利用者が転んでけがをしたら介護士の責任なのか

時と場合による。
立場が違うと見方も変わる。

介護士の方のSNSの投稿で、利用者が転倒⇒骨折して入院⇒認知症⇒肺炎⇒死亡し、とても後悔しているという内容があった。

転倒した時点で、利用者の家族から熾烈な叱責を受けたようだ。

これから介護の仕事にも関わりたいなと思っていたわたしは、なんだか腑に落ちない気持ちになった。

高齢者は転ぶ。当時とても元気だった祖母も一度家の中で転んで骨折した。
自立心旺盛な人だったので、家の中を這って歩き、医者も驚くほどの回復を見せ、その後何事もなかったかのように日常生活に戻っていった。

認知症の叔母もよく転ぶ。散歩中よく転ぶので、膝は擦り傷だらけだし、打撲痕、内出血とあちこちケガをしている。

高齢者は転ぶのだ。どんなに注意していても。

家でも外でも転ぶなら、施設でだって転ぶだろう。どんなにまわりが注意していても転ぶときは転ぶ。

家で転べば家族は文句は言わないが、施設で転ぶと文句をいう。
理不尽ではないか!

ものすごい安い給料で働き、慢性人不足の劣悪な環境で働き、何か起これば利用者の家族から叱責を受ける。

こんな仕事誰がやりたいですか??

一方、介護のことをよく知らない家族としての立場だったら、家族が施設で転倒したら、「なんでちゃんと見てくれなかったんですか!」となる。

実際、祖母が特養に入っていた時、コロナで精神的に鬱っぽくなり、夜眠れないからと睡眠薬を処方された。

その夜、トイレに立ち上がり、転倒したらしく、夜勤担当のヘルパーが気付かなかったので、数時間床に倒れていた。

幸い、どこもケガしてなかったが、その話を聞いたとき、わたしは腹が立った。「なんでちゃんとみてくれないんだ!」と思ったが、ケガをしたわけでもなかったので、問題にはならなかった。

当時は介護の仕事についてよく知らなかったし、知っているのは低賃金重労働なんだろうな、というぐらいで、介護にまつわるその他もろもろの問題を当事者意識をもって考えたことなんてなかったから、利用者側の立場としてしか考えられなかった。

今は自分が介護の仕事をしてみたいなと思って、介護にまつわるあれこれを掘り下げて調べているから、介護する側の人たちの視点に立って考えることが多くなり、冒頭のSNSの「家族激怒」に心が痛んだと同時に、なんて割の合わない仕事なんだろう、と思った。

結局介護をする側にまわらなければ、介護問題は他人事でしかない。親や祖父母を介護せずにそのまま施設に入れてしまえば、自分が介護される側になるそのときまで、介護問題なんて考えもしないかもしれない。

介護の仕事してみたいな、と単純に考えていたけれど、介護について知れば知るほど、介護の仕事に将来はないと思うようになった。

わたしも含めてその多くの人が漠然と将来に不安を抱えているものの、じゃあなんとかしようよと実際に行動に移す人はほとんどいない。

3年に1度行われる介護保険の改定というか、改悪についても最近まで全く知らなかった。

要支援をなくす、とか、要介護1,2を自治体に任せる、とか、ケアプランを有料にする、とか、年収280万円の世帯を富裕層と設定して負担を1割から2割に上げるとか、ユニットケアの職員配置を4:1にするとか、国はそんなことをやろうとしている。

そして、それを阻止しようと声を上げたのが、上野千鶴子さんを始めとする一部の有識者と、現場を取り仕切る責任者の方々だ。

底辺で働くホームヘルパーが自分たちの待遇改善を求めて動くことはまれだと思う。色々事情はあるのだろうけど、結局は動いてくれる人を待っているのが日本社会だ。自分から動くという考えに至らない。それはそういう義務教育を受けてきたからで、結局それは国の思惑通りの人間を作り上げていて、声を上げて現状を変える、ということができる人は、さらに高等教育を受けた人たちが多いように思う。

介護を巡る問題は今後どういう方向に動いていくのか。現場で働く当事者、特に底辺で働くホームヘルパーは勿論のこと、将来介護のお世話になる私たちがいま声をあげないと、現在施設や在宅でやってもらっている介護サービスは受けられなくなり、自分が介護される立場になったときに、野垂れ死ぬ可能性すらある。もちろん、金持ちは別。

政府は介護を家族に押し戻そうとしている。
家族がいないわたしはどうすればいいのか。
生活支援は介護事業から外してボランティアにさせようとしている。ボランティアなんてやる余裕のあるひとがこの先どれほどいるというのか。ただでさえ現在のヘルパーは有償ボランティア並みの給与しかもらっていないというのに。

先ほどの介護保険の改悪はいったん年末まで先送りになったようだが、政府の思惑ははっきりしたわけで、私を含めて経済的に余裕のないひとは介護保険のこれからを真剣に考えたほうがよいかもしれない。







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