針間有年

趣味で小説を書いています。 noteには短い話を置いていこうと思います。

針間有年

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記事一覧

文集

 押し入れの中から文集が出てきた。  覚えのないものだ。  僕は薄いそれをぱらぱらとめくる。  中身は様々だった。  愛憎渦巻く感情を書きなぐったもの。  家族へ…

針間有年
4時間前

地割れ

 大きな地割れで滅びてしまった。  そんな村を僕は旅する。  細かく裂けた地面をぴょんと跳ぶ。  けん、けん、ぱっ、と楽しみながら。  地割れで滅びてしまった村は…

針間有年
1日前
1

鏡面

 鏡面を磨いている。  何度も何度も磨いている。  柔らかい布で磨いている。  磨いても磨いても、黒い影が消えない。  そこにいてはいけないものが消えない。  鏡…

針間有年
2日前
1

水際

 水際で僕は佇む。  行こうか、戻ろうか。  靴はもう水に浸かって重くなっている。  このまま歩き始めてもいい。  もう、何も心残りはない。  いや、このまま陸地…

針間有年
3日前
1

警笛

 どこかで警笛が鳴った。  おそらく、また、あの列車が現れたのだろう。  この水底の街には、旧人類の残した廃線がある。  そこに、浮かんで消える幻想列車。  乗り…

針間有年
4日前

音符

「待て!」  僕が声を張り上げて追いかけるは、音符。  楽譜の上に並んでいたものが、逃げ出してしまったのだ。  一音が逃げ出せば、他の一音も。  さらに一音、…

針間有年
5日前

文面

 その文面からは何も伝わってこない。  とても、平坦なのだ。  それは機械が書いたとしても素っ気ない。  まるで感情がない。  事実の列挙だとしても、もう少し思…

針間有年
6日前
1

植林

 苗木を植えて、今日も植林。  森が増えて、みんながにこにこ。  手伝う人も増えて、僕もにこにこ。  海にも生えるその木の、  生命力がすさまじいこと。  そ…

針間有年
7日前

回し車

 ハムスターが回し車に乗っている。  乗っているだけだ。  先ほどから、ひと回しもしていない。  眠っているわけではない。  ただ、辺りを見渡し、  戸惑って…

針間有年
8日前
1

猛獣

 柵の向こうには猛獣がいるらしい。  姿を見たことがない。  声も聴いたことがない。  ただ『猛獣注意』の看板があるだけ。  それでも何かがいる気がした。 …

針間有年
9日前
1

型落ち

 型落ちの人間である僕は、街の隅っこでスクラップを待つ。  ひと月前まで最新版。  今では旧版型落ち品。  彼と僕の何が違うのだろう。  見た目が違う。  優…

針間有年
10日前
1

本立て

 本立てに並べた本がいつの間にか消えている。  それも一回だけではない。  ここひと月で三回もだ。  さすがにおかしいと思う。  だが、僕の部屋に僕以外の出入…

針間有年
11日前
4

プリント

 開けた窓からプリントが入ってきた。  ざらばんしのそれは、近所の小学校のものだ。  ひらがなの多いそれを微笑ましく眺める。  だが、僕はみるみるその内容に青…

針間有年
12日前
1

羽根つき

 楽しい楽しい羽根つきは、  誰としたのか覚えていない。  だけど、負けた僕が墨汁で書かれたその文字は、  今でも消えることはない。  それどころか広がっている…

針間有年
13日前
5

味覚

 食べても食べても何も感じない。    失ったのは、味覚。  僕は早くそれを取り戻したくて、  異常に甘いもの、  異常に辛いもの、  異常に苦いものを食べた。 …

針間有年
2週間前

王国

 そこは僕にとって王国だった。  みんな僕の言うことを聞く。  みんな僕に気を遣う。  みんな僕に笑顔を見せる。  住みやすい王国だった。  それがたとえ作り…

針間有年
2週間前
3
文集

文集

 押し入れの中から文集が出てきた。

 覚えのないものだ。
 僕は薄いそれをぱらぱらとめくる。

 中身は様々だった。

 愛憎渦巻く感情を書きなぐったもの。
 家族への感謝をつづったもの。
 夢か現か分からないようなもの。

 途中まで読んで、僕は奥付を確認する。

 目を見開いた。
 それは五十年後のものだった。

 あとがきがあった。
 皆の最期の言葉を綴ったものだと書かれていた。

 そし

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地割れ

地割れ

 大きな地割れで滅びてしまった。
 そんな村を僕は旅する。

 細かく裂けた地面をぴょんと跳ぶ。
 けん、けん、ぱっ、と楽しみながら。

 地割れで滅びてしまった村は、
 めちゃくちゃだった。

 人の頭蓋骨がそこら辺に転がっていたし、
 骨はわざとバラバラにされているように見えた。

 ひときわ大きく割れた地面の隙間を覗く。

 白骨がぎゅうぎゅうと詰められていた。

 僕はそれを踏みつけ、向こ

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鏡面

鏡面

 鏡面を磨いている。

 何度も何度も磨いている。
 柔らかい布で磨いている。

 磨いても磨いても、黒い影が消えない。
 そこにいてはいけないものが消えない。

 鏡面を磨いている。

 黒い影がすぐそこまで迫ってきている。

水際

水際

 水際で僕は佇む。

 行こうか、戻ろうか。
 靴はもう水に浸かって重くなっている。

 このまま歩き始めてもいい。
 もう、何も心残りはない。

 いや、このまま陸地に居続けることができない。
 苦しい、辛い、痛い、怖い。

 だから、逃げよう。
 水底まで。

 ふっと、水際に僕と同じように佇む影が見える。
 ただし、それは人ではなかった。

 木でできた小舟だった。

 濡れた靴でそちらに行

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警笛

警笛

 どこかで警笛が鳴った。
 おそらく、また、あの列車が現れたのだろう。

 この水底の街には、旧人類の残した廃線がある。
 そこに、浮かんで消える幻想列車。

 乗り込むこともできず、ぶつかる危険もない。
 ただ、目に映るだけの儚い存在。

 音だって聞こえない。
 騒がしい列車の轟はない。

 だけど、警笛だけは鳴り響く。
 甲高い音を上げて、自己を主張する。

 そして、それはこの街に必要なも

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音符

音符

「待て!」

 僕が声を張り上げて追いかけるは、音符。

 楽譜の上に並んでいたものが、逃げ出してしまったのだ。

 一音が逃げ出せば、他の一音も。
 さらに一音、もうひと一音。

 ひとつひとつ、虫取り網で捕まえては楽譜に置く。
 今度は逃げ出さないように糊で貼り付けてやった。

 全ての音符を捕まえた頃には夜だった。

 やっと、新しい楽譜の音楽を演奏できる。

 僕の気分は高揚

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文面

文面

 その文面からは何も伝わってこない。
 とても、平坦なのだ。

 それは機械が書いたとしても素っ気ない。
 まるで感情がない。

 事実の列挙だとしても、もう少し思考の偏りが読み解ける。

 何も感じない、地平線のような文面。

 宛名を見た。
 未来の自分からだった。

 僕は未来が恐ろしくなった。

植林

植林

 苗木を植えて、今日も植林。

 森が増えて、みんながにこにこ。
 手伝う人も増えて、僕もにこにこ。

 海にも生えるその木の、
 生命力がすさまじいこと。

 それでも、緑が増えて人類は僕を称賛した。

 その内、海が消えて、雨が降らなくなり、
 水は吸い尽くされ、人類は滅亡の一途をたどる。

 これは植林という名の人類滅亡計画。

 それでも僕は救世主として、人々に崇められる。

回し車

回し車

 ハムスターが回し車に乗っている。

 乗っているだけだ。
 先ほどから、ひと回しもしていない。

 眠っているわけではない。

 ただ、辺りを見渡し、
 戸惑っているように見える。

 もしかして、回し方を知らないのだろうか。

 僕は親切心で、回し車を指で押した。

 くるりと回ったそれに引っ張られ、
 ハムスターは宙を舞った。

 そして、そのままどこかへ消えてしまった。

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猛獣

猛獣

 柵の向こうには猛獣がいるらしい。

 姿を見たことがない。
 声も聴いたことがない。

 ただ『猛獣注意』の看板があるだけ。

 それでも何かがいる気がした。

 ある日投げ入れてみた生肉は、地面に落ちる前に消えた。

 きっと何かがいるのだろう。
 僕の知らない猛獣が。

型落ち

型落ち

 型落ちの人間である僕は、街の隅っこでスクラップを待つ。

 ひと月前まで最新版。
 今では旧版型落ち品。

 彼と僕の何が違うのだろう。

 見た目が違う。
 優しさが違う。
 賢さが違う。
 何もかも違う。

 誰かが僕に石を投げた。
 あんまりじゃないか。

 まだ使える身体。
 まだ動く頭。
 だけど、歪んだ心。

 僕は街の隅っこで破壊を夢想する。
 まず手始めに、最新型の振

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本立て

本立て


 本立てに並べた本がいつの間にか消えている。

 それも一回だけではない。
 ここひと月で三回もだ。

 さすがにおかしいと思う。
 だが、僕の部屋に僕以外の出入りはないし、泥棒が入った形跡もない。

 だったら、考えられるのは一つ。

 僕は本立てをつついてみる。

 すると、ぽんっと音を立てて、薄い本立てから本が数冊出てきた。

「また、隠れて読んでたな?」

 僕が言うと、

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プリント

プリント

 開けた窓からプリントが入ってきた。

 ざらばんしのそれは、近所の小学校のものだ。

 ひらがなの多いそれを微笑ましく眺める。
 だが、僕はみるみるその内容に青ざめた。

 それは家庭訪問ならぬ、家庭襲撃のお知らせ。

 教師だけではなく、生徒も地域の家々を回り、襲撃するのだという。

 場所を見る。

 慌てて、日付を見る。
 続けて、時間を見る。 

 あと三分。
 あと三分で

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羽根つき

羽根つき

 楽しい楽しい羽根つきは、
 誰としたのか覚えていない。

 だけど、負けた僕が墨汁で書かれたその文字は、
 今でも消えることはない。

 それどころか広がっている。

 はじめは何と書いてあっただろう。
 もう忘れてしまったそれは、僕の身体を蝕んでいく。

 それは痛い。
 それは辛い。

 だから、僕は見知らぬ子を羽根つきに誘った。

 勝った僕は、黒く染まった自分に筆を滑らせる。

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味覚

味覚

 食べても食べても何も感じない。
 
 失ったのは、味覚。

 僕は早くそれを取り戻したくて、
 異常に甘いもの、
 異常に辛いもの、
 異常に苦いものを食べた。

 何も感じなかった。

 ならば今まで食べる事すら怖かったものを。
 土、錆、生臭い肉。

 まだまだ足りない。
 ネズミ、モグラ、死んだネコ。

 何も感じない。

 ならば、もっともっと怖いものを。
 死んだ人間。

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王国

王国

 そこは僕にとって王国だった。

 みんな僕の言うことを聞く。
 みんな僕に気を遣う。
 みんな僕に笑顔を見せる。

 住みやすい王国だった。

 それがたとえ作り物でも。

 動かなくなったアンドロイドたち。
 地面は油でキラキラと光っている。

 僕の王国を壊したのは誰だろう。

 僕はアンドロイドたちの部品を回収し、
 すべてを混ぜて繋ぎ直した。

 完成した大きくてぐちゃぐち

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