針間有年
夢の中で出会う、とても短い物語。 エブリスタでも公開しています。
ブラックホールのもりびとさん、レストランのシェフさん、くつやさん、くすりやさん……。 うちゅうにすむ、みんなのおはなし。 ひと月・二話を目標に連載します。
五行の中で自由に遊ぶ。
Twitter上で公開している連載140字小説『終の集いし月の終』をまとめたものとなっています。2020.1-2021.12連載予定。随時追加していきます。
写真の情景を映しながら描く小説。
押し入れの中から文集が出てきた。 覚えのないものだ。 僕は薄いそれをぱらぱらとめくる。 中身は様々だった。 愛憎渦巻く感情を書きなぐったもの。 家族へ…
大きな地割れで滅びてしまった。 そんな村を僕は旅する。 細かく裂けた地面をぴょんと跳ぶ。 けん、けん、ぱっ、と楽しみながら。 地割れで滅びてしまった村は…
鏡面を磨いている。 何度も何度も磨いている。 柔らかい布で磨いている。 磨いても磨いても、黒い影が消えない。 そこにいてはいけないものが消えない。 鏡…
水際で僕は佇む。 行こうか、戻ろうか。 靴はもう水に浸かって重くなっている。 このまま歩き始めてもいい。 もう、何も心残りはない。 いや、このまま陸地…
どこかで警笛が鳴った。 おそらく、また、あの列車が現れたのだろう。 この水底の街には、旧人類の残した廃線がある。 そこに、浮かんで消える幻想列車。 乗り…
「待て!」 僕が声を張り上げて追いかけるは、音符。 楽譜の上に並んでいたものが、逃げ出してしまったのだ。 一音が逃げ出せば、他の一音も。 さらに一音、…
その文面からは何も伝わってこない。 とても、平坦なのだ。 それは機械が書いたとしても素っ気ない。 まるで感情がない。 事実の列挙だとしても、もう少し思…
苗木を植えて、今日も植林。 森が増えて、みんながにこにこ。 手伝う人も増えて、僕もにこにこ。 海にも生えるその木の、 生命力がすさまじいこと。 そ…
ハムスターが回し車に乗っている。 乗っているだけだ。 先ほどから、ひと回しもしていない。 眠っているわけではない。 ただ、辺りを見渡し、 戸惑って…
柵の向こうには猛獣がいるらしい。 姿を見たことがない。 声も聴いたことがない。 ただ『猛獣注意』の看板があるだけ。 それでも何かがいる気がした。 …
型落ちの人間である僕は、街の隅っこでスクラップを待つ。 ひと月前まで最新版。 今では旧版型落ち品。 彼と僕の何が違うのだろう。 見た目が違う。 優…
本立てに並べた本がいつの間にか消えている。 それも一回だけではない。 ここひと月で三回もだ。 さすがにおかしいと思う。 だが、僕の部屋に僕以外の出入…
開けた窓からプリントが入ってきた。 ざらばんしのそれは、近所の小学校のものだ。 ひらがなの多いそれを微笑ましく眺める。 だが、僕はみるみるその内容に青…
楽しい楽しい羽根つきは、 誰としたのか覚えていない。 だけど、負けた僕が墨汁で書かれたその文字は、 今でも消えることはない。 それどころか広がっている…
食べても食べても何も感じない。 失ったのは、味覚。 僕は早くそれを取り戻したくて、 異常に甘いもの、 異常に辛いもの、 異常に苦いものを食べた。 …
そこは僕にとって王国だった。 みんな僕の言うことを聞く。 みんな僕に気を遣う。 みんな僕に笑顔を見せる。 住みやすい王国だった。 それがたとえ作り…
2024年5月28日 23:39
押し入れの中から文集が出てきた。 覚えのないものだ。 僕は薄いそれをぱらぱらとめくる。 中身は様々だった。 愛憎渦巻く感情を書きなぐったもの。 家族への感謝をつづったもの。 夢か現か分からないようなもの。 途中まで読んで、僕は奥付を確認する。 目を見開いた。 それは五十年後のものだった。 あとがきがあった。 皆の最期の言葉を綴ったものだと書かれていた。 そし
2024年5月27日 23:21
大きな地割れで滅びてしまった。 そんな村を僕は旅する。 細かく裂けた地面をぴょんと跳ぶ。 けん、けん、ぱっ、と楽しみながら。 地割れで滅びてしまった村は、 めちゃくちゃだった。 人の頭蓋骨がそこら辺に転がっていたし、 骨はわざとバラバラにされているように見えた。 ひときわ大きく割れた地面の隙間を覗く。 白骨がぎゅうぎゅうと詰められていた。 僕はそれを踏みつけ、向こ
2024年5月26日 22:13
鏡面を磨いている。 何度も何度も磨いている。 柔らかい布で磨いている。 磨いても磨いても、黒い影が消えない。 そこにいてはいけないものが消えない。 鏡面を磨いている。 黒い影がすぐそこまで迫ってきている。
2024年5月25日 19:32
水際で僕は佇む。 行こうか、戻ろうか。 靴はもう水に浸かって重くなっている。 このまま歩き始めてもいい。 もう、何も心残りはない。 いや、このまま陸地に居続けることができない。 苦しい、辛い、痛い、怖い。 だから、逃げよう。 水底まで。 ふっと、水際に僕と同じように佇む影が見える。 ただし、それは人ではなかった。 木でできた小舟だった。 濡れた靴でそちらに行
2024年5月24日 17:48
どこかで警笛が鳴った。 おそらく、また、あの列車が現れたのだろう。 この水底の街には、旧人類の残した廃線がある。 そこに、浮かんで消える幻想列車。 乗り込むこともできず、ぶつかる危険もない。 ただ、目に映るだけの儚い存在。 音だって聞こえない。 騒がしい列車の轟はない。 だけど、警笛だけは鳴り響く。 甲高い音を上げて、自己を主張する。 そして、それはこの街に必要なも
2024年5月23日 22:00
「待て!」 僕が声を張り上げて追いかけるは、音符。 楽譜の上に並んでいたものが、逃げ出してしまったのだ。 一音が逃げ出せば、他の一音も。 さらに一音、もうひと一音。 ひとつひとつ、虫取り網で捕まえては楽譜に置く。 今度は逃げ出さないように糊で貼り付けてやった。 全ての音符を捕まえた頃には夜だった。 やっと、新しい楽譜の音楽を演奏できる。 僕の気分は高揚
2024年5月22日 22:18
その文面からは何も伝わってこない。 とても、平坦なのだ。 それは機械が書いたとしても素っ気ない。 まるで感情がない。 事実の列挙だとしても、もう少し思考の偏りが読み解ける。 何も感じない、地平線のような文面。 宛名を見た。 未来の自分からだった。 僕は未来が恐ろしくなった。
2024年5月21日 22:12
苗木を植えて、今日も植林。 森が増えて、みんながにこにこ。 手伝う人も増えて、僕もにこにこ。 海にも生えるその木の、 生命力がすさまじいこと。 それでも、緑が増えて人類は僕を称賛した。 その内、海が消えて、雨が降らなくなり、 水は吸い尽くされ、人類は滅亡の一途をたどる。 これは植林という名の人類滅亡計画。 それでも僕は救世主として、人々に崇められる。
2024年5月20日 23:13
ハムスターが回し車に乗っている。 乗っているだけだ。 先ほどから、ひと回しもしていない。 眠っているわけではない。 ただ、辺りを見渡し、 戸惑っているように見える。 もしかして、回し方を知らないのだろうか。 僕は親切心で、回し車を指で押した。 くるりと回ったそれに引っ張られ、 ハムスターは宙を舞った。 そして、そのままどこかへ消えてしまった。
2024年5月19日 22:25
柵の向こうには猛獣がいるらしい。 姿を見たことがない。 声も聴いたことがない。 ただ『猛獣注意』の看板があるだけ。 それでも何かがいる気がした。 ある日投げ入れてみた生肉は、地面に落ちる前に消えた。 きっと何かがいるのだろう。 僕の知らない猛獣が。
2024年5月18日 22:18
型落ちの人間である僕は、街の隅っこでスクラップを待つ。 ひと月前まで最新版。 今では旧版型落ち品。 彼と僕の何が違うのだろう。 見た目が違う。 優しさが違う。 賢さが違う。 何もかも違う。 誰かが僕に石を投げた。 あんまりじゃないか。 まだ使える身体。 まだ動く頭。 だけど、歪んだ心。 僕は街の隅っこで破壊を夢想する。 まず手始めに、最新型の振
2024年5月17日 22:09
本立てに並べた本がいつの間にか消えている。 それも一回だけではない。 ここひと月で三回もだ。 さすがにおかしいと思う。 だが、僕の部屋に僕以外の出入りはないし、泥棒が入った形跡もない。 だったら、考えられるのは一つ。 僕は本立てをつついてみる。 すると、ぽんっと音を立てて、薄い本立てから本が数冊出てきた。 「また、隠れて読んでたな?」 僕が言うと、
2024年5月16日 21:36
開けた窓からプリントが入ってきた。 ざらばんしのそれは、近所の小学校のものだ。 ひらがなの多いそれを微笑ましく眺める。 だが、僕はみるみるその内容に青ざめた。 それは家庭訪問ならぬ、家庭襲撃のお知らせ。 教師だけではなく、生徒も地域の家々を回り、襲撃するのだという。 場所を見る。 慌てて、日付を見る。 続けて、時間を見る。 あと三分。 あと三分で
2024年5月15日 21:22
楽しい楽しい羽根つきは、 誰としたのか覚えていない。 だけど、負けた僕が墨汁で書かれたその文字は、 今でも消えることはない。 それどころか広がっている。 はじめは何と書いてあっただろう。 もう忘れてしまったそれは、僕の身体を蝕んでいく。 それは痛い。 それは辛い。 だから、僕は見知らぬ子を羽根つきに誘った。 勝った僕は、黒く染まった自分に筆を滑らせる。
2024年5月14日 22:06
食べても食べても何も感じない。 失ったのは、味覚。 僕は早くそれを取り戻したくて、 異常に甘いもの、 異常に辛いもの、 異常に苦いものを食べた。 何も感じなかった。 ならば今まで食べる事すら怖かったものを。 土、錆、生臭い肉。 まだまだ足りない。 ネズミ、モグラ、死んだネコ。 何も感じない。 ならば、もっともっと怖いものを。 死んだ人間。
2024年5月13日 23:08
そこは僕にとって王国だった。 みんな僕の言うことを聞く。 みんな僕に気を遣う。 みんな僕に笑顔を見せる。 住みやすい王国だった。 それがたとえ作り物でも。 動かなくなったアンドロイドたち。 地面は油でキラキラと光っている。 僕の王国を壊したのは誰だろう。 僕はアンドロイドたちの部品を回収し、 すべてを混ぜて繋ぎ直した。 完成した大きくてぐちゃぐち