針間有年

趣味で小説を書いています。 noteには短い話を置いていこうと思います。

針間有年

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マガジン

  • 夢に現れるそれらの話

    夢の中で出会う、とても短い物語。 エブリスタでも公開しています。

  • うちゅうのおはなし

    ブラックホールのもりびとさん、レストランのシェフさん、くつやさん、くすりやさん……。 うちゅうにすむ、みんなのおはなし。 ひと月・二話を目標に連載します。

  • 五行で遊ぶ。

    五行の中で自由に遊ぶ。

  • 終の集いし月の終

    Twitter上で公開している連載140字小説『終の集いし月の終』をまとめたものとなっています。2020.1-2021.12連載予定。随時追加していきます。

  • 写真を描く

    写真の情景を映しながら描く小説。

最近の記事

王国

 そこは僕にとって王国だった。  みんな僕の言うことを聞く。  みんな僕に気を遣う。  みんな僕に笑顔を見せる。  住みやすい王国だった。  それがたとえ作り物でも。  動かなくなったアンドロイドたち。  地面は油でキラキラと光っている。  僕の王国を壊したのは誰だろう。  僕はアンドロイドたちの部品を回収し、  すべてを混ぜて繋ぎ直した。  完成した大きくてぐちゃぐちゃのそれ。  僕はそれを旅立たせる。  跳ねて、跳んで、ドスンと落ちた。  

    • 馬屋

       馬屋の中で何が育った?  馬が怯えて逃げていったこの馬屋。  何もいないはずなのに、何かが蠢いている。  餌箱と、仕切りしかないこの小屋で、いったい何が。  空のはずの餌箱を一つずつ覗いていく。  何もない、次の箱も何もない、次も、次も。  最後の餌箱。  暗いその中に何かが蠢いている。    そういえば、馬屋で生まれる聖人の話があったような。  まさかと苦笑し、覗いてみた。  そこには黒い赤子の形をした何かがいた。  僕を捉えた瞬間、それは泣きだし

      • 培養

         僕の趣味は培養だ。  シャーレの中で小さな小さな生き物を育てる。  丁寧に栄養をやり、日を当て、必要な物をそろえる。  それらはすくすくと育っていく。  ある程度の大きさになると、液に漬けて更に大きくする。  その間にも、シャーレの中で培養を続ける。  そうしてできた、たくさんの僕。  僕が僕を培養し、培養された僕が僕を培養する。  部屋は僕で溢れている。  廊下も僕で溢れている。  玄関も僕で溢れている。  もうすぐ、この家は崩壊するだろう。

        • 鮮明

           あそこはどこだったのだろう。  僕の中に残り続ける鮮明な記憶、その景色。  路地裏の込み入った場所だった。  錆びた鉄筋が印象的だった。  そこで僕はあまりに色鮮やかな飴細工をもらった。  それは金魚だった。  暗い路地裏。  錆色の建物。  真っ赤な金魚。  僕の中に鮮明にこびりつくそれは、地図にない。    どこにも存在しないのだ。

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        • 夢に現れるそれらの話
          1,140本
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          2本
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          13本
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          4本
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        記事

          神隠し

           神隠しにあったのは、僕か世界か。  裸足で白い空間をひたすら歩く。  はじめは世界を探していた。  だが、今となっては惰性だ。  変化のないそこを、  腹も減らず、眠りも訪れず、温度も感じず、  ただただ、歩く。  疲れもしないものだから、延々と歩けてしまう。  僕の周りから、突然世界が消えてしまった。  世界から僕が消えてしまったのかもしれない。  どちらにせよ、僕はもう二度と世界と再会することはないだろう。  真っ白な空間をぐるりと見渡す。

           皿の上には何もない。  正しくは、見えない。  手に取ると、指に痛みが走る。  血が出た。  血はそれの輪郭を明瞭にする。  ――ああ、これは僕が割ってきた皿たちだ。  暗い衝動で砕いた皿たち。  今更になって復讐に来たのかい?  なんだかおかしくなって、僕はそれを口に入れる。  硬いそれを噛み砕く。  口から血が流れる。  喉が焼けるように痛い。  それでも、僕は笑いだす。  暗い衝動に嘘はなかったと、証明してやるんだ。

          巾着

           巾着の中には何がある?  流れ星の金平糖に、  月の欠片の琥珀糖。  天の川のゼリーと、  地球飴玉もある。  巾着の中にはおいしい宇宙。  夜の暗い部屋でもへっちゃらになる。  それは魔法の優しい巾着。

          中二階

           この建物には中二階がある。  一度訪れたことがある。  光の溢れた美しい部屋だった。  だが、あれから一度も行けた試しがない。  エレベーターに乗っても、  階段を上り下りしても、  中二階への道がないのだ。  そんな話を誰ともわからない誰かに話すと、  その誰かは笑った。  そして、僕を階段の踊り場に案内する。  その誰かが壁を強く押すと、  カチッ、と音がした後、壁が回転した。  現れたそこはやはり、光溢れた美しい部屋だった。  ――いつ

          願望

           あそこに行けば、願望を叶えてもらえるらしい。  みんながこぞって出かけた先は、街外れの白い建物。  何かの研究所だと言われている。  そこに行った人々は晴れやかな笑顔で、  願望が叶ったことを報告する。  噂が噂を呼ぶ。  街の人々は幸せいっぱいといった風に笑う。  涙や苦しみ、侮蔑や憎しみさえも消えてしまった。  それはみんなの願望通りかもしれない。  だけど、些かつまらない。  僕は好奇心と反抗心から、その建物に向かう。  歓迎されて

          順路

           僕は夜のおつかいに出かける。  ――順路通りに行けばいい。  そう言われ、歩き出した。  確かに矢印があった。  順路通りに行った。  薄暗い路地裏を抜けた先。  市場があった。  目当ての店の看板に従う。  順路通りに行った。  メモに書かれた物を買う。  家に向かって引き返す。  矢印に従って、順路通りに。  だが、先ほどの道とは違う道。  思わず振り返ると、  矢印が僕を嘲笑うかのようにひっくり返った。  正しい順路は元から

          食中毒

           ――昨日は何を食べましたか?  食中毒になった皆が困った顔をする。  それぞれで話し合う。  特に目ぼしいものはない。  医者も首をかしげる。  皆も首をかしげる。  僕はそれを知っている。  彼らは昨日、神を食べた。  何も知らず、とても美味しい肉として。  医者も食べた。  僕も食べた。  それは村の外の人々にも振舞われた。  近々、この近隣住民は全滅するだろう。  食中毒という、どこにでもありそうな理由で。

           持たない僕は崖の下。  君もあなたも崖の上。  だから僕は手をのばす。  君の、あなたの、大切なものを奪いたいわけじゃない。  そうじゃないから、安心して。  欲しいのは君自身、あなた自身。  手に入れたいわけじゃない。  引きずり下ろしてしまいたい。  こんな僕すら君は憐れみ、あなたは手を差し伸べるだろうか。  惨めでみっともなくて、僕はやっぱり崖の下。  早く潮が満ちてほしい。  こんな僕を連れ去って。

          花瓶

           花瓶が割れた。  ただそれだけなのに。  花瓶から出た花は瞬く間に散った。  花瓶から出た水は瞬く間に泥水になった。  花瓶から出た破片は刃となってあたりの人を刺殺した。  花瓶が割れた。  ただそれだけなのに。  阿鼻叫喚の地獄絵図。  その中で僕はただ立ちすくむ。

          洗濯機

           洗濯機はいたずら者だ。  だけど、その動きを見張ることは難しい。  何故なら洗濯をしはじめたら最後、  その中を覗くことはできないからだ。  乾燥を済ませた洗濯物を取りだすと、  白いTシャツが虹色に染まっていた。 「困るよ」  僕が言う。  すると、洗濯機はくすくす笑う。 「綺麗でしょ」 「綺麗だけど」  僕は呆れてため息をつく。  すると、彼はこう言った。 「君がこんなに洗濯物を詰め込まなければ、いたずらはしないさ」  ぐうの音も出な

          張りぼて

           張りぼての街があった。  虚栄心に溢れた住民は、  見掛け倒しの素晴らしい街を作った。  それは観光客を喜ばせ、  外部の人間から称賛を浴びる。  金が集まった。  張りぼてはやがて、本物の素晴らしい街になる。  誰もがその街が張りぼてだったことを忘れた頃、  大きな、大きな、嵐が来た。  街の旧市街地はきれいさっぱり消えてしまった。  そこはまだ張りぼてだったからだ。  更地になった土地を見て、住民たちは唖然とする。  そして、声を上げた。

          イニシャル

           イニシャルの盗難が相次いだ。  自身の名前を奪われ、  人々は混乱した。  警察は捜査を進めているが、依然犯人は分からない。  中でも皆が知りたがったのが犯行動機だ。  こんなものを集めて何になるのだ、と。  高額での取引か。  ただの愉快犯か。  人々は固唾を飲んで捜査の行方を見守る。  そんな中、僕は苦笑交じりにカクテルを作る。  街外れのバー。  隠れ家のようなそこで、イニシャルたちの宴が開かれていた。  人間の混乱模様にイニシャルたち