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南ドイツ一人旅④予定外の訪問ロイトリンゲン

リヒテンシュタイン城を訪れた際、帰路で小さな問題が起きた。
それは、お城と街を結ぶ道の大渋滞。
その原因は、お城の駐車場の大混乱だった。

お城まで公共交通機関で行こうとすると、日曜日と祝日しか運行していない。
しかも、一日に二本程度の選択肢のみ。

午前中は混んでいなかったが、お城見学が終わると、チケット売り場は長蛇の列。
そして、管理のあまり行き届いていない駐車場は、大混乱だった。
それだけ人気なのだが、困った事に狭い山道なので、麓からやってくるバスまでもが渋滞に巻き込まれてしまった。

道路の渋滞と駐車場

お城見学の後は、近くの洞窟を見学する予定にしていたのだが、早々に諦めた。
同じくバスを待っているおばさまと共に、乗継が間に合うかどうか、ハラハラしていた。
バスは45分ほど遅れてやってきて、私達を乗せてようやく山を下り始めた。
乗継のバス停までやって来たが、無情にもバスは数分前に発車済み。
そして次のバスは、なんと2時間後。
私はおばさまと共に様々な手段を探したが、数分後には、待つ以外に何もできないという事実を受け入れるしかなくなった。

するとおばさまは、如何にも楽しそうに、ヒッチハイクをしてみましょう!と言い出したのだ。
タクシーを呼ぶほうが簡単では?と提案したが、ここからだと最低60ユーロはするわよ、とおばさまが言う。
乗継をしたロイトリンゲンの駅からここまでは約20kmで、バスに30分ほど乗った。
ヒッチハイクをしてもダメなら、タクシーを呼びましょうと説得された。

道端に立ち、近隣の大きな街のナンバーを付けた車を探す。
ロイトリンゲンでなくても、どこか近隣の街に連れて行ってもらえれば、それで良い。

おばさまは私の前に立ち、親指を立てて大きく振っている。
しかし、、、
私はどうしても恥ずかしくて、親指を立てられない。
それでも、ようやく親指を立て、上下に振り始めた。

車は、なかなか止まらない。
私達を覗き込む人はいるけれど、速度を落としてはくれない。
10分ほど道端で粘った後、おばさまが鞄の中から飲み物を出していた時、つまり私だけが親指を立てていた時に、なんと一台の車が私達の前に止まったのだ!

車を止めて下さったのは若い女性で、なんと幸運にも、ロイトリンゲンの駅近くまで行くと言う。
どこかの街で別の交通機関を探すしかないと思っていた私達は、歓喜の声を上げてしまった。
おばさまは助手席に乗り込み、何が起きたのかを身振り手振りを付け、詳細に語り始める。
私は、後部座席のベビーシートの隣に座った。

赤い額縁の眼鏡をかけ、緩やかにうねった長い髪の女性は運転席に座り、頷きながら私達の話を聞いてくれた。
今までにヒッチハイクで人を乗せた事はないけれど、女性二人が道端で困っているのを見捨てておけなかったの、と話してくれた。
運転しながら、近隣の街の見どころやイベントなども教えて下さった。
そして、いつか桜の時期に日本に行きたいと、とても知的で優しい話し方をする人だった。

車内で初めて、おばさまがバーデンバーデンから友達を訪ねて来た事を知った。
宿泊地は、私が乗継をした街ロイトリンゲンReutlingenだそうだ。

30分ほどで、ロイトリンゲンの街に到着した。
おばさまはちょっと大袈裟に、あなたは私達の命を救ったわ!とお茶目に言うと、それは良かったと、女性も笑いながら返す。
何度もお礼を言うと、若い女性はホテルまで無事に着けるようにと、最後まで温かい言葉を返して下さった。

車を見送ってから、おばさまは私の前に立ち、ねぇあなた、お腹空いてない?と唐突に聞いてきた。
そうだ、私達はバスの乗継ぎの事ばかり考えていて、お昼を食べることも忘れていた。
お腹が空いているなら、一緒に遅いランチを食べない?とおばさまが誘ってくれた。
私は快諾し、私達はそこで初めて、お互いの自己紹介をした。
おばさまは、ヘレナという名前だった。

私達は街の中心まで歩き、ガルテン門の近くのレストランで食事をした。

食事中も、旅行の話、地元の話、友達の話と、ヘレナの話題は尽きない。
友達には明日会う予定だが、今日はリヒテンシュタイン城を見るために、市内のホテルに泊まる事にしたそうだ。

ヘレナは、私より10歳年上。
しかし、その若々しい姿とお茶目な仕草で、私と同じくらいの年齢だと思った。
素直にその事を伝えると、Ditoは嬉しい事を言うのね!とヘレナは笑った。

食事を終える頃になって、一緒に街歩きをしない?とイタズラっ子のような目で、ヘレナは私の目を覗いた。
私達はそんな訳で、ロイトリンゲンの街を一緒に歩くことになった。

マリエン教会

ギルドの噴水
ヘレナのお父様は、鍛冶屋だったそうだ。
お父様との思い出を話しながら、写真を撮っていたヘレナ。

古い城壁

教会、噴水、城壁を見た辺りで、ねぇDito、甘いものは好き?とヘレナが聞いてくる。
私は思わず笑いながら、もちろん!と答える。
私達はカフェのテラスに座り、道行く人たちを観察し始める。

私達は、趣味が似ていた。
お城、美術館、旅行、好きなケーキ、家族構成だけでなく、今までの人生までもが少し似ていた。
私達は、驚くほど気が合ってしまったのだ。

甘いものを食べてから、また街歩きを再開。
なんとこの街には、ギネスブックに載っている、ある路地があるという。
それは、世界一狭い路地。
行ってみよう!
ここよここよ!と、路地を見つけた私達は大はしゃぎ。

ギネスブック掲載の案内も。

そしてその狭さは、こちら。
体を横にして、カニ歩きしないと歩けない。

最後は、この街のシンボルでもあるテュービンゲン塔へ。
市内に向いた壁には、美しい装飾が施されている。

外側は、同じ塔とは思えないほど、頑丈なイメージ。

私達はこの門を背景にし、一枚の記念写真を撮った。

こうして私達は、夕方までずっと一緒に街歩きを楽しんだ。
最後はヘレナのホテルまで送り、お互い強くハグをする。

まるで久しぶりに会った友達とのように、話すテーマは尽きなかった。
ヘレナのその人懐っこい性格が、私を饒舌にさせたようだ。
ヘレナは、デュッセルドルフに一度来た事があり、いつかまた行ってみたいと言う。
そして、Ditoもバーデンバーデンを訪れるべきだと、彼女は何度も繰り返した。
また一つ、旅の目的地が増えた。

始まりは、小さなハプニング。
洞窟に行けず残念だったが、私はなんとヒッチハイクを成功させてしまった。
ヒッチハイクには、憧れに似た気持ちを抱いていたが、まさかこの歳になって経験するとは思わなかった。
ヘレナも、もし一人だったらタクシーを呼んでいたそうだ。
私達は、お互いがいなければできない経験を、たまたまこの日に出会い、叶える事ができた。
旅のハプニングは、決して悪い事だけではない。

一人旅は嫌いではない。
自分の好きなように計画をして、気楽に出掛けられる。
ただ食事だけは、誰かと一緒に食べたい。
美味しいね、と言い合いたいのだ。
一人旅の中、朗らかなヘレナと過ごせた数時間は、私にとって思いがけないプレゼントだった。

そして、私たちをヒッチハイク乗車させてくれた若い女性。
私は彼女から、親切のバトンを受け取った。
いつか私も誰かに、このバドンをお渡ししたい。

二人の素敵な女性のお陰で、私の一日は、予定よりずっと素敵な思い出になった。
それは、リヒテンシュタイン城の美しさと共に、色濃く私の心に刻まれた。

リヒテンシュタイン城についてはこちら。

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