ライトノベル 千歳くんはラムネ瓶のなか から考える地方社会

はじめに

この記事に触れた方はなんのこっちゃという方も多いので軽く説明をさせていただきます。コンセプトとしては小学館ガガガ文庫から刊行されている千歳くんはラムネ瓶のなか(既刊1~6)の描写と様々な地方社会の特性や課題点などをあげていきます。目標としては都市部のライトノベル読者がこれを読んでこのような課題があることを知って下されればありがたいです。しかしながら著者は現在金融・経済系を学んでいる理系大学1年でまだまだ知らないことが多いのでロジックが不完全や深く学べば違う点などが散見されると思いますのであくまで意見のひとつとして読んでください

また基本自己満足で書いてますのであしからず


千歳くんはラムネ瓶のなかとは

前節でも軽く触れましたが千歳くんはラムネ瓶のなかは小学館ガガガ文庫から刊行されているライトノベルシリーズです。作者は裕夢氏 イラストはraemze氏。 現在(2021年8月29日)時点で6巻まで刊行されており、昨年このライトノベルがすごい2021にて文庫部門1位を獲得されているなど現在注目されているライトノベルです。作品の特徴として、普段ライトノベルではあまり見られない比喩表現を用いた背景・心理描写があります。また、作者裕夢氏の地元である福井が舞台となっており、福井での高校生たちの青春を繊細に描写しているため今回そこから考えられればと思います。


作者について

普段こんなこと書きたくないんでどんな創作物にも書かないんですが、今回は私の過去の経験からの推測が多くなると思うので申し訳ありませんが書かせていただきます。嫌な方はぜひ飛ばしてください。

前述させていただきましたが、私は金融・経済系を学んでいる理系大学1年です。現在は東京に住んでいます。生まれは東京なのですが諸事情があり、中学から高校1年まで富山におりました。そのため青春真っ只中と言えるような時期にいたと言うのもあって今回筆をとらせていただきました。

今後色々言うと思うので念の為、一応僕は田舎が都会よりずっと好きな人間です。批判するために書いている訳では無い事を知っておいてくださるとありがたいです


本題:千歳くんはラムネ瓶のなかから見えてくるもの

長らく前振りをしてしまいました。申し訳ありません。ここから本題に入らせていただきます。まずどのようなどころから考えるか。いくつか整理させてもらいます

①福井県の勉強事情や生活事情
②主人公たちの行動範囲
③作中に出てきている店舗
④3巻にて東京行きの描写 
⑤閑話休題 富山の話 アニメ制作会社P.A.Works本社周辺について
⑥主人公朔の1人暮しについて 
⑦まとめ


みたいな感じで書かせてもらいます。 どうかよろしくお願いします。


①福井県の勉強事情や生活事情

まず学力面について。実は千歳くんはラムネのなか(以下チラムネ)の舞台である福井県は全国でも屈指の学力に優れた県です。実際私も調べて知ったのですが、2019年の全国学力学習状況調査(文科省が行っている日本全国の小学6年生、中学3年生全員を対象として、学力・学習状況の調査を目的として行う学力調査)の正答率ランキングでは福井県は小学六年生で全国3位、中学三年生は全国1位ととても優秀です(注1)。えげつなく優秀です。実際、僕はバイトで中3生をもつことから(家庭教師をしてます)高校入試の問題をよく見ますがその中でも福井県の問題はよく練られていて、とてもいい難しい問題が多いように感じます。朔たちはそんな県の中でもトップの高校に通っているので間違いなく学力に関して優秀でしょう(作中の藤志高校のモデルの片方で作者裕夢氏の母校でもある藤島高校の偏差値はなんと71(注2))。

では、三巻でもふれられた大学進学に関して福井県がどうなのか。2019年のデータでは福井県の大学進学率は55.98%(注3)。このデータは短大や専門学校への進学は含まないので実際に高校卒業後残りの人全員が就職や浪人をしているわけではないですが、京都・東京のTOP2県の大学進学率が65%を超えていることを考えると、なぜ学力優秀なのに大学進学率が低いのか疑問に思うでしょう(実際先ほどの2019年の全国学力学習状況調査の中学三年生の正答率で言えば京都は全国13位、東京は5位となっています)。これには、地方という特性が存在します。
地方には周囲に大学が少なく(福井県内の大学数は国公立私立含め6校、対して東京は143校(注4))、親や同棲している祖父母など血縁関係者も大学に進学したことがない方が多いです。これにより、都市部の高校生がなんとなく卒業したら大学進学をイメージするのに対して地方だとイメージしずらいというのがあります。

では、そんな中で地方の学生がどのように進路を決めるのか経験談から書かせてもらいます。私の経験談ですのでデータに基づきませんが、地方の大学進学は主に以下の3パターンに分かれます。
Ⅰ周囲の環境や自己決定により進路を決めている
Ⅱ周囲の影響から県内の(国公立)進学
Ⅲ県外(特に首都圏・関西圏)の有名大学を目指す
  まず、Ⅰですがとても少数ですが親が医者ややりたい勉強がある等で県内外関係なく進路希望先を決めます。多くの場合は有名国立大学(旧帝一工や横国・神大・筑波など)や医学薬学部の進学が多いです。
次にⅡですが、これが圧倒的に多いです。3巻でも話題になりましたが、親の意向・周りの空気などから地元の国立大学(分野によっては公立大学)の進学を目指す人です。もちろん国立大学ですのでそう簡単ではありません(実際福井大学の前期日程の総合倍率は2.9倍です(注5)) 。都市部との最大の違いは第一志望に地元の私立大学を目指す人がごく少数であるということです。
最後にⅢですね。憧れや学力帯など様々な理由からお主に有名私立(早慶上理GMARCH関関同立など)を目指す人が多いです。もちろん人によってはⅠでふれたような有名国立を目指す人もいます。
 もちろんこれ以外の例外もありますが、私の経験では上記のような人が多かったです。

ちなみに先ほど登場した藤島高校ですが、最新の進学実績では東大京大それぞれ14人、現役国立大学進学者数は現役で在校生324人中249人(約76%)とえげつない数字をたたき出しております(注6)。そりゃ、学年で成績優秀な明日姉早稲田受けられるわ。むしろ有名国立大学の進学の話が出なかったのに驚きが・・・。おそらくですがこの高校通っている生徒はほとんど大学進学していると思います。


では、生活事情について。作中地味に気になったことないでしょうか。そう、朔たちはめちゃくちゃ外食しているのである。いや、「フィクションじゃん」というのはとても良く分かります。私も基本そのスタンスなんですがこんな機会なので考えてみます。データによれば高校生のおこずかいの平均はだいたい5~6,000円(注7)。もちろん個人差、地域差があるので実際朔たちがどれくらいもらっているかは分かりません(特に朔は一人暮らしだし)。
ですが、仮に6000円だとして彼らのお小遣いがそれで足りるのか。にわかには信じがたい。チラムネは一巻ひと月ペース(1巻が4月、2巻が5月、3巻が6月、4巻が7月、5・6巻が8月という感じ)で話が進んでいるので四巻(7月)で考えてみます。四巻で朔の外出は夕湖との福井駅前の複合施設AOSSA、男ども+陽で学校の昼休みに抜け出した蛸九での学生ジャンボ、陽との帰り道のカツ丼.....あれ思ったより少ないな。だとしても一食1000円使ってたら少なくとも6000円の小遣いの半分は飛んでっててるのでもしこれに打ち上げとか言ってたらかつかつですね。実際はチーム千歳メンツはみんな育ち良さそうなのでもっともらっていると思うんですが、まあ先ほどの平均値から見ても都市部と地方で大きく差があるデータなのでそう考えると彼らはなかなかにその地域的には高額なお小遣いをもらっていると推察できます


②主人公たちの行動範囲

次に行動範囲について。有志の方が制作されている千歳くんはラムネ瓶のなか 非公式聖地巡礼MAPを参考にさせてもらうと過度な遠出をしていない限り、ほとんどの聖地は福井駅から半径1km以内に収まっています。これがどれくらい離れているかと言うと新宿~池袋の間が約12kmであることを考えると差がわかるでしょう。もちろん高校生というのはありますがそれにしても狭すぎる。
実はこれも地方あるあるのひとつです。基本、地方では主要駅の周りにしかお店(特に学生や若者が入る店)がないんです。都市部では例えば希望の商品がその店舗になくても○○駅の店になかったから○○駅のお店に行こうかという話も少なくないですが地方で主要駅から違う駅に行ってみてください。見えるのは畑(田んぼ)と民家だけです。今でこそam○zonなどでものこそ手に入る時代となりましたが、彼ら高校生に欠かせない仲間たちと一緒にご飯を食べながら駄弁るという行為はそれが行えるお店がなければ成立しません。そしてその店も集っているのは主要駅周辺のみなのです。そうすると自ずと彼らの生活空間を狭くなります。簡単に言えば地方では都市部より若者が取れる選択肢が狭いんです。(もちろんこれが一概に悪いわけでも地方行政や店舗、その土地の人達を批判するつもりも無いです)


③作中に出てきている店舗

皆さんチラムネ作中出てきている店は福井・北陸独自のものが多いですがあまり一般的なチェーン店が出てきてないと思いませんか。
今まで作中に出てきたのは 8番ラーメン、マフィンの店、サイゼリヤ、焼き鳥の店、ジャンボ焼きそばの店、ソースカツどんの店、バーガーキングという感じである。

このまとめからもわかる通り一般的な全国展開しているチェーン店となるとサイゼリヤとバーガーキングくらいです。まあもちろん作品的にできるだけ地元の店をというのはとても理解できるのですが現在東京に住んでいるものとしてマクドナルドやガストやすき家、松屋、吉野家、はなまるうどんなど高校時代によく行ったお店が一軒も名前すら登場しないというのは幾分か違和感があります。
そこでグーグルマップで調べてみると吉野家こそぎりぎり先ほど記した行動範囲の中に納まるものの他5店舗は範囲内にありません。つまり、町の要所である福井駅周辺に店舗をってないのです。
なぜこんなことになるかというと、このような店舗は基本地方では車客をターゲットにしています。地方では鉄道網がしっかり整備されていないため移動の基本は車になります。そのため、鉄道網のかなめである福井駅よりも幹線道路沿いなどに店舗が集中する傾向があるわけです。また、上記のようなファストフード店は観光客向けとはならないため玄関口である福井駅周辺に店舗を置くメリットがとても薄いというのもあります。

④3巻にて東京行きの描写

とても評価が高い3巻では福井から福井から東京行きまでの往復が描写されています。とてもサラッとですが……。おそらく彼らのルートは特急しらさぎにて福井駅から金沢駅まで行き、そこから北陸新幹線で東京駅まできて、そこから様々な場所を歩き回ってるという感じのルートですね。作中の描写的に東京駅→高田馬場→神保町→新宿 という感じで移動してますね。そこそこの交通費..というのは考えないとして、実はこの福井から東京のルートはあと数年でなくなってしまうんです。なぜかというと北陸新幹線が延線するからです。現在東京ー金沢を結んでいる北陸新幹線ですが、2024年春には敦賀まで伸びる予定となりシラサギはなくなってしまう。そのため、もし朔たちのルートをたどりたいと思ったら早めに聖地巡礼に行かれることをお勧めする。ちなみに、このルート普通に行くと片道三時間半程度であるというメリットがあるものの15000円近くかかってしまう。そのため、時間はある!けど金はない という学生は長期休暇に青春18切符を用いると16時間程度かかるが一日2500円程度で行けるのでお勧めしておきます。


⑤閑話休題 富山の話 アニメ制作会社P.A.WORKS本社周について

ちょっと小休止。この章は飛ばしてもらっても構いません。この章はチラムネ作者の裕夢氏がTwitterで夢として自作がP.A.WORKSでアニメ化されることあげているのとと単純にこの駄文の作者である私がP.A.WORKS好きであるので書かせてもらいます。

まず、アニメ制作会社P.A.WORKSとは。代表作としてSHIROBAKO・花咲くいろは・凪のあすから(見てない人はどれかひとつでも見て)などの作品を手がけてきたアニメ制作会社で、手がけた作品はどれもとても作画・背景が綺麗な作品ばかりです。この制作会社は本社を富山(支社を東京)にもつスタイルで、現在だと鬼滅の刃などを手がけたufortableなど本社を東京、作画スタジオを地方に置く企業は増えていますがその先駆けとなったと言っていい会社でしょう。

いや、こんな話したいんじゃないんです(話したいけど)。ポイントはP.A.WORKSの本社であり作画スタジオが富山県南砺市にあるという点です(今回の地方社会というテーマの中では)。この本社私は3度ほど行ったことがありますが簡単に言うとド田舎です。先程まで語っていた福井駅周辺より田舎です。いやまじで。一応それこそP.A.WORKS制作のtruetearsやサクラクエストなどの聖地になっていますが周りほんとに何も無い……。電車で行くなんて無謀はできません……唯一の連絡経路は車で、公共交通機関に頼るとしたら高速バスで行くしかありません……。 

ただその上でなぜこの話をしたか。それはP.A.WORKSという会社がこの地と共生し新たな経済活動を生み出している点です。よく言われる地方創生と言えば1括りですが、すごいのはアニメオタク以外を取り込もうという姿勢です。その最たる例であるのが桜ヶ池クエストです。この取り組みはP.A.WORKSなどの地元企業などが周辺にある桜ヶ池という多くの桜が植えられている池を盛り上げひいては観光客などを増やそう言う取り組みです。この取り組みは年3回ほどクエストと呼ばれるイベントがあり、桜を守るための整備を参加者とともに行っています。また毎年一度FireFestivalというイベントを開催しています。このように地方活性化に積極的に取り組んでいる会社です。

超長くなったけど許してください


⑥主人公朔の1人暮しについて 

朔が一人暮らししてますがどれくらいかかるんだろうかと少し思いませんか。そこで高志高校周辺で1LDKをいろいろ検索したところ大体家賃は月4~5万程度(注8)となりました。

似たような条件で東京で考えてみます。条件は一概に比べられませんが藤島高校と同程度の偏差値の公立高校普通科である青山高等学校をサンプルとして考えると私の主観で福井で検索したものと同じ水準程度の場所を考えるとよくて五万、7~8万程度、それ以上でもおかしくないという程度に差があります(注9)。

ちなみに私の週3回一回2時間程度の家庭教師のバイトでだいたい月4万円なので、特に東京は学生が一人暮らしするというのはなかなかに経済的負担が多きいわけです。(たまに小説などで見かけますが23区内では本当に高いです)

もし大学や高校で一人暮らししたいと思ってる方がいたら少しこういうことも考えてみてください


⑦まとめ

まずここまで読んでくださりありがとうございます

いかがだったでしょうか。正直何か生産性があるものや有意義なものを伝えられた気は一切しませんが少しでも面白いと思っていただけていたら幸いです。
また、チラムネに限らず小説やライトノベル、マンガ、アニメ、映画など二度目三度目の機会にツッコミやこうやって真面目に考察するというのを少しでもやってみようかなと思ってくださるとなお幸いです。

また何か機会があれば書こうと思いますのでその際はよろしくお願いします。


以下参考文献兼注釈?

注1  2019年の全国学力テスト都道府県別正答率ランキング!  Education Career
(https://education-career.jp/magazine/data-report/2019/ranking-achievement-test-2018/)
注2 福井県 高校偏差値一覧2021年度版 みんなの高校情報福井(https://www.minkou.jp/hischool/exam/fukui/deviation/)
注3 最新(2019年)の大学進学率は54.67%!男女・学科・都道府県別まとめ Education Career
(https://education-career.jp/magazine/data-report/2019/education-continuance-rate_2018/)
注4 大学 都道府県別学校数(令和2年度)  ナレッジステーション
(https://data.gakkou.net/r2daigaku001/)
注5 福井大学 代々木ゼミナール
(https://www.yozemi.ac.jp/nyushi/kokkouritu/kokkouritsu/kokkouritsu/1285368_3539.html)
注6 令和3年度大学合格者数 福井県立藤島高校
(https://www.fujishima-h.ed.jp/wp-content/uploads/2021/04/R3%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E5%85%A5%E8%A9%A6%E7%AD%89%E5%90%88%E6%A0%BC%E8%80%85%E6%95%B0.pdf)
注7 【Q&A】高校生のお小遣い、みんなどうしている? 金額や相場、使い道は?  ベネッセ 教育情報サイト
(https://benesse.jp/kyouiku/202104/20210418-2.html)
注8 甲信越・北陸の物件から探す賃貸住宅[賃貸マンション・アパート]情報 検索結果 suumo甲信越・北陸版
(https://suumo.jp/jj/chintai/ichiran/FR301FC001/?ar=040&bs=040&pc=30&smk=&po1=12&po2=99&shkr1=03&shkr2=03&shkr3=03&shkr4=03&ekInput=75795&ta=18&kskbn=01&tj=90&nk=-1&cb=0.0&ct=9999999&md=04&et=9999999&mb=0&mt=9999999&cn=9999999&fw2=)
注9 関東の物件から探す賃貸住宅[賃貸マンション・アパート]情報 検索結果 suumo関東版
(https://suumo.jp/jj/chintai/ichiran/FR301FC001/?ar=030&bs=040&ta=13&cb=0.0&ct=9999999&mb=0&mt=9999999&md=04&et=9999999&cn=9999999&shkr1=03&shkr2=03&shkr3=03&shkr4=03&ekInput=07450&nk=-1&tj=90&sngz=&po1=12&page=50)



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