美味しい香り、怪しい香り
おいでませ。玻璃です。
順調にいっていたはずの父の工務店の様子が少しおかしい。
抱えていた職人さんも一気に減ったし、事務員のヤマモトさんも辞めてしまった。
また父は仕事を変えたのだろうか?
なんだかわからないが、急に母が焼き肉屋を始めた。
きっと父の仕事上で何かがあったのだろう。
家からは離れているが、街の方にあったこの焼き肉店は繁盛していた。
母は旅館の女将をやっていた頃のように店を切り盛りしていた。
何をやらせても器用な父も焼き肉屋の店に立つことが増えた。
こちらは喫茶店のマスターをやっていた経験から、絶妙に旨い焼き肉のタレを考案し、このタレは結構人気があった。
中にはタレだけを購入に来るお客さんもいたほどだ。
私は家でひとり、留守番をすることが増えた。
学校の帰りに焼き肉屋に寄って、晩御飯を食べる。
タレも美味しかったがビビンバやスープも絶品だった。
本当にうちの両親の作るものはいつも美味しい。
週末は店が混みあっている時間に、作ってくれた焼き肉弁当を取りに行くこともあった。
店の入り口を入るとワッと美味しい煙が私を包み込み、鼻の奥まで一気にニンニクと焦げた醬油の香ばしい匂いが駆けてくる。この香りにお腹の虫が騒ぎだす。
「お腹すいた~」
「玻璃ちゃん、お弁当できとるよ。持って帰って食べる?」
「うん、忙しそうやから家で食べる。」
そうして、家に帰って一人でのんびりと食べる時間が楽しかった。
ただ、その頃から留守番の時の電話番が億劫になった。
一応名の知れた消費者金融の会社から電話がかかってくるようになったからだ。
「おうちの方はいらっしゃいますか?」
「今いません。仕事に行っています。」
このやり取りを繰り返す。
そのうち、両親がいる時にも私が電話を取る係になった。
「玻璃ちゃん、お父さんもお母さんもおらんって言って。」
居留守を使う両親。
そんな折、そろそろ進学する高校を選ばなければならなかった。
私は本当に勉強に向かないタイプで、本を読むのが好きな割に教科書の内容は全く入ってこない。
その頃の私たちの地域では、公立の高校の方が偏差値が高く、私立の方は簡単に入ることができた。
もちろん公立でも低めの高校もあったが、我が家の状況を把握しきれてなかった私は私立のN高校とK高校で迷っていた。
長女のさゆり姉さんに相談したら、
「コンピューターの授業のあるN高校にしたら?あと商業科もあるなら将来絶対につぶしがきくよ。」
と言われ、納得しN高校に決めたのだ。
N高校はあたりでは一番早く受験日と合格発表がされるため、滑り止めでほぼみんな受験し、よっぽどのことがない限り合格できた。
そしてN高校は舞姉さんの母校でもある。
後から考えると、なぜここで私立高校を選んでしまったのか…後悔するときが来るのだがそれは追々語っていくことにする。
さて、これから受験シーズンがやってくる。
ま、名前をかけば合格するN高校を希望する私には関係のない話だが。
私にとっては、受験の事よりももっと気になることがある。
最近変なおじさんがやってきて両親と話し込んでいる。
クサイ。
プンプンニオウ。
ウサンクサイ。
アノオジサン。
焼肉と違い、こちらの香りは私の胸を騒がせる。
そんな私の感はピタリと当たるのだろうか?
ではまたお会いしましょう。
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