Yonda🌟羊と鋼の森

ずっと興味があった、「羊と鋼の森」を読んだ。

読み始めるまで、ピアニストの話だと思っていたんだけど…（ピアノの森みたいな）違った。調律師の話だった。

この話、人物の造りがすごく魅力的なの。女性が描く小説ってすごくそれが感じられやすくて好き。

主人公の「外村」は何も特別なものは持っていないけど、調律と出会った時の直感力と行動力は素晴らしい。
彼は音楽を何もしていなかったが、高校時代にたまたま体育館のピアノの調律に立ち会う。森に囲まれた田舎で育った彼にとって、そのときに聞いたピアノの音は、「森」にいるような感覚だったらしい。この彼の感性は、物語を通して彼の音作りに深く関わってくる。

彼はこの日のこの瞬間に、「調律師になる」ということを決めてしまった。

大人になればなるほど、私たちは頭で考えることが多くなって、直感を信じてただ動きづらくなる。

けれども、直感で選んで「自分で」決めたことは常にその道のりの中で正解だったと感じられる。それがすごく気持ちいい。どれだけ悩んでも、それを越えたらやはり自分が選んだものが最高なもので、その結果に生まれたこの瞬間の自分を好きでいられる。

「外村」は自分に何が必要で、何が不必要で、どこにエネルギーを注ぐのか、潜在的にわかっているみたい。彼は何も求めないけど、潜在的な情熱や穏やかさがある。それが彼の直感を研ぎ澄ませて、他の雑音で「大事なもの」を心の中に埋もれさせることなく光らせているのだと思う。すごくシンプルな人だ。

「外村」は調律の仕事を通していろんな顧客と出会う。
私もそれを通して、今まで仕事で出会ったお客さんたちのことを思う。
お客さんが求める音は様々だけれど、作中の調律師は、その裏にあるお客さんの望みに対して音作りをする。お客さんの中に入り込む。

うちの父はコンサルタントをしている。社長さんとお話しするとき、父の意識はお客さんの中に入り込んで、その人の望みを受け取るらしい。仕事のことだけじゃなくて、その人が大事にしていること、人生観、その中で社長さん自身が言葉に素直に出せない本音や、自分の正したいところが自然と見つかって、それを父の口から伝えているらしい。

２つの仕事がすごく似ていると思った。

コミュニケーションを取りながらお客さんの意思を尊重する仕事って、その中で自分がどんな風に反応するのかや、受け取ったものをどう受け入れるか・それにどう対応するかで、自分のことを知れる気がする。

父には聞いたことないけれど、「外村」はお客さんを通して自分を知って、自分がどんな人にどんな音作りをして、どう時間をかけて、どう勉強して…っていうのを確立していっている気がする。

また、「外村」の顧客であり、双子のピアニストの片割れ・和音の考えや周囲との関わり方の変化もそれと並行して進んでいく。

和音は初めの頃、いいものを持っているにもかかわらずそれを出しきれず、双子の妹・由仁に遠慮していたところがあったように思う。自分がどうしていきたいのか、確立されていなかったような感じがする。

由仁が病気になってから、和音が変わった。

和音の望みは潜在的に彼女の内側にあったものだと思うけれど、それを見つけて、外に出して、腹を括ったのだと思う。彼女はピアノを仕事にしていくことを自分の内側に仕舞い込んでいたが、それを外側に出して、かつ、言葉にするように変化していった。彼女は、「ピアノを食べて生きていく」。

人生を歩いていくと、いろんな人と巡り会うし、いろんなことを経験する。
その一つ一つに気持ちを傾けすぎるととてつもなく途方もなくて辛いけど、周りで起こることに自分がどう反応するのかを見つめることを一切やめると、自分がどこにあるのかや、自分の内側で何が起こっているのかがわからなくなる。

「外村」も和音も、どちらもそれを見つめていった先に、胸の内で光っている自分の望みを見つけたんだと思う。そして踏み出して、それが体の外側にも出てきた。

人はよく自分の外側に人生の目的や自分の生きている意味を探すけれど、結局今生きていて今自分が直面していることの中に自分の望みがある。「自分探し」と言うけれど、自分は常に自分自身と一緒にいる。その自分と対話することでしか、自分の考えを見つけることはできない。様々なことを頭に浮かべる中で望みを探していても、その望みは常に自分の中にあって、多くの人はそれに気づかないように自分の心を掻き乱したり、誰かに意見を求めているような気がする。（私がそう）

自分がしたいことをしていないと、辛くなる。
誰といても満たされない感覚になる。
結局自分のことを慰められるのは自分しかいない。
その自分で、人と接していきたいと私は思う。

宮下さんの美しい言葉や深い知識の中で、それに気づけてよかった。

人生頑張ろ〜🌟🌟