針間有年

趣味で小説を書いています。 noteには短い話を置いていこうと思います。

針間有年

趣味で小説を書いています。 noteには短い話を置いていこうと思います。

マガジン

  • 夢に現れるそれらの話

    夢の中で出会う、とても短い物語。 エブリスタでも公開しています。

  • うちゅうのおはなし

    ブラックホールのもりびとさん、レストランのシェフさん、くつやさん、くすりやさん……。 うちゅうにすむ、みんなのおはなし。 ひと月・二話を目標に連載します。

  • 五行で遊ぶ。

    五行の中で自由に遊ぶ。

  • 終の集いし月の終

    Twitter上で公開している連載140字小説『終の集いし月の終』をまとめたものとなっています。2020.1-2021.12連載予定。随時追加していきます。

  • 写真を描く

    写真の情景を映しながら描く小説。

最近の記事

本名

 この国では本名を名乗ることができない。  皆、数字で呼び合うのだ。  本名を知られることは非常に恥ずべきことであり、  誰にも教えてはならない。  だが、それでも人は生まれ十歳になると本名を国から配布される。  それには意味がある。  僕が死ねば、誰かが九十二番になるからだ。  僕は図書館に向かう。  本名を知らない七十三番の書いた小説を探す。  七十三番は死んだ。  もう次の七十三番がいる。  だけど、僕は七十三番の本名を知らない。  七十三番としか呼べない。

    • 過剰

       過剰がトレンドになった。  内容は何でもいい。  過剰であれば何だってもてはやされる。  過剰に食することでも、  過剰に着飾ることでも、  過剰に言葉を連ねる事でも。  何でもよかった。  過剰は更なる過剰を呼んだ。  みんな常識的な量がわからなくなっていった。  過剰に食した人間は爆発して死んだ。  過剰に着飾った人間は服の重さで圧死した。  過剰に言葉を連ねた人間は怒りを買い刺されて死んだ。  過剰に人が死ぬようになった。  今は過剰な人口も減りに減り、

      • 割れ物

         割れ物注意と紙が貼られた大きな箱を見つけた。  それは白い木でできた箱だった。  神聖な棺桶のようだなと思った。  開けてみてももちろん死体は出てこない。  代わりに色とりどりのガラスが出てきた。  それはどれも小さく砕けていて、  割れ物というより、すでに割れた物だった。  蔵の薄い光を浴びてきらきらと瞬くそれ。  赤、青、黄。  そんな単純ではない色たちが僕を惹きつける。  手を伸ばす。  触れた。    ぱきん。  繊細な音が蔵に響く。  触れた指先から

        • 悲劇

           僕は悲劇の主人公を演じている。  人に同情される。  優しくされる。  それを全て跳ねのけて。  僕は幸せになってはならないのだ。  そうして自分に言い聞かせ悲しみに暮れている。  だって、やつらがやってくるから。  僕の悲劇の影でさらに不幸になった者がいる。  彼らが僕のことを見張っている。  僕が幸せにでもなってみろ。  彼らは墓地から這い上がり、僕を引きずり込みに来る。  彼らは影から手を伸ばし、僕の四肢をもぎに来る。  僕は僕を守るために悲劇の主人公

        マガジン

        • 夢に現れるそれらの話
          1,268本
        • うちゅうのおはなし
          2本
        • 五行で遊ぶ。
          13本
        • 終の集いし月の終
          4本
        • 写真を描く
          2本

        記事

          腕時計

           かつて一人一つ、あるいは複数、所持していた腕時計。  今やだれも身につけない。  長い流行が終わってしまったのだ。  売られるもの、金属として扱われるもの、捨てられるもの。  その腕時計も悲惨な末路をたどるという。  だからだろうか。  最近、腕時計が人の腕に取りつくというニュースが絶えない。  ある朝起きたら、腕時計が手に巻かれていた。  外そうとしても取れない。  ほとほと困った人々は力づくで外そうとする。  時計と共に腕が落ちたらしい。  腕時計は腕を求め

          警戒

           何を持って警戒されているのだろう。  仲良くなりたいという気持ちしかないのだが。  いや、この気持ちが相手にとっては気持ちが悪いのかもしれない。  嫌いなものからの好意ほど気味の悪いものはない。  そもそも、僕という種族が怖いのかもしれない。  彼にとっては化け物だ。  警戒してしかるべきだろう。  どうすれば僕は味方だと分かってもらえるのだろうか。  話し合いには失敗した。  彼と僕には共通の言語がない。  食事を共にしてみた。  彼は僕の用意した食事を持って別

          断片

           僕はある日、バラバラになってしまった。  周りの人達が僕の断片を拾って、身体を治してくれた。  だけど、心は治せなかった。  それはそうだ。  僕の心は僕にしか分からない。  断片を見やる。  飛び上がるような喜び。  柔らかな温もり。  大切に僕は胸のピースにはめ込む。  苦しいほどの絶望。  目を背けたくなるほど醜い嫉妬。  捨てて忘れてしまってもいいのだよ。  優しい周りの人達が言う。  だけど僕はそれを捨てきれず、胸に埋めた。  最後の断片を僕は手

          前足

           動物と人間が対等に生きる時代が訪れた。  動物が二足歩行で歩き、  人間と同程度の知能を持ちはじめたのだ。  はじめは混乱もあったが、今は落ち着きつつある。  僕の職場にも動物の職員が何人もいる。  彼らは前足で器用にキーボードを打つ。  いや、前足ではなく、手、と言わなければならない。  「前足」という言葉は今や差別用語なのだ。  彼らはもはや二足歩行。  前足だった場所は人間と同じく、手、だ。  隣の猫種の彼が机の引き出しからチョコレートを出して、口に入れる

          コイン

           コインの裏面が出たら、世界が滅ぶ。  コインを手にした僕は彼の形をした何かからそう説明された。  指ではじくだけで世界の命運が決まってしまう。  責任重大だ。  だけど、僕はたいして緊張もしていなかった。  そんな程度で滅んでしまう世界なら、  きっと近いうちに滅ぶだろう。    終末の世を見ないで済むなら、  ここで一息に滅んでしまった方がいいのかもしれない。  僕はコインをはじく。  表だった。  彼の形をした何かは消えた。  数年後、大災害によって世界

          押し入れ

           良い物件を紹介してもらった。  ある家の押し入れだ。  条件はその家の住人がいる時は外に出てはいけないということ。  それさえ守れば、ただも同然で住まわせてくれる。  押し入れに住み始めて一週間がたった。  どうやら、この家は両親と子ども二人の家庭らしい。  仲は良く温かい雰囲気だ。  耳で感じ取るそれは心地よい。  だが、おかしなことに家族が外出した際に押し入れから出ると、そこには何もない。  あるはずのテレビもちゃぶ台も、誰かが住んでいる形跡すらないのだ。

          快晴

           今日は雲ひとつない快晴だ。  それを心地よく感じる僕はもういない。  好きも嫌いも、たったひとつのエピソードで反転してしまう。  彼が好きだったから嫌いになった。  彼女が嫌いだったから好きになった。  君がいなくなったから嫌いになった、快晴。  雨粒のような人だった。  曇り空の下に踊り、からころと歌い、柔らかな笑みを浮かべた。  太陽とともに消えてしまった。  だんだんと薄くなって、微笑んで、消えた。  僕は快晴が嫌いだ。

          奉納

           今日も舞いが奉納されている。  幼い頃は毎日行われるそれに、  神様は踊り好きなのだなぁ、  などと思っていた。  今はそうではないことを知っている。  村人たちは舞いを奉納する。  だが、そこに神はいない。  殺してしまったからだ。  不慮の事故だった。  だが、殺したことに変わりはなかった。  村人たちはその事実を受け入れられず、  神に感謝し、舞う。  鼓の音がぽんっと虚しく響いた。

           枝が落ちている。  木はない。  ビルに囲まれたアスファルトの道。  鳥か何かが運んできたのだろうか。  枝が落ちている。  やはり、木はない。  僕は目線を先にやる。    それはどうやら人為的に配置されているらしい。  等間隔に並んでいる。  この枝はどこからきて、何を目的に置かれているのだろう。  好奇心から、枝を頼りに道を行く。  たどり着いた先には大きな木があった。  その下には傷ついたもう一人の僕がいた。  一生懸命、枝を拾っている小鳥が僕を見た。

          客席

           意外なことに舞台から客席というのは、案外よく見える。  客席に何かいる。  気付いたのは劇の終盤だった。  人の形をしている。  だけど、異様な何か。  その何かのせいだろう。  僕は恐ろしいほど鬼気迫る顔をしていたらしい。  その年一番の俳優に選ばれた僕はインタビューの際、  何と答えればいいかわからなかった。  授賞式に呼ばれる。  その客席にあの、何か、がいた。

          教壇

           そこは教室だった。  誰もいない夕暮れの教室だった。  頼まれた通り、掃除を行う。  机の表面を磨き上げ、  床にはぞうきんをかける。  黒板を拭こうと教壇に上がる。  世界が色付いた。  笑顔の生徒たちが椅子に座ってこちらを見上げている。  こちらの次の言葉を待っているかのようだ。  彼の目にはこう見えていたのだろうか。  そう思うとやるせない。  僕は笑う生徒たちを睨む。  それらが幻影だと分かっていても許せなかった。  教室を掃除し終えると、扉の前に彼

          突き当り

           突き当りを右に行き、さらに突き当りまで歩いてください。  その突き当りに赤い屋根の店がありますから、そこからさらに左の突き当り。  突き当りに着いたら、まっすぐ。  そこの突き当りがあなたの目的地です。  そんな手紙をもらって、今僕は四つの突き当りを抜けて突き当り。  そこで僕は途方に暮れる。  突き当りをまっすぐ行けるわけがない。  目の前には大きな白い壁。  ビルの壁面だろうか。  それにしては窓がない。  困った僕は道を探すが、突き当りは突き当り。  右か左