴らは正気の沙汰とは思えない。
そして、何よりも気に食わないのは、自分から飛び降りようとしているやつ。
――急に落ちてくるから、最悪、下敷きにされるのだ。
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