チラムネはなぜこのラノ二連覇できたのか?

①はじめに

こんにちは。過去「ライトノベル 千歳くんはラムネ瓶のなか から考える地方社会」や「千歳くんはラムネ瓶のなかシリーズ感想文」などをnoteで掲載してきたものです。今回、『千歳くんはラムネ瓶のなか』が『このライトノベルがすごい! 2022』にて2021に続き文庫部門第1位を獲得したということで、どうして二連覇できたのか。できるだけ統計的、また事象的に考えていきたいと思います。ただし理屈と膏薬はどこにでもくっつきます。あくまで1人の意見として考えてください。
正直私の中での本編は「考察 チラムネはライトノベルとして目新しい作品なのか?」の部分なので時間が無い、めんどくさい方はそこだけでも読んでくださると嬉しいです。
また、追加コラムがありますが読まなくても大丈夫なものなので興味があれば呼んでください。

注意
作品名は『』、その他のものは「」を用いています。また『千歳くんはラムネ瓶のなか 』、『このライトノベルがすごい!202x』に関しては何度も登場するためチラムネ、このラノ202Xのようにカギカッコなしで表記させていただきます。
加えて、このラノの出版社である宝島社はガイドラインを公表してませんがデータの権利を侵害する可能性があると考え、具体的な各作品でのptや得票数は掲載せず作品名と差の表現のみにさせていただきます


②千歳くんはラムネ瓶のなかの魅力は何か

そもそも『このライトノベルがすごい』文庫部門一位を二年連続とるというのはほかの作品より魅力な点・素晴らしい点が存在し評価されているのは間違いないでしょう。では「他作品と比べた魅力的な点」と一体何なのか。これを読まれている方はそんなことはわかっていると思いますが改めて整理してみようとおもいます。
ちょうどよくツイートしてた方がいたのでそこから考えさせていただきます。

これをさらに「他作品と比べた魅力的な点」から整理すると
①キャラクター設定
②比喩を用いた文章表現
と2つに分けられるのではないでしょうか
①はタイトルにもある設定の斬新さともつながる主人公千歳朔たちのリア充設定を皮切りに読者の“憧れ”となるようなキャラクターが描かれておりキャラクターの精密な心理描写もこれに拍車をかけているでしょう。
②これはこの三つの中でも一番魅力を感じている人が多いでしょう。どの巻でも特徴的な比喩表現が用いられており、読者の創造を搔き立てる文章となっていると思います。
もちろん『千歳くんはラムネ瓶のなか』の魅力はこれだけではありません が整理するとこのようになると思います。(イラストに関しては個人の好みが大きく影響し、さらにはどの作品にもあるため内容のみの記載とさせていただきます。)


③『このライトノベルがすごい!2020』での文庫本12位の原因はなぜか 

魅力を再確認した上で初ノミネートとなるこのラノ2020の結果から見て見ます。このラノ2020の段階では1巻のみが対象となっており結果は19位となっています。 
これは私の感触でしかありませんが1巻発売日時はそこまで大きな話になっていなかったように感じます。無論、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』や『妹さえいればいい』、『弱キャラ友崎くん』を出版している小学館ガガガ文庫の新人賞である「小学館ライトノベル大賞」の優秀賞に選ばれた恋愛ラブコメのひとつであり、さらにはゲスト審査員の浅井ラボ氏が「問題作」とコメントしていたのもあり、有識者の方々が盛り上がっていましたので決して注目度が低かったわけではありません。(その結果は12位という結果からも明らかだと思います)
また、作品としても1巻は作者である裕夢氏が「エピソード0」と位置づけているのもあり、凄さの片鱗を見せつつ次に期待という形だったと感じます。
申し訳ないことに私はこのラノ2020を所持してないため統計的なことは言えませんが12位だった原因としては恐らく上記のような理由ではないかと推察します


④このラノ2021でチラムネ1位の概要は

このラノ2020の結果を推察したところで、今度はデータからこのラノ2021で一位を獲得できた理由を考察してみます

前提としてこのラノ2021の総投票者数と回答者の年齢層に関してまとめます。そもそもこのラノは一般のwebアンケート票と関係者や有識者である協力者票が存在し、協力者とwebアンケートの得票に関しては比率が付けらており、比率に応じた点数の合算が各作品にptとしてつけられています。
では投票者数ですがこのラノ2021ではwebアンケートの回答数が9494名、協力者数が81名でした。
また、全体の男女比はおおまかに男:女=8:2となっており、アンケート回答者の年齢層は10代20代で全体の70%を超えています。

次にこのラノ2021でのチラムネの結果を見ていきましょう。
このラノ2021のチラムネの対象巻は2巻と3巻(4巻はギリギリ入ってません)。
そして皆さん知っている通り結果は文庫本部門にて1位でした。
ではその1位をとった内訳ですが協力者票が1位、webアンケート票で6位となっています。協力者では2位にそこそこの差をつけた1位となっています。Web投票も1位2位の『ようこそ実力至上主義の教室へ』『異修羅』とは差がついているもののそれ以降とはダンゴになった6位です。
さらにweb投票の年齢層別順位ですが10代では1位の『ようこそ実力至上主義の教室へ』2位の『探偵はもう死んでいる』とは差がついた4位、20代では『ようこそ実力至上主義の教室へ』『異修羅』と差がついた5位、30代40代ではTOP10に上がりませんでした。
また、女性のみの分析も乗っており3位とかなり近い12位となっています。
キャラクター部門では男性キャラクター部門では主人公千歳朔が3位にかなり近い4位、また女性キャラクター部門でも2巻3巻でメインヒロインである七瀬悠月が12位、西野明日風が25位となっています。

このデータから、チラムネのこのラノ2021での文庫本1位は協力者票がとても大きく、さらに年齢別では10代20代のこのラノで一番層が厚い年齢層からの支持が熱い作品であることがわかると思います。さらにキャラクター部門からみても4位に千歳朔がランクインしていることからキャラクターへの魅力があるというのは裏付けられたでしょう。


⑤このラノ2022でチラムネ1位の概要は

次にこのラノ2022で一位を獲得できた理由を考察します。

このラノ2022ではwebアンケートの回答数が6473名、協力者数が96名と昨年よりweb投票の制度が厳しくなったためかweb投票数の減少、また協力者票が増加しています。
まった、男女比は昨年と変わらず男:女=8:2となっていますが、年齢別では微妙に10代後半、20代前半の投票数が減り、さらには30代ではかなり投票割合が減っています。

では本題のラノ2022でのチラムネの結果を見ていきましょう。
このラノ2021のチラムネの対象巻は4巻、5巻、6巻で、
そして皆さん知っている通り結果は文庫本部門にて1位でした。
ではその1位をとった内訳ですが協力者票が4位、webアンケート票で2位となっています。協力者票は4位でしたが、新シリーズやマニアックな作風の作品に集まりやすいという特徴が1位は文庫本2位の『春夏秋冬代行者』)。個人的に驚いたのはweb投票の方で、web投票では1位『ようこそ実力至上主義の教室へ』にかなり迫った2位となっていたことです。昨年1位を獲得した影響もあるでしょうがかなり驚きました。
さらにweb投票の年齢層別順位ですが10代・20代ではにランクインしており、昨年よりかなり順位が上がっています。とくに10代では『ようこそ実力至上主義の教室へ』『探偵はもう、死んでいる。』『隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』とともに四強を形成しています。また、30代・40代では昨年ランクインがありませんでしたが今年はそれぞれ7位、10位にランクインしています。
キャラクター部門では男性キャラクター部門では主人公千歳朔が3位以下をかなり離した2位に、女性キャラクター部門でも青海陽、七瀬悠月、内田優空、西野明日風がそれぞれ8位、9位、12位、16位にランクインしています。これはTOP20にランクインした女性キャラクターのうち、作品ごとにカウントすると最多となります。

このデータから、チラムネのこのラノ2022では昨年と比べてweb投票からの投票数が増加しており、さらに年齢別では10代20代のこのラノで一番層が厚い年齢層からの支持がさらに広がったとともに昨年まで支持を得られなかった世代からも支持が得られてきたことがわかると思います。またキャラクター部門からみても千歳朔だけでなく多数の女性キャラクターがランクインしていることからキャラクターへの魅力があるというのはさらに裏付けられたでしょう。

⑥考察 チラムネはライトノベルとして目新しい作品なのか?

ここまで色々書いてきましたがこれくらいのことはこのラノ購入者でチラムネ好きの方は考えていたでしょう。なのである程度の裏付けを持った私の意見を書かせてもらいます。

そもそもチラムネは作品として「売れている」シリーズとは現状言えません。様々なオリコンランキングをみてもどの巻でも2位はあっても1位は1度もありません。決して売上が低い作品ではありませんが、大ヒットしていると言われるとそれは違うと言わざる負えません。逆にそこまで売れてないのにこのラノで文庫本1位を2年連続、さらにこのラノ2022ではweb投票で2位まで順位が高いのは「他の作品より多くの割合のファンがこのラノに投票している」というファン層の厚さを示しています。
では、なぜここまでファン層が厚いのか考察してみましょう。
 個人的にはチラムネはどちらかと言うと「王道」の作品です。そもそも、ガガガ文庫と言えばラブコメ!のような系譜の作品でもありますし、4巻まではある程度ストーリーの大まかな流れは予想できます。逆に言うとここまで王道な作品は今までライトノベルに多くなかったのではないでしょうか。特にチラムネの場合は「各巻のテーマ性」が非常にわかりやすい構成です。例えば1巻は「リア充とは」、2巻は「高校生の恋愛」、3巻は「将来の進路」、4‐5巻「自意識の戸惑い」とある程度明確にできます(5~6は一貫したテーマだと考えてます)。そしてこれらのテーマは実際の高校生に一番ヒットしており
 また、各巻で各ヒロインがそれぞれ描かれることで、だんだんとそれぞれのヒロインのキャラクターがはっきりしていき、さらにはそこから千歳朔という主人公のキャラクター性も明らかになっていきます。そのため、この作品はライトノベルではあるもののどちらかと言えば俗に言うライト文芸に近い作品ではないかと感じています。ライト文芸とはこちらもライトノベルと同様定義が難しいですが、本屋に行ったとき文芸コーナーにある文庫本サイズのそれほど厚くないキャラクターが描かれた表紙の本を想像してもらうのがいいと思いますが、簡単に言えば内容が一般文芸より(ミステリーや他のテーマ性を持った)挿絵が少ないライトノベルだと思ってください(代表作に三浦しをん『舟を編む』や東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』など)。学園ラブコメというテーマ性や初期のキャラ設定こそチラムネはライトノベルでありますが、その他の面ではライト文芸に近い作品であり「今までライトノベルを読まなかった層」からの架け橋的存在となれているのではないでしょうか。
 さらに、先ほど触れたように巻を追うごとにキャラクターの解像度が上がっていくことは、一巻当初は千歳朔を「完璧超人の憧れのキャラ」と描かれていましたが、段々と彼の背景が見えてきて「実際にいそうな憧れのキャラ」となったことにより物語への共感性が高まったことも影響しているでしょう。
 そして、ファンの層が厚いことの最後のダメ押しとして作者裕夢氏のよるTwitterの活用はあるでしょう。感想や考察などをTwitterに投稿することでいいねを作者本人からもらえるというのは熱心なファンが増えることの一つの要因ではあるでしょう。

これらの理由から私は『千歳くんはラムネ瓶のなか』は『このライトノベルがすごい!』で2021、2022と文庫本部門で連覇できたと考えます。

追加コラム  このライトノベルがすごい!は役目を果たしているか?

このラノはネット上ではweb投票で毎回一位を獲得している『ようこそ実力至上主義の教室へ』が総合1位を取れないこともあり投票が偏っている、協力者票へ傾斜をつけすぎ、出版社(小学館ガガガ文庫、KADOKAWA電撃文庫)に忖度しているなどさまざまなマイナスイメージである意見が散見されます。確かにこれに関しては1部理解できる部分もありますが、私はその上でこのラノはかなり精度が高いムック本として提供されていると感じています。理由はいくつかありますが、そもそもこのラノは人気作を広めるためのものでは無いからです。単純な人気作、有名作の投票というのに限ればこのラノの評価はかなり低いと思いますが、新しい新時代の作品の発掘という意味では協力者票により好きな作品だけでなく今後評価が上がりそうな作品を知ることが出来、いわゆる自分自身の本を見つけやすい構造になっています。
また、そもそも統計で示したようにこのラノの投票者の多くは10~20代です。しかし2015年のBOOK☆WALKERによる調査などをみると当時でライトノベルの平均読者年齢は31.8歳ということで明らかにライトノベルは既に10代向けの作品ではなく、そのため10、20代から支持される作品が人気作かと言われると疑問が残ります。そのため、かなり精度が高い結果を示せていると感じてます。

参考文献

・このライトノベルがすごい!2021  宝島社 (2019年11月25日)

・このライトノベルがすごい!2022 宝島社 (2020年11月24日)

ライトノベルの読者年齢を考える WINDBIRD::ライトノベルブログ     https://kazenotori.hatenablog.com/entry/2021/09/19/215258  (2021/12/07)



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