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陰謀論を真に受けていた私が冷静になって種苗法改正について考えたこと②

前回のnoteを見て、育種家でありぶどう農家さんである林ぶどう研究所の林慎悟さんがメッセージをくださり、育種業界や改正の背景についていろいろ教えていただいきました。今回はそのお話をもとに勉強したことを、前回のnoteに補足する形で書いてます。

思っていたよりもずっとややこしかった種苗法改正の背景

前回は海外への流出を防止するための改正と書いた。農水省の資料や会見で一番強調されている部分はそうみたいだけど、日本の育種・種苗業界が衰退しつつあること、現行の制度が国際標準とずれていることと、も背景にあるみたい。①海外流出、②業界の衰退、③グローバル標準とのずれの3つの課題全てについて、自家増殖が絡んでいて、自家増殖を制限することはそれぞれの解決策の1つだった。それぞれ丁寧に説明されればわかりそうなものの、今回の改正案ではそれをひとまとめにしているからすごくややこしくて、ちゃんと理解されてなかったのかな?と思った。私も理解するまでめちゃ時間かかった。。。

業界の衰退

前回のnoteで、多大なコストがかかるのに品種開発した人にちゃんとお金が戻っていないこと、新品種の出願数が減少していて日本の農業の競争力への影響が懸念されていることを書いた。林さんも日本の育成者や種苗業者がどんどん減っていっていることや、品種開発の速度が落ちていることをすごく危惧されていた。林さんのお話を少しまとめると、

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(林さんのいらっしゃる)岡山では、ここ10年で大幅に苗木業者の数が減少したため、自県で賄えなくなりつつあり、県外に外注したりしている。また、育成者は、種苗業者に許諾することでわずかながらの収入を得ている状況(種苗業者はそれを生産しカタログに乗せて販売する)。今の仕組みでは不特定多数の人にたくさん苗木を売らないともうからない。そうなるとどこの誰が苗木を買ったのか把握できず、違法行為があっても取り締りが難しい。知財に関していまだに意識が低い生産者もおり、違法譲渡も行われてしまっている現状がある。
今回の改正が廃案になると、民間の規模の小さいところは、育成をやめるか、守るために、大手に品種をゆだねるといったことも起きてくるかもしれない。育成者や種苗業者が減れば減るだけ、大手の寡占状態が起きやすくなってしまうのではないかと思う。
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とのこと。育成者や種苗業者が減るほど大手の寡占状態が起きやすくなってしまうのでは、というのはハッとした。私は、大手企業の市場支配で農家さんが困ることを何よりも嫌だなと思ってた(だからこそそういう言葉に流されて根拠もなく陰謀論を真に受けていた)のに、たしかにそっか…!と思った。フードサプライチェーンの一番川上を農家・生産者と一括りにしてしまっていたけど、その中にも種苗を開発する人→種苗を生産する人→種苗を売る人→農産物を生産する人→農産物を売る人という流れがあるということを初めて意識した。農業のこと勉強し始めた頃、小規模農家さんが〜みたいな話をしては、先輩とか詳しい人たちに小規模農家さんって具体的にどんなの?何a?売上は?とか突っ込まれては、農家さんにもいろいろあって、目的(食料生産なのか土地の維持なのかとか)・作物・販売の仕方とかによって話が変わってくるから分けて考えなきゃ、と自分に教え込んでいたつもりだったけど、私が困るだろうと思っていた農家さんは一体誰だったんだろう、、、?

ちなみに種苗についても、大きく分けて穀物、野菜、花、果樹の4つで全然異なるそう。
穀物:行政機関による品種改良が多い。自家採種しやすい。
野菜:民間企業が多い。(2代目以降は形質が揃わないために)自家採種がほぼ行われていないF1品種が多い。固定種であればできるが自家採種はできる。種子の購入代がかからない分、種とりの手間はかかる。
花:登録品種数の8割程度を占める。権利商売をするといった感じではなく、侵害をされないようにといった観点での登録が多い。
果樹:行政機関、民間の個人が半々くらい。苗木を自家増殖しやすく、1度販売したら、次の苗の購入は見込み辛い。さらに一つの苗から、沢山の収穫物が採れる。育成者が特に問題視していたのが、果樹で多くみられる栄養繁殖(種子ではなく根や茎などで増やす)。増殖が容易で、海外にも持ち出ししやすい。

このあたりの話は「第1回優良品種の持続的な利用を可能とする植物新品種の保護に関する検討会」の参考資料も参考になった。

国際標準とのずれ

もともと種苗法は、1961年に採択されたUPOV条約(植物新品種保護国際同盟)に加盟するため、条約に適合する法律として1978年に制定されたそう。UPOV条約は、新しく育成された植物品種を各国が共通の基本的原則に従って保護することで、優れた品種の開発・流通を促進し、農業の発展に寄与することを目的としている。日本も加盟していて、UPOV条約と整合するように種苗法も改正されてきた。

自家増殖についても同様で、2004年の検討会の頃からすでに国際標準に合わせていくことを検討していたみたい。UPOV条約では、14条には育成者権の範囲として、自家増殖には育成者権が及ぶ(自家増殖は育成者の許諾に基づいて行われなければならない)こと、15条には育成者権の例外として、合理的な範囲かつ育成者の正当な利益を保護することを条件に育成者権を制限する(自家増殖を認める)こと、が書かれている。つまり、自家増殖は原則禁止ではあるけど例外的に認められる場合もあるということ。一方で日本の種苗法では、自家増殖は原則認められており、例外的に禁止される場合があるとなっている。今までは、農業生産現場に混乱が生じないよう配慮しつつ、例外的に禁止する品種を増やしすことでだんだん国際標準に近づけていっていた。それを、今回の改正でやっと登録品種については原則禁止(許諾が必要)として、国際標準にしようとしている。日本の今までの話については、第2回農業者の自家増殖に関する検討会の、「資料3-2 自家増殖に育成者権の効力を及ぼす植物の基準の基本的な考え方」がすごくわかりやすかった。

反対派の中には、23種(1998年)→387種(2019年)と禁止項目が急速に増えていることや、登録品種がない品目まで追加されていることを危惧している声がある。私もえーそれは怖いなあと思ってた一人だったけど、国際標準に徐々に合わせようとしていたこと、現場に影響が少ない品目だから追加していたことを知って、そういうことね〜と納得できた。

あと、もう一つ国際標準として、同じく日本が加盟しているITPGR(食料・農業植物遺伝資源条約)に基づいて農民の自家増殖の権利を保障すべきという意見もあった。ITPGRは、人類の遺産である植物遺伝資源を世界中の研究者等が自由に利用できるようにすべきという国際的な申し合わせが、自国の天然資源に主権的権利を有するとするCBD(生物の多様性に関する条約)と矛盾するのを解消するために、CBDに調和するような形で定められた。たしかにITPGRの前文と第9条で、今まで農民が遺伝資源の保全・開発に寄与してきたことを認識し、農民の権利として利益の公平な共有や意思決定への参加を保護すること、この条約が農民の種苗の使用・販売を制限するように解釈されてはならないことが明記されている。

UPOVとITPGR、両方の国際条約に基づいて、日々の暮らしや営みの農業として農民の持つ権利と、産業である農業として育成者の持つ権利のバランスをとりましょうって話のよう。どういうバランスがベストなのかというのは、正直ちょっと勉強したところでわかんないけど、正解はないだろうし、種苗業者、育成者、農家、環境とかいろんな状況もふまえながら、それぞれの国で時代で、考えていく必要があるんだろうなと思う。上で触れた業界の衰退の状況とかを踏まえると、今回の改正で登録品種のみ許諾制で一般品種は自家増殖OKとすることで、バランスのとれたものになるのかなと感じた。このへんの話は大川ら(2012)が参考になった。


まとめ

こうやって昔の資料も含めていろいろ見ていくと、15年以上も前からいろんな人の意見を聞きながら、なるべく現場に混乱が生じないように、遅すぎるのではと思うくらい少しずつやってきたことが十分に理解できたし、今回の改正は必要だと思った。十分な議論がなされていないのにコロナ禍のどさくさに紛れてというのはちょっと違うんじゃないかなと思う。でも、改正案に関するページからは海外流出防止のことしか読み取れなくて、種苗業者や育成者に対してお金が戻る仕組みを作って業界を強くしていくことや、国際標準に合わせることも書いてあったらもう少しわかりやすかった、というか納得感があったのかな?とも思った。

もともと信じ込んでた陰謀論によるバイアスを払拭しつつ、全然知らなかったこと調べて冷静に考えていくのはすごく時間もかかったけど、わかんなくてもやもやしてたことがだいぶ晴れたからすっきりした。複雑なことを、〇〇が悪い・敵だという風な単純化すると、大事なことをたくさん見落としてしまう。単純化して理解するんじゃなくて、複雑なことを複雑なまま、解きほぐすことによって理解することを意識して、これからも勉強していこう〜〜。

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東京大学農学国際専攻M1🌱 大好きな農学で社会に貢献する人になれるように勉強中です。

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東京大学農学生命科学研究科農学国際専攻修士1年の岸本華果さん。「農業を通して消費スタイルや暮らしを良いものにしたい」と考えつづける岸本さんがいろいろとnoteに書いています。

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