見出し画像

極限の状態でも成長する経済とは? 世界9か国のモデルケースから、これからのグローバルエコノミーを占う本。


データや指標の「外」にあるリアル経済

世界中の極限状態(エクストリーム)の場所に注目して、「生の経済」を追ったら何が見えてくるだろう? 
本書は英国人エコノミストのそんな問いから生まれた1冊。
アフリカ・ヨーロッパ・アメリカ・アジア、4つの大陸・9つの土地を著者自らが旅し、現地の人々に徹底取材した全く新しい経済書であると同時に、その地を生きる人々のルポルタージュ、さらに知られざる異国の生活を垣間見れる紀行本としても読み応えがあり、とにかくはちゃめちゃに面白い。

紹介される9つのエリアはこちら。

画像1

(本文より抜粋)

再生・失敗・未来――世界9か国の3つの経済

第1部(再生の経済)では、2004年のスマトラ島沖地震で史上最大の津波被害を受けたインドネシアのアチェ、中東ヨルダンの砂漠に生まれた世界最大の難民キャンプ・ザータリ、アメリカ最大にして最重警備のルイジアナ州立刑務所、いずれも、何もかも奪われながら独自のシステムやルールによって人々がゼロから経済を息吹かせた場所が登場。

第2部(失敗の経済)では、麻薬ギャングが支配する中南米の無法地帯ダリエン、賄賂と汚職がはびこるアフリカの最貧国キンシャサ、産業革命の申し子から失業と貧困にあえぐ町へ転落したスコットランドのグラスゴー、それぞれ壊滅的な経済状態を強いられている場所にスポットライトが当てられる。

第3部(未来の経済)では、超高齢社会のトップランナーとして日本の秋田県が登場。さらに北欧のシリコンバレーと呼ばれるIT大国エストニアのタリン、南米で初めて先進国の一員となりながら世界で最も格差の進むチリのサンティアゴ、これからの世界が向かうだろう「高齢化・IT化・格差社会」の最先端をいく地が選ばれている。

経済は現場で起きている

著者リチャード・デイヴィス氏はそれぞれの土地に赴き、現地の人へインタビューを敢行。政財界のお偉方や経済学者ではなく、あくまでそこで暮らす普通の人々にフォーカスしている。相手は老若男女さまざまだが、インタビューの距離感が絶妙というか、誰もが日々の暮らしや悩みを自然に吐露しているのが伝わってきて、人種や性別や宗教や年齢関係なく、読んでいてすごく身近に感じられるから不思議だ。今回、日本版の刊行にあたって秋田の章に登場される方々に連絡をとらせていただいたのだが、そのなかで何人かの方が「ああ、リチャードさんね」と親しみを込めて思い出されていたのが印象的だった。

nnQQH20I1020口絵cc19_ページ_4

口絵より抜粋。一番上の写真、右から3番目が著者。

経済書というと専門用語がたくさん出てきてとっつきにくいイメージがあるかもしれない。でも本書を読んでいると、経済とは人が出会って売り買いする活動全般のことであり、データや指標の中の数字ではないんだというのに気づかされる。
たとえばアチェでは、ゴールドが通貨のような役割を果たしていて、男女とも金の装飾品を身につけている。結婚するとき新郎は新婦に1年の生活費をまかなえるほどの金の腕輪を贈るという(相手の家に贈る結納じゃなく花嫁本人に贈られるのがポイント)。だから災害時に着の身着のままで逃げてきても人々は腕や指に資産を身につけていて、被災後の暮らしに役立ったわけだ。
同様に着の身着のままで逃げてきたシリア難民が暮らすザータリキャンプは2016年の起業率が42%だというから驚かされる(ある1年で区切った場合のアメリカの起業率は20~25%)。実際、キャンプ内には自転車のカスタマイズ店から小鳥のペットショップ、ウェディングドレスのレンタル店まで多種多様な店舗が軒を連ね、その数は大人6人に店1軒もある。なぜ何も持たない人々がなぜここまで経済をたくましく成長させたのか。
世界的に経済の先行きが暗い時代だからこそ、このザータリの章にはヒントがたくさん詰まっていて、ものすごく勇気づけられる。
気になる方はぜひ試し読みのページに飛んでみていただきたい。

エクストリームな時代に

日本版の版権を取得したのは2017年。ロンドン・ブックフェア出張時にプロポーザル(50ページ程度の著者リポート)を読んで、めちゃめちゃ面白い!!と興奮したのを覚えている。原稿をフルで読む前に版権をオファーするのはリスクを伴うものの、ノンフィクションの世界は版権売買のスピードが速く、いい作品は原稿を待っているあいだに売れてしまうことが多い。そこで絶対に売れます!!と会社に企画を猛プッシュして獲得にこぎつけたのだが、昨年ついに渡された完全原稿は予感を裏切らなかった(裏切らなかったのは原稿の面白さで、絶対に売れる、の部分はこれから実現させないとヤバかったりもする)。
当初のタイトルはOn the Edge。先端、崖っぷちの経済というニュアンスだったのが、イギリス本国発売時にExtreme Economies(極限の経済)というタイトルに変更となったのだが、まさか日本版を刊行するタイミングで世界中がこんな極限状態に追い込まれているとは思いもしなかった。
今回、日本語版の刊行に際して「コロナ禍におけるエクストリーム経済」をテーマに特別にあとがきを寄せてもらったので、本編とあわせてお読みいただけたら幸いだ。

イングリッシュマン・イン・秋田

最後になるが、7章の秋田はもちろんわれわれ日本人は必読。少子化と超高齢化、限界集落や世代格差などシビアな日本の現状の中に著者がどんな希望を見たのか、こちらも試し読みページを特別公開中なので、ぜひ覗いてもらえたらうれしい。

追伸:ゲラを読んでいて、まさか「Ojinkusai」「Obatarian」という言葉が英国人エコノミストの本に出てくるとは思いもしませんでした。

編集長O

内容

フィナンシャル・タイムズ(FT)紙&マッキンゼーが選ぶベストビジネス書ノミネート!
エストニア(超IT社会)、日本(超高齢社会)、チリ(超格差社会)他、世界9カ国の〝極限(エクストリーム)市場"を徹底取材。
気鋭の英国人エコノミストがグローバル経済の明日を占う話題作!

コロナ禍に寄せた日本版オリジナルの著者あとがきを特別収録。

本書は世界9つの「極限の最前線」にスポットを当て、現地取材を敢行した著者が「生きる経済」「死ぬ経済」のリアルに迫り、IT化社会、超高齢化社会、超格差社会など、様変わりする世界経済の行方を占う。

「再生」「失敗」「未来」の3部から成る本書は、先進国から発展途上国、そして人口過多の地域から人影まばらな地域まで、全く異なる条件・環境下の経済を取り上げている。「どこでも起こりうること」に「どう備えるか」、あるいは「破壊や危機から立ち直るにはどうすればいいか」を鋭い視点で道先案内したこれまでにない経済書として、世界が未曾有の体験をしている今だからこそ多くの方に手に取っていただきたい一冊。

○インドネシア・アチェ(災害復興経済)
○ザータリ難民キャンプ(急成長する非公式市場)
○ルイジアナ州立刑務所(通貨なき地下経済)
○中南米ダリエン地峡(無法地帯の経済)
○コンゴ・キンシャサ(賄賂に支配された経済)
○グラスゴー(産業なき経済)
○秋田(超高齢社会)
○エストニア・タリン(超IT化社会)
○チリ・サンティアゴ(超格差社会)

この本で取りあげる9つの地域では、再生・失敗・未来、3つの種類のエクストリーム(極限)のいずれかが人の暮らしに重大な影響を与えている。
世界の人たちの大半はやがて、この3つが交じり合った場所に住むことになるだろう。
経済の「先兵隊」的なこれらの地域が、私たちに起こりうる未来の窓となるのだ。

(本文より抜粋)

賛辞

作家・橘玲

超高齢化・格差拡大・デジタル社会……。わたしたちはいったいどこに向かっているのか? それを知りたければ、未来を先取りした「極限(エクストリーム)の場所」を旅してみよう。

イングランド銀行チーフエコノミスト アンディ・ハルデーン

極度のストレスや困難に直面したときに、我々は自分自身について最も多くのことを学ぶ。デイヴィスは、説得力のあるケーススタディを用いて、経済システムにおいても同じことが当てはまることをつまびらかにした。そのアプローチと洞察力において、『エクストリーム・エコノミー』は啓示であり、必読の書である。

2018年ノーベル経済学賞受賞者 ポール・ローマー

本書の9つの深い考察は、「経済」とは、「方程式とデータが相互作用したときに起こるものではない」ことを再認識させてくれる、非常に重要な内容となっている。経済は、生身の人と人が相互作用するときに起こるものである。

元イングランド銀行総裁 マーヴィン・キング

独創的なアプローチで、誰にでもわかりやすく経済を本当に動かしているものを解明した一冊。

フィナンシャル・タイムズ紙

デイヴィスは、極限に追い込まれた経済市場を訪ね、気候変動、人口動態の変化、国家破綻に直面した際の「立ち直る力(レジリエンス)」が何かを教えてくれる。

元Spotify チーフエコノミスト ウィル・ペイジ

リチャード・デイヴィスは、我々の経済活動に伴うトレードオフを明らかにし、それがもたらす疑問をアート的な手法を交え問いかけてくる。

エコノミスト誌 ブックス・オブ・ザ・イヤー2019

パナマのジャングルから津波後のインドネシア、ルイジアナ州の刑務所システム、シリア難民キャンプに至るまで、災害に見舞われた経済と危機にさらされた(そして革新的な)人々から学ぶ教訓の旅。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?