【映画レビュー】歲月神偷 echoes of the rainbow

2010年の香港映画です。

1967年から1977年までの10年間の香港のある家族の生活を美しい映像で綴ります。

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舞台は1960年代の香港。
まだ経済発展を迎える前の香港の下町で、人々は日々精一杯の生活を営んでいました。

隙間なく立ち並ぶ集合住宅の細い路地には、洗濯物が頭の上にひらひらと浮かんでいます。
そんな永利街の裏通りで、靴屋の羅一家は暮らしていました。

父親は毎日コツコツと革靴を丁寧に作りあげ、口の立つ母親は、商売上手。
高校生の進一は成績優秀、スポーツもでき、ギターも弾け、きれいなお金持ちの彼女がいます。
小学生の進ニは兄とは全く正反対で、勉強もできず、出かける先で万引きを繰り返していました。

どこにでもいそうな平凡な家族は、貧しいながらも優秀な兄を誇りに、平和に暮らしていましたが、進一の彼女がアメリカに移住することになってから、徐々に歯車が狂い出します。

進一の成績は落ち始め、スポーツ大会でも金メダルが取れなくなります。
父親は叱責しましたが、母親は優しく慰めます。

そんな折、大きな台風が、香港を襲い、羅一家の靴屋は屋根を飛ばされ、父親が苦労して作った革靴も全て水に浸ってしまいます。
雨が上がった時、必死に家が飛ばされないように支えていた進一が倒れていました。

進一は白血病に侵され、当時の香港の医療ではどうすることもできず、羅一家は親戚の助けを受け、北京の病院へ行きます。

雪の中で無邪気に遊ぶ兄と弟。
雪の夜、窓越しに病院に運ばれてくる血だらけの怪我人を見て泣く弟を慰める優しい兄。

北京でも進一の病気を治すことはできないと言われ、香港に戻ると、進一は徐々に力を失い、入院することになります。

兄のいなくなった家では、とうとう弟の進ニの悪事が露見してしまいます。
これまで盗みを働いていたことを父親に叱責され、泣き叫ぶ進ニ。
そこにはもう慰めてくれる兄はいませんでした…

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とにかく映像がきれいで、ノスタルジックな香港の街並みと、人々の優しい生活が心に染みます。

万引きと過ぎ去る時間がメタファーとして表されているのだと思います。

映画を見ながら、今の香港を思い、変化することを必然と課された街の因縁のようなものを感じました。

*1842年にイギリス領となり、1997年に中国に返還、その後、50年間は一国二制度が認められています。



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