気候変動の影響
気候変動により地球の温暖化が進むと、生存の基本である水をはじめ、農業や水産業といった食にかかわる産業や、インフラなど生活に関わるあらゆる分野に影響が及ぶことが予想されています。IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は、下の図のように4つの領域への影響を発表しました。
上の図の左上から時計回りに「水資源と食糧生産」、「健康と幸福」、「生物多様性と生態系」、「都市生活とインフラ」です。各分野内の3つないし4つの丸のうち、小豆色のものは「悪影響」を、小豆色と黄緑の縞模様の丸は「悪影響と良い影響の両方」、グレーの丸は「研究がなされていない」ことを表します。
この図をベースに、「水資源と食糧」「健康と幸福」「都市生活とインフラ」に対して気候変動が与える影響の詳細を見ていきましょう。
水資源
水に関する問題は大きく3つ考えられます。
水不足
まず最初に、気候変動が進むことにより、充分な飲み水や生活用水が得られなくなることや、水質の悪化が挙げられます。これは気温の上昇につれて水温が上昇することで、渇水につながる地域があるほか、干ばつ地帯では状況が悪化すること、水温が高い状態が続くことによる単一の微生物の異常繁殖などが理由です。さらに水不足は、農作物の生産にも悪影響を及ぼします。
海面上昇
地球が温暖化すると海水の温度も上がります。暖まった海水は膨張するため、海面は上昇。過去100年間ですでに海面は16cm上昇したとされており、近年はさらに上昇率が上がっています。海抜の低い島国は浸水の可能性が高く、日本を含む海に面した場所では、海岸が浸食して周辺の住民は移住を余儀なくされるかもしれません。
グリーンランドや南極などにある氷床や氷河が溶けることによる海水の増加もまた、海面上昇の理由となります。気候変動が進むにつれて、さまざまな要因が複合的に影響しあいながら状況が悪化していくことがわかるでしょう。
災害
短時間の豪雨や台風の影響による水害や土砂災害は、日本でも現実のものとなってきています。今後、気候変動が進み、さらに気温が上昇すると災害の規模や頻度が上がることが予想されています。
食糧生産
温暖化が進み気候が変化すると、従来その地域で生産されてきた作物が気候に適さなくなり、農作物の品質が低下したり、収穫高が減少したりすることが起こりえます。例えば気候変動への対策を取らない場合の、1981〜2000年の稲作の平均収穫量を100とした際の2081〜2100年の予想収穫量は下のようになっています。
上の地図の赤い部分は、北日本から関東、九州まで現在よりも収穫量が増える地域を示しています。一方で日本海側を中心に九州から東北地方にかけて、紫色から青い部分が広がり、2000年までと比較して、収穫量が低下する地域があることもわかるでしょう。気温の上昇が3℃以上の場所は、稲作に適さなくなるとも考えられています。特に米は高温になると品質が落ちるケースが多いことから、今後は高温耐性品種への転換が図られることになるようです。
夏の日差しと従来よりも高温により、野菜や果物の収穫期の早期化や生育障害の発生の頻度の増加、日焼けなどといった品質の不安定化が指摘されています。海産物に関しては、海水の上昇によって、サンマやカツオなどの回遊魚の移動時期や活動場所が変化することで、漁獲量の減少や個体の小型化の可能性が懸念されています。
都市生活とインフラ
都市部におけるヒートアイランド現象は激しさを増し、実際、日本の猛暑の記録は年々更新されています。今年はスペインやイタリア、ギリシャなどヨーロッパ南部で気温が40℃を超え、イタリアでは今月、48℃を超えることが予想されています。また、8月の平均気温が30℃のアメリカのダラスでも38℃を超える日が続いており、来月にかけては40℃を超える見込みです。
台風や大雨は交通や電力、水道、通信といった都市生活のインフラやライフラインをストップさせます。近年、短時間の豪雨による河川の氾濫や浸水、冠水などの水害、土砂崩れ、土石流による被害が日本各地で多発しているのは、誰もが実感するところではないでしょうか。
交通網が断たれることで孤立する地域や、電気・ガス・水道の寸断、また、異常気象による発電施設の稼働停止、浄水場の冠水といった状況はすでに発生しています。今後はさらに、極端な気象現象によるインフラ網の機能停止や発電施設への海面水位の上昇や高潮、高波による被害、土砂災害による水質汚染、道路の改修や復旧、メンテナンス費用の増加、都市ガス供給のストップなどが予測されています。
被害が広範囲の産業活動や経済活動に及んだ場合の損害額は多大なものになり、それに伴って保険金の支払額は増加するでしょう。さらに、多くの人の生活が崩壊し、移住を迫られた人たちが貧困に陥る状況も起こりえるでしょう。
健康と幸福
気候変動による健康リスクのひとつに熱中症の被害があります。また、外気温が上昇すると寄生虫や真菌、細菌、ウイルスといった感染症を引き起こす病原体の活動が活発化することが考えられます。例えば日本脳炎は蚊(コガタアカイエカ)が媒介する伝染病です。コガタアカイエカは気温が高い時期に活動する生き物で、温暖化によって生息域が広がり、活動時期が長期化することで流行の可能性が高まります。
気温が高い状態と無風状態が重なると、光化学オキシダントと呼ばれる光化学スモッグが発生します。光化学スモッグは目や喉に刺激を与えるほか、ぜんそくの発作を誘発する可能性があります。さらに酷暑が予想される夏の屋外での活動の制限や、気温の高さによる睡眠障害が起こることが指摘されています。
異常気象や病気への懸念、大気汚染、水や食べものの不足、インフラの破壊、森林火災の頻発、住む場所を奪われるなど、命を脅かされる数々のリスクの高まりや快適な生活が失われるストレスは、メンタルにとっても大きな負担となるでしょう。
下記は当記事執筆の際に参考にした情報のリストです。より詳しく知りたい内容については、ぜひリンク先をご覧ください。
* * *
気候変動により気候パターンが変化し、自然界のバランスが崩れることで生き物にもたらされるリスクについて
気候変動によって世界で起こるリスクの解説
気候変動による水質等への影響解明調査|環境省 水・大気環境局 水環境課
気候変動が公共用水や水質に与える影響についての調査報告
温暖化でお米の生産はどうなる?|農研機構ニュース 農業と環境 No,110
国内の稲作に対する温暖化の影響と将来予測
~日本の気候変動とその影響~|環境省 文部科学省 農林水産省 国土交通省 気象庁
環境省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、気象庁による気候変動の現状分析と将来予測
国内の水質汚染の歴史と原因、対策
都市インフラ、ライフライン等(水道、交通等)への影響と適応策|神奈川県
神奈川県によるインフラに対する気候変動の影響と適応策
千葉県による気候変動の現状分析と将来予測、適応策
文:森野みどり
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?