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希望の日大芸術学部

 Fランク大学不要論についての議論がネット上で巻き起こっているが、Fランク大学の必要の是非については過去のnoteに書いた通りである。

 一方で、有名大学でも組織の不条理が発生する事件が相次いでいる。そのことがきっかけで学生たちの就職活動に響いていることも事実だ。日本大学(以下は日大)は典型的な例として挙げられる。

 2018年に浮上したアメフト部の悪質なタックル問題や田中英寿前理事長(2024年1月逝去)の脱税事件が発覚した。この事件により、日大のブランド価値は低迷している。複雑な心境は否めないと思う。

 現在は作家の林真理子氏が理事長を務めている。日大のOBとしてワンマン組織にメスを入れ、組織改善に取り組んでいる。日々奮闘している。だが、そう簡単にはいかない。そう指摘するのは先ごろ日大の顧問を退任した精神科医の和田秀樹氏だ。

 和田氏は次のような考察を示している。

< たとえば学部再編のような提案をしても「学部のことに首を突っ込むな」と教学側から一蹴されます。既得権益にかかわる改革案は議論することすらできません。学部長会議は現状維持を望むばかりで、日大の改革など本気で考えているとは思えませんでした。>

和田秀樹『日大病は治らない』廣済堂新書 p.27

 こうした暗黙のルールが日大の学校改革を妨げる要因となっている。日大上層部と常務理事会の中枢部の古びた体質も変わらない構造がある。田中元理事長への忖度も根強かった。このままでは大学のブランドに傷をつけてしまう。

 だが、日大には希望がある。芸術学部が人気だからだ。前出の和田氏は芸術学部の優れた点について説明している。

< この学部が面白いのは、いわゆる美大系の大学にはない学科、たとえば放送学科や映画学科、あるいは写真学科といったかなりニッチな専攻が含まれているということです。
 しかも歴史が古いので、卒業生にはそれぞれの業界で名前の知られた人物、新進気鋭の若手から評価の安定している中堅やベテランまで、それこそ「えっ、この人も日芸(日大芸術学部の略称)なの!?」と驚くような人物が大勢います。>

前掲書  p.120

 文化芸能活動で目覚ましい活躍と功績を出している有名人や著名人を輩出しているからだ。日大にとって個性を活かしたイメージ戦略を打ち立てることができる。

 先の林真理子氏は人気作家として健筆を奮っている。若かれし頃に人生の艱難辛苦を経験しながら、文章修業に明け暮れていた。小説を執筆する傍ら、エッセイの『ルンルンを買っておうちに帰ろう』を上梓して、ベストセラーになった。エッセイストとして頭角を現したのだ。「女性」をテーマとするエッセイを書き続けている。多くの女性ファンの心を掴んだのである。

 爆笑問題田中裕二氏と太田光氏は共に日大芸術学部の出身だ。二人は在学中に出会った。中退後にお笑いコンビを結成した。長い下積みを得ながらも、田中氏のテンポの良いツッコミとフレーズのバリエーションで注目を集める。相方の太田氏は突拍子なボケと訳の分からない芸風が功を奏し、一躍人気の人となった。ただ、太田氏はテレビの司会業で時事問題についてコメントする度に炎上の嵐を受けている。不見識な物言いは仇となったようである。

 俳優の鈴木ふみ奈氏は芸術学部出身でサックスを専攻した人物だ。映画『仮面ライダー・令和 ザ・ファースト・ジェネレーション』で出演を果たした。その後、『ギャングース』『エッシャー通りの赤いポスト』『レッド・シューズ』『レンタル×ファミリー』などの作品に出演し、演技経験を重ねている。直近ではNetflix限定の映画『シティー・ハンター』に登場した。地上波やネット配信向けのテレビドラマにも出演し、精力的に活動を進めている。『クラスメイトの女子、全員好きでした』はその一例である。人間に潜む表と裏の感情をうまく使い分け、役に徹しようと奮闘している。

 2024年に放送されたNHK連続テレビ小説『虎に翼』の脚本を手掛けた吉田恵里香氏は芸術学部文芸学科の卒業生だ。司法の巨大な権力に立ち向かい、「働く人のケアを惜しまない」という誠心誠意な心を持つ弁護士の三淵嘉子の生涯を描き、話題が沸騰した。最も印象に残る人物である。

 吉田氏は2024年11月2日の日芸祭2024のトークショーに登場する予定である。

 日大芸術学部の底力を過小評価してはならないと思う。エンタメ界での活躍ぶりを見れば、希望の光を照らす存在であり続けると確信している。


<参考文献>

和田秀樹『日大病は治らない』廣済堂新書 2024


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