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スピーカー(密閉型2Way・バスレフ・バックロードホーン・PPW)の設計・製作・測定

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1.動機
元々、オーディオが好きという訳ではなかったけれども、趣味と実益を兼ねてスピーカーのエンクロージャーを製作してみた。無響室という素晴らしい測定環境が整っていることもあり、せっかくだから勉強してみようと思ったのである。結果、オーディオの世界に片足を突っ込んだような形になってしまった。12月にお店に通ったレシートを見る限りそれだけで7万円を使っているし、10万円くらいは溶かしているに違いない。

2.製作したもの

① 密閉型2Way
 

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長岡鉄男の「BS-71」というエンクロージャを参考にした。ユニットには、フルレンジのFE83NVとウーファーとしてFK10Wを選定した。ツイータはとにかく高い。だから、フルレンジを使用することにした。正直、高音へのこだわりはないし、FE83NVはハイ上がりの特性で、それなりに音は出るだろうと考えた。FK10WはFOSTEXとコイズミ無線がタイアップしている商品である。ちゃんとしたメーカーが作っているし安心だ。これも4000円という破格である。定番のFW108を使用することも考えたがお財布の事情により無理そうだった。測定結果の10kHzあたりの谷はFE83NV自身の特性だと思われる。

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(定格値から箱の容積を計算した。どちらも密閉型である。)

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(ネットワークのシミュレーションを行った。コイルは3.6mH、コンデンサは100μFを2つ直列にした上で3.3μを並列に接続した。)

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(アッテネータを下げてみたら特性が変化した。アッテネータは必要なかったな…。)


② フルレンジのバスレフ
ポートではなくスリッドと板一枚の単純なバスレフなので設計式に基づき「sped」というソフトでシミュレーションを行った。FF125WKをユニットとして使用した。バックロードと比較したかったため同じユニットを使った。FFシリーズは元々バスレフ向けのユニットである。シミュレーション結果は記録として残し忘れていたので割愛する。測定結果もいまいちパッと冴えない感じになったのでこれも割愛する。

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(側面から見るとこんな具合になっている)


③ 2.1chスピーカー(密閉+バスレフ)

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(左右のサテライトは部屋の上の方へ配置して、ウーファーは足元に置く)

長岡鉄男のセパレートスピーカー「SS-3」を2.1ch化した。サテライトは密閉型で、FE103ENを用いている。ウーファーはバスレフであり、ユニットにはFK10Wを2つ用いた。長岡鉄男の設計では、左のユニットがLeft、右のユニットがRightを再生するセパレートの構成となっているが、これをわざわざ2.1ch化した。その狙いはトータルの振動板面積が増えることによる重低音の強化である。ちなみに2つユニットがあるので容積が2倍になっている。昔は市販で2.1chのアンプが入手しづらいという事情もあったのかもしれないが、現在では安価なものが存在しているし問題ない。ポートの開口面と長さに関してはFK10Wの規格に合わせて若干大きさを微調整した。

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(2.1chの構成、LeftとRightが2chで.1はウーファーのことを指す)

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(ウーファーとサテライトを個別に測定したときの結果)

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(ウーファとサテライトを同時に測定したときの結果)


④ 背面開口バックロードホーン

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(背面側に開口があるのが分かっていただけると思う。)

「自作スピーカーで遊ぶ♪」(http://spc.jpn.org/sp23.htm)さんの「BS-105L」を参考にした。このサイトは本当にすごい。なんと、JW-CADの形式で図面がDLできるようになっているのだ。まあ板取図が若干間違っている気がするのだけど、そこは自分で修正…。ユニットはFF105WKを使用した。長岡鉄男はバックロードにFEシリーズを好んでいた。ハイ上がりで低能率なユニットが良いそうだけど、初めて工作する自分はより失敗を恐れていたため、多少失敗しても低音がそれなりに出るFFシリーズにした。

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(空気室・スロート・ホーン幅の設計)

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(ホーンの計算値と実際の幅を比較してみた)

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(違いが見えやすいよう25cmまで近づけて測定した。緑が正面、赤がホーン。)


⑤ 前面開口バックロードホーン

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(折り返して前面に開口がある。後ろの板に着きそうだが問題ない)

長岡鉄男の「D-10」(バッキー)を元に計算をした。使用するユニットは背面開口のバックロードと比較できそうなのでFF125WKとした。Excelとか使わずに手計算でなんとかしたので計算シートはない。結果のグラフを見ると、低音は④のバックロードの背面開口と似たような特性となっている。ただし、使用したユニットの大きさが違う。

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(1mでの測定結果。緑が④のスピーカーの背面開口、茶色が⑤のスピーカーの正面。)


⑥ PPW(プッシュ・プル・ウーファー)

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(左側がユニット前面のポート、右側の板がユニット後方のスリッドとして機能する)

長岡鉄男の「SW-168」という変わったエンクロージャーである。ユニットの前面側も後方側もバスレフとして機能させる。ユニット前面のバスレフは大きめの穴を用意し共振周波数を125Hzとした。これより高い周波数は減衰する。それに加えて3.6mHのコイルを直列に接続した。ただし音圧が大きすぎるのが心配のため、吸音材をたくさん詰めた。背面のバスレフは43Hzで共振するようになっている。この2つのバスレフの特性を重ねると単体のウーファーとして機能するようになる。ユニットはFountekというメーカーから出ている16cmミッドバスのFW168を使用した。Fostexのパクリとしか思えない面白い会社名だし、型番も他社のものと同じなので完全に怪しいが、安いのでついこれにしてしまったが、良い特性が出ているし後悔はしていない。

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(特性の計算シート。上手くいくか不安になりながら。)

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(赤がユニット背面、紫がユニット前面。使用するときはユニット背面を表にする。)

市販されているエンクロージャにP1000Kを取り付けたもので組み合わせてはどうだろうかと考えてそれぞれ別々に測定してみた結果が以下のグラフである。200Hz付近のピークが若干気になるが、40Hzまでフラットになった。なんと、-10dBまで音が出るとすれば、30Hzまで再生できるではないか…。もちろん1m離しての測定である。

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(PPWとP800Kを個別に測定した結果を同時に表示させた。もちろん電力は同じ。)

次に2Wayと組み合わせたらどうなるか比較してみたい。もちろん1m離しての測定である。低音は40Hzくらいまでフラットになっている。結果、30Hzまで再生できることが分かった。

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(PPWと2Wayスピーカーの特性を同時に表示してみた。)

PPWは本当にすごいのか?③のバスレフと比較してみた。PPWはより低音が出ていることが分かる。PPWの方が高音の落ち方が大きい。これは、ネットワークだけではなく、エンクロージャーも高域を減衰させているからである。

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(PPWと③のバスレフを比較してみた。やはりPPWはすごい。)

3.製作手順

3.1選定(ユニット・エンクロージャ)
長岡鉄男や炭山アキラの本を中心にして理論を学んでから、既に設計されたエンクロージャーを元に自分の使用するユニット向けにExcelで再計算し微調整した。厳密な計算をする前に手計算で目測をつけておく。


3.2シミュレーション
密閉とバスレフであればシミュレーションという手を使うことができる。また、ネットワークも自動的に計算してくれる便利なものもある。今回は「sped」というフリーのソフトを多用した。その他、「自作スピーカー設計プログラム」(http://www.asahi-net.or.jp/~ab6s-med/NORTH/SP/)というサイトでもシミュレーションを行った。手計算で目測をつけた値を代入して微調整していく。

3.3板のカット
板はホームセンターのカットサービスを利用したので格安で済んだ。できる限りではあるが、板取が簡単なエンクロージャーを選んでいる。とはいえ、とても迷惑な客だったと思う。カットサービスがあるのでそちらを利用した方が良い。MDF材が加工しやすい。合板でも良いが普通にバリが出てしまい困る。

3.4板の穴あけ
穴あけにはホルソーを使うのが理想だけれど、そんなものは持っていないし、危ないから使う気にならない…。カットサービスを利用していない分、自分で穴あけをしなければならないのが大変だ。卓上ボール盤だと板が持っていかれた時に怪我をしかねないという心配もあり、普通にインパクトで円形に穴を空けた後、ジグソーでつなげていった。あとはひたすらやすり!この作業が一番大変かもしれない。


3.5側面の板へのけがき

そのままボンドをつけてぶっつけ本番で接着をするのは勇気のいること。その前に、鉛筆で板をどのようにどの順番で配置していくのかを考える。絶対に必要な作業です。

3.6ネットワーク
それぞれのスピーカーにどの周波数成分の音を送るかを決めるために2Wayなどではネットワークを組む必要がある。クロスオーバー周波数を設定したら自ずと値は決まってくる。-6dBのフィルタで十分すぎるので、コイルを直列にしたローパスか、コンデンサを直列にしたハイパスで適切に設計できれば問題ない。あとはある程度組み立てた後にアッテネータ・コイル・コンデンサを繋げていく。電気工事用の圧着が一番手軽かもしれないが、はんだ付けをして接続部の抵抗を少なくすると良いかもしれない。自分の場合、電気工事の技術(ねじり・とも巻き・ツイストジョイント)でなんとかした。

3.7吸音材の取り付け
吸音材を取り付ける理由は、密閉箱の内側の音を消す、板の定在波を防ぐことにある。バックロードやバスレフは背面の音を利用するから少なめになる。特にホーンやダクト部には絶対に吸音材を貼ってはいけない…。吸音材が取り付けられたら側面の蓋を閉める!

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(ハタガネで固定する。)

3.8無響室にて測定
部屋の反射による影響は避けられない。普通の部屋で測ろうとすると、かなり特性が荒ぶってしまう。今回は無響室という全面が吸音材で敷き詰められた部屋で測定を行った。1m離すのが一般的である。周波数が高い波には直進性が強いという性質がある。音も波なので高い音ほど指向性が高まる。よって角度をつけて測定すると高音だけ音圧が低下する。以下の図のように機器を接続する。マイクの特性も現れてくるので完璧な測定などといったものは存在しない。

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(測定するときの接続方法)

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(普通は1mだが、近づけて特性をかさましできる。角度を変えると高音の特性が変わる。)

3.9その他の特性
THDの確認は一応、行った。再生できている周波数帯においては1~2%以下なので気にする必要はなし。インパルス応答(IR)は正直よく分からなかったが、100ms程度のリンギングが確認できた。本当はこんなに長くないそうだけど…。測定の仕方が間違っているような気もする。インパルス応答は当然ながら群遅延特性に依存する。だから、位相特性が極端に悪くなければ変なことにはならないだろうと推測できる。そして、2Wayやウーファーなどは高音を減衰させていたりもするので、フルレンジを測定するのが正しいような気がする。立ち上がりの速いスピーカーだとかキレが良いとか、そこら辺の感覚は自分には存在しないので、あまり気にしても仕方ないんじゃないかと思われる。群遅延は電磁気とかアンテナとかの世界では気にしているようだけど、音の世界でそこまでシビアさは求められないだろう。そのことによって問題が起きる訳でもないし。


4.結論

4.1音質を決定する要因は何か?
音の良さは周波数特性のみによって決まる訳ではない。似たようなグラフになっても音の響きが違う。そして、周波数特性ではない指標も存在する。もう少しソフトウェア的な処理という電気的な処理が大きく効いてくるような誤解をしていたが、ハードウェアとしてのスピーカーがしっかりしていないと良い特性が出ないことが分かった。アンプによってベースアップしても、低音の特性はあまり変わらなかった。ここで結論として自分の頭の中にふと思い浮かんだのが「音質=(ユニットの性能×エンクロージャの設計)+適切なネットワーク+アンプやフィルタの処理+設置や部屋の環境」という体感による関係性である。大体、これにしたがって音質改善をしていけば満足できるものが出来上がるだろうと思われる。お金を出して高いユニットを買うのがまず大事なのだけど、それに見合ったエンクロージャを設計しなければ失敗する。逆に、そこそこのユニットでもエンクロージャによって音質改善は見込める。それに加えて様々な要因が加味されるといったところだろうと思う。


4.2各種エンクロージャー方式と共振のコントロール
バックロードホーンの利点はエンクロージャーとしてバスレフのような鋭い共振を持たないが故に低音の帯域幅を広げることができるところにある。バスレフでも低い周波数が出しにくいようなハイ上がりのFEシリーズなどに適用すると、豊かな中高音に加えてそれなりの低音が出るという設計思想である。Q値が低いユニットが向いていると言われるのはそのためである。バックロードは原理的に共振モードが複合的に存在していると考えても良いのではないかと思う。確か、長岡鉄男もそんなことを言っていた気がする。音響迷路としての動作モード、バスレフとしての動作モード、ホーンとしての動作モードなどがお互いに複雑に干渉し合っているとすれば、1つ1つのモードの共振としては損失が大きくなる。Q値は単峰性の共振を仮定して鋭さの指標(半値幅)として定義されがちだが、複数の共振を考える場合、エネルギー損失としても説明される。広い周波数で損失が大きい方が低いQ値となり、広帯域化できる。ただ一つ気になるのが、大体の場合において、共振によって周波数特性を無理やりフラットにしようとすると、位相特性が出鱈目になってしまうということなのだけど…。そこまで気にしている人がいないということは、オーディオにおいて位相特性の細やかな変化は人間には分からないからだと思う。位相特性の変化はそのまま群遅延に影響する。だから、Wi-fiオーディオには向かないという烙印を押されてきたのだと思う。
バスレフの設計思想はユニットの共振による音圧の低下をエンクロージャーで無理やり増強させ低音を増やすところにある。インピーダンスの共振によって音圧に対しての抑制が効いてしまっている周波数において、エンクロージャのヘルムホルツ共振を組み合わせることで音圧を上げている。だから設計式も存在しているし、Q値に対してどこにその共振を設定するか、経験値で導き出された表もある。しかし、バックロードのように変数の多い多峰性関数はコントロールするのは難しい。
一方、PPWはユニット前面と背面に設けられたバスレフ箱のヘルムホルツ共振を合成することで、低音のみを出すようにしている。ユニットの共振による音圧の抑制が効いているので背面から出る音のレベルは低い。それをどうするかが課題となる。また、最低共振周波数より低く共振を設定すると更にユニット背面の音圧が低下するので、使うユニットの選定が重要になってくる。



5.おまけ(アンプ)
こちらの方も今度、記事が書けたら良いな…。ケーシングしたり、Spiceでシミュレーションとかもできたらもっと本格的なんだけど…。

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(PCBEで基板設計を行った)

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(フルディスクリートB級アンプ。両電源の確保が問題。)

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(TDA2030によるモノラルアンプ。今度ケーシングするぞ!)




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