針間有年

趣味で小説を書いています。 noteには短い話を置いていこうと思います。

針間有年

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マガジン

  • 夢に現れるそれらの話

    夢の中で出会う、とても短い物語。 エブリスタでも公開しています。

  • うちゅうのおはなし

    ブラックホールのもりびとさん、レストランのシェフさん、くつやさん、くすりやさん……。 うちゅうにすむ、みんなのおはなし。 ひと月・二話を目標に連載します。

  • 五行で遊ぶ。

    五行の中で自由に遊ぶ。

  • 終の集いし月の終

    Twitter上で公開している連載140字小説『終の集いし月の終』をまとめたものとなっています。2020.1-2021.12連載予定。随時追加していきます。

  • 写真を描く

    写真の情景を映しながら描く小説。

最近の記事

言い伝え

 言い伝えを守らなければならない。  ある日、村長からお達しが出た。    だが、誰もその言い伝えの中身を知らず、  村長も言葉を濁した。  何を守ればいいかわからない。  村人たちは不安に駆られた。  翌日、小川が赤く染まっていた。  死人が出たのだ。  ――言い伝えを守らなかったからだ。  誰かが言った。  死んだ彼の行動を人々は思い返し、  何がいけなかったのかを相談した。  深夜の外出が禁止された。  翌日、井戸に黒い影があった。  死人が出たのだ。

    • 資料

       物語を書いている。  調べたい箇所が出てくる。  僕は資料を手に取る。  探していた内容はすぐ見つかった。  満足して資料を閉じようとすると、  中から騒がしい声が聞こえる。  ――僕も見て!  ――私も面白いよ!  ――このコラムは有益じゃない?  資料の中の情報たちが、きゃあきゃあ、と。  自分も物語に使われたいらしい。  可愛らしいお願いに僕は微笑む。  だけど、資料を閉じた。  全ての声を聞いていたら、物語がぱんぱんになってしまう。 「また今度ね」

      • 駄作

         これは駄作だ。  破り捨てようとした原稿から、生きた人間の声がした。  登場人物たちが声を発しているのだ。  ――殺さないで!  駄作のくせに生意気だ。  僕は舌打ちをする。  あまりにうるさいから、その原稿を机に投げるように置いた。  その夜、暗闇で天井を見上げていると声がした。  ――これは駄作だ。  僕は気付いた。  僕自身も何かの登場人物だと。 「殺さないで!」  僕は彼らと同じ言葉を発していた。  確かに僕の人生は駄作だろう。  それでも僕

        • 風向

           風向を決めるのが僕の役目。  物見やぐらで風と相談。 「今日は北へ行ってくれるかい?」  僕が言うと、風は頷いた。  北の村では水が不足しているという。  湿った今日の風が山にぶつかってくれれば、  少しは助けになるだろう。  翌日、勢いよく二つの風がやぐらに飛び込んでくる。 「どうしたんだい?」  僕は尋ねる。  どうやら、西に行くか東に行くか、もめているようだ。 「今日は東がいいと思うよ」  そう言うと、西に行きたい風が唇を尖らせる。  僕は微笑む

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        • 夢に現れるそれらの話
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        記事

          呪縛

           自分自身が作りだした呪縛。  それは負の感情で出来ていて、  僕に巻き付いて離れなかった。  苦しかった。  でも、それを笑い飛ばしたり、  馬鹿にしたりするのは違う。  いい、悪い、ではない。  そこにあったのだ。  必要だったのかもしれないし、  ただの足枷だったのかもしれない。  わからないけど、ただあった。  それだけ。  そう思えた。  それが呪縛の解けた証かもしれない。  何も変わらない日々。  それでも、ここからはじまる。  呪縛は解けた。

          ノート

           棚の奥からノートを引っ張り出した。  書きなぐるように、  時に罫線さえ無視し、  時に紙すら破り、  時に涙で濡れ、  ぼろぼろになった、そんなノート。  過去を求めて、  未来を否定して、  今を消そうとした。  でも、それができない。  そんなことが記された、一冊のノート。  自分をなじり、  自分を卑下し、  自分を責めた。  苦しい苦しい、僕の記録。  震える手で鉛筆を握る。  今なら、できるかもしれない。  過去を慈しみ、  未来に希望を。

          変異

           死を望んだ僕は、変異した僕を夢見た。  五年が過ぎた。  変異なんて劇的なものはなかった。  状況は良くならない。  いつまで経っても僕はみっともない。  僕は僕を認められない。  夢見た僕になれなかったら、  僕は僕を殺そうと思っている。  いや、思っていた。  僕はふと気づく。  あの日の僕が夢見たのは社会的変異。  それは確かに変わっていない。  悪くすらなっている。  だけど、僕は変異した。  だってそうだろう?  今、こんなにも死にたくない

          額縁

           画廊に入る。  そこには額縁しかなかった。  僕は額縁を見て回る。  普段は主役ではない彼らが、  こうしてメインで飾られるのは面白い。  だけど、どこか元気がないように見える。 「私たちはやはり主役ではないようです」  画廊の主人らしき男が、苦笑交じりに言った。 「ですが、それが分かっただけでもよいでしょう」  彼は晴れやかに笑う。 「生涯、名脇役に徹する覚悟が決まりました」  彼の姿が消える。  現れたのは威厳のある額縁。  確かにここまで立派だと主

          湯呑

           湯呑に温かいお茶を入れる。  何物にも邪魔されない、贅沢な時間だ。  気持ちは落ち着いていく。  静かになっていく。  心が決まっていく。  これで、良いと。  お茶を飲み終えると、僕は動き出す。  だけど、もう一杯。  僕は台所へ向かう。  震える手が、湯呑を落とした。  砕けた湯飲み。  言い訳を失ってしまった。  泣き笑いながら、僕は覚悟を決める。

          喪服

           喪服の行列が歩いている。  葬儀場へ向かっているようだ。  自動ドアが開き、その行列は吸い込まれていく。  僕は喪服を着ないで、そこら辺を歩いている。  泣く男女。  財産争いをする複数人。  疲れ果てたあの人。  人が死ぬというのは大変なことだ。  それでも、僕はこれでよかったと思うんだ。  ただ、一つ思うことがあるとすれば、  僕の大切なあの人のこと。  僕はその人の前に立つ。  あれだけ輝いていた瞳が今は光を灯さない  ごめんなさい、と言っても届かない

           公園の木の上。  見たことのない鳥が巣を作っている。  鳥は黒紫で、目がやたら大きい。    白目が見えていて、  それが妙に目立つものだから、  気味が悪い。  その鳥は先ほどからせっせと、巣に何かを運んでいる。  くわえているものは見えない。  確かに何かを挟んでいるが、それが何かわからない。  僕は首を傾げながら、それを観察する。  しばらくそうしただろう。  その鳥は突然、巣を蹴りだした。  そして、それを地面に落とす。  雛鳥がいるのではないか。

          他人事

           すべては他人事だ。  昨日、彼が行方不明になった。  今朝、彼女が車で事故に遭った。  さっき、誰かが路上で刺された。  これらすべて他人事。  僕には関係ない。  昨日、僕の部屋に強盗が入った。  今朝、僕の車が盗まれていた。  さっき、僕と似た服装の人がいた。  きっと違う。  僕のせいじゃない。   そう、すべては他人事なのだ。

          大広間

           大広間にたくさんの人が集まっている。  並べられた豪華な食事。  みんなの笑顔。  たくさんたくさんいるのに、  みんなみんなとても明るい顔をしている。  いや、一人だけ仏頂面だ。  それは僕。  写真の中のモノクロの僕。  僕が死んで何年が経ったのか。  みんな今も僕の死を喜んでいるらしい。  これは僕が望んだことだ。  僕が死んだ後、みんなが笑顔になれますように。  ――でも、寂しいな。  僕は大広間の片隅で呟く。  その広い空間に透明な声は溶けた。

          一致

           一致帯という場所がある。  そこでは、全てのものが一致する。  意見をまとめたい時。  二つの書類を同じにしたい時。  同じ人間を作りたい時。  みんな、一致帯に行く。  僕は一致帯で生まれた、一致人間だ。  僕はもともと違う誰かだった。    だが、一致帯に連れ込まれ、  その誰かと同一化してしまったのだ。  そして、濡れ衣を着せられた。  もう四半世紀、逃亡生活を送っている。  僕は死体を一致帯へ持ち込む。  性別も、顔も、体形も、何もかも違う誰か。  

          夜道

           夜道には何かがいる。  だから、出歩かない方がいい。  といっても、必要に迫られることはある。  僕は薬を持って急ぎ足。  家に着くまであと少し。  突然、左腕を引かれる。  大きな舌が巻き付いていた。  そちらは路地裏、巨大な口。  よだれを垂らし、歯をカチカチ言わせている。  やはり、夜道は危ないのだ。  終わりを悟った僕。  風が、強く吹いた。  怪物の悲鳴。  切れた舌。  僕は慌てて駆け出す。  後ろから声が聞こえる。  ――夜道は危ないからね

          手袋

           白い手袋、黒い手袋、赤い手袋、水玉手袋。  ここは手袋の市場。  どこを見渡しても手袋が売っている。  楽しい市場で僕はきょろきょろ。  素敵なものがたくさんあるけど、  今日は目的があってここに来た。  星を掴むための手袋が欲しいのだ。  今日は星の川ができる日。  浅瀬に転がってきた星を拾いたいのだ。  見つかったのはきらきら光るゴム手袋。  もちろん買って、僕は川へ急ぐ。  そこには沢山の人がいた。  みんな星を掌に置いて嬉しそう。  僕も川へ手を伸