散乱光に影
その時彼女は一体何を見つめていたのか
選び取り、切り取ることなの
とカメラを構えた背中は
銃口を突きつけた軍兵のような精悍さで
二つのレンズから漏れた光に指先をシンクロさせていく
シャッターを切る度にまばたきをする癖
切り取った現実から飛び散る誰かの夢に汚されないように
彼女は唇を拭った
僕らの間に滑り込んだ真夏のプリズムは
朝も夕も煌煌と心を侵して
それを恋だとか愛だとか形容する暇もないままで
ゴミと間違えたカラスに持ち去られてしまって
余白みたいに焼き付いた影
つばの大きすぎる麦わら帽子が、この先の
例えば、きっと次の夏まで、ずっとこのままでいるのなら、私に心臓は要らないのかもしれません
彼女は初めて笑った
ついに一度として僕らが切り取られることも
フィルムに焼き付くこともないままで
溶けるような散乱線になった頃
夕立の中でかき消した足音
そうですね、逃げたのは
僕でした。いえ、光からでなく、その影から
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