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旧石器時代から変わらない人の本能に戦いを挑むことを決めた日 【洋梨夫人のダイエット日記vol.3】

前回からの続きです
まずはこちらを呼んでから、どうぞ。

いきなりジムにやってきた。
ガラスに映る、「今から全力で草むしりします!」みたいな
よろよろの自分の服装に一瞬、ジム突撃をためらう気持ちが湧いたものの、
そぉっとドアを開けて中に入る。

ホッ

誰もいない。
勝った!

誰もいないのならこっちのもの。
もうこの時点で勝利確定している!
そして、またしても
手に持っているスマホのsiriのためだけに向けて、
”いや私、ジムなんて全然通い慣れてる人間ですよ、びびってませんよ”の
すまし顔をして
トレーニングマシンを見て回る。

ダンベルベンチプレス、ラットプルダウン、ローマンベンチチェア、バイセップ、トライセップ、エアロバイク、クロストレーナーにトレッドミル(ランニングマシン)
ふぅ〜一生懸命調べた、名前。


初心者は大体
トレッドミル(ランニングマシン)に引き寄せられるハズ…
なんてったってわかりやすい、簡単そう、有酸素運動の代名詞のようなこのマシン。
御多分に洩れず私も、まずトレッドミルを足の指先でチョンチョン触ってみた。
ペットのムチャチャがポイントを探すときのように、
マシンの周囲をぐるぐる回り、
触ったり、匂いを嗅いだり、尻尾をフリフリしたりしながら、
いろんな角度から観察したりした。
あ、尻尾なかったわ、私。

startって書いてあるボタンを押す…
あれ?
作動しないわよ?
と思ったら、
そもそも電源プラグのところのメインスイッチが入っていなくて。
なぁーんだと独りごちながら、
マシンから降りて
プラグのところのスイッチ
パチンッONしたら、

ピーーーーーーーーッッ

と甲高い音がして、
ドッキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッッ!!
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」と謝る。
ビビったストレスで、
ちょっとばかりカロリー消費できたことを願いながら
恐る恐るマシンに再び乗って"start"ボタンを再び押す。

ピッ…



ん?




速度設定しなきゃ動かないのね?
そういうことは先に伝えておいてくださる?



そんなこんなで、
実に順調な滑りだし。
が、
歩くだけなんだもの、
注意はあちこちにそれて、
ついに目の前のガラスに映る自分の姿に釘付けになる。
なんかめっちゃ間抜け。
これってなんかに似てる。
ええっと…なんだっけ?
ああ、あれだ、あれ。
ハムスターの回し車!!!
滑稽!実に滑稽!!
私は、ガラスケージ(ジム)の中の中年のハムスター。
洋梨のハムスター。
やみくもにカラカラ車を回し続けるの。

いやいや、ちょっと待て。
それは違う。
昔ハムスター飼ってたとき、
なぜハムスターが回し車で走るのかを調べたことある。
回し車で走っては周辺に食べ物がないか探し、
再び回し車で走って、また周辺を探す
それを永遠繰り返し、一晩で5km以上も走る。
人間の大きさに換算するなら、まさかのフルマラソン2回分。
あの可愛らしい風貌からは想定できない強靭なスタミナ。
つまり、奴らがやたらと回し車に乗って、ランをしまくる理由は、
それがディズニーランドのアトラクション並みに面白いからではなく、
回し車の音で、飼い主を不眠地獄に陥れてやろうという陰謀でもなく、
餌が欲しいから。
ただ餌が欲しい。
どうしてもそれが欲しい。
今はケージの中で飼われてて、
潤沢なひまわりの種が用意されているにもかかわらず
すでに脳みそに組み込まれてしまっているから、まあしゃーない。
餌だ!どうしてもだ!
やめられない、止まらない。
そう、これは本能。

はてさて、人間はというと、
本来、どこまでも本能に従うのなれば、
たらふく食べて、そして動かないように体はプログラミングされている。
頭だって使いたくない。一ミリだって使いたくない。
エネルギー無駄に結構するらしいから、脳みそって。
そして、
どんなに文明が発展したって言っても、
体の仕組みは旧石器時代当時のまま。
そう、”溜め込めるだけ溜め込んで、サボれるだけサボる”。
それ必然。

ああ、
あの頃は良かった、
獲物を見つけたら、溜め込んだ脂肪をエネルギーに変えて
無我夢中で全力出しまくってるうちに脂肪が無くなってたから。
ところが
現代人はね、恐ろしいことに
あの旧石器時代と同じ体を持ったまま、ロックダウンに突入したんですよ!
そりゃ、この腹、腰回りだって納得。
グラブフード(ウーバーイーツ)があるんだから、食べ物を買いにさえ行かなくてもいい。
っていうか、基本外に出ちゃダメだから。
いやむしろ、それが推奨されていたわよね。
最高!ウハウハ。
脳内で、ベートーベン交響曲第九番『歓喜の歌』が響き渡ってる。
やめなさい、洋梨夫人!
はしたない!
今はまだ3月よ!年末ではないの!(注:この出来事は2022年3月の時のものです)

それが、本能のままの人の姿。
それが普通。
そう、それなのに…

あれれ?
おかしいわね。
ワークアウト!なんて言って、ダッシュして、ジムにトツして、
トレッドミルに乗って有酸素運動を始めたのよ。
未来予想、計算、計画性、推理、コントロールなど、
まさに知性を駆使して、
自分の体を理想の体型に変えていく!って言うのよ。
それって、脳みそに組み込まれてる”本能”に勝ちに行くってことかしら?
ファービュラス!
なんて人間的な行動!
この世に存在する他のどの動物もこんな事は絶対にしないのよ。
大脳辺縁系VSそれを取り囲むように発達した大脳新皮質!
これは見ものね!
ゴジラVSモスラに出てくる
コスモス(ザ・ピーナッツ)の『モスラの歌』と同じくらい見ものね!
頭の中で両者がせめぎ合い葛藤する
もうかれこれ20分も早足で歩き続けて、酸素濃度も低くなってきてるし、
それに加え、まだまだ第九も脳内でガンガン鳴り響いて、
今まさにテノールのソロのパートに差し掛かっている。
そこに『モスラの歌』が加わった。
あっちもそっちもこっちも、
一歩もひきたくない、ギリギリの戦いが繰り広げられているのね…
素敵。



無事に、
初めてのトレッドミルが終わった。
その女戦士は、実に満足したといった表情で
コロッセオ…じゃない、
ええっと、
ランニングマシーンを後にしながら言った。
「たぎるわ。」

なんだそりゃ。(続

心地良いプレッシャーをありがとうございます!もっと面白くなるかどうかは、あなたにかかっていると言っても過言ではないのです!今後も、”全力の合いの手”をよろしくお願いいたします!