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薪割り

 僕は薪割りの名人だ。
 
 といっても、ただ薪を割っていただけだ。
 
 努力した覚えもない。
 高みを目指した覚えもない。
 
 ただ、三百六十五日、薪を割っていただけだ。
 
 僕はどんな木でも割ることができる。
 だから、皆、僕に薪割りを依頼した。
 
 この土地ではおかしな木しかならない。
 
 やたらと硬いもの。
 弾力のあるもの。
 奇声を上げるもの。
 
 僕はただただ、薪割りをする。
 そう、僕が割っているのはただの木材。
 
 なのに、どうして僕の手は真っ赤なのだろう。
 
 振り上げた鉈。
 木材が悲鳴を上げた。

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