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VRをテーマにした短編小説を書きました【その1】


こんにちは。
はれのそらと申します。
今回VRをテーマにした創作を上げて見ました。
今まで意図的に避けていたテーマでしたが今後はどんどん書いていこうと。
作中のVR内の集会については実在の集会をモデルにさせていただきました。

原作 熊右衛門さん


本編タイトル「2035年の電子の夜」

「好き…だよ」
「私も…じゃあ、また」

HMDを通してなら。そう言えた。
また一人になる。
分厚いVRゴーグルを外す。
汗の匂いで夢見心地だった思いが消えそうになる。


いつも。
いつも、この嫌が応にも迎える瞬間が辛い。
VRから戻ってきた時、いつも自分の体の大きさや醜さ…それに取り返しのつかない所まで来た。どうしても、それまでの年月を考えてしまう。
今日が連休前だから、余計な事を考える。
お砂糖相手のパートナーとの蜜月も、今日は断ってしまった。

私は今年で44になる。
しがない派遣労働者で、いつクビを切られるかわからない。いつでも、どこでもいなくなっても気づかれない。両親は亡くなり、親しい友人も、友人の結婚を期に疎遠になってしまった。同じ地元の同級生は立派に中学校の教諭になっている。
ただ生きているだけ生きてる。
そんな身の上。
だからこそ、リアルに期待する事なく…溺れるようにVRへのめり込んだのかもしれない。
VRは自分の好きにできた。
時間の経過なんてなくて、可愛いままの体になれた。
20年前には夢物語でしかなかった、VR空間上での交流もできた。

好きな人や恋人もできた。
失恋もした。
今は恋人もいる。でも、ずっと長く誓い合う。なんてことはできなかった。
したくてもそうならなかった。
リアル以上に関係の継続が困難な事を知ってしまったから。
年の差が10以上離れているパートナーとも将来はわからない。

先進国で生まれて。
おそらく、何不自由なく生きられているのに。
どうしてこんなに胸が空(あ)いてしまうのか。
どうして、辛く寂しく誰かを求めてしまうのか。
年齢を重ねたら情動は収まるかと思ったら。
表には出ないが、柔肌の薄い膜の裏からくすぶり続けて解放されない。
何かが
いや、自尊心や承認欲の器の底も空いてるのかもしれない。

いつもなら、こんな思いをする事はなかった。
でも、今日は考えたかった。
起こるであろう未来への耐性をつけたかったから。

無駄にどうという事もなく生きてきた。
この惰性まみれでみじめな生き方。
どうにかならないのか。
……その時。ふと、私は思いついた。あそこに行ったら、なにかわかるのかもしれない。

少し肩の力が抜ける。冷房を切って、ぬるまったい夜風を味わった。
夜の生の風は久しぶりだった。

※※※※※

数日後。連休の最終日に、VR上のイベント…同世代限定の集会へ私は参加していた。
こういうのは同じ世代の友達じゃないと言えない。
悪友は私の姿に驚いた。
「会場のメンバー確認してたら…まさか、あなたがまた見えるようになってるとは思わなかったな」
参加者の中で長い付き合いの悪友に悩みを打ち明けた。
悪友はすらすらと答えを導き出す。
「一言で言うとね、みじめで無駄に生きてるって思ってる人の数は、おそらく私達の世代が多い」かわいい表情をしながら、ケモミミフードを被った美少女の悪友は言った。
「……」私は黙っていた。
「人口ピラミッドって奴を調べてみると、いわゆる氷河期世代が他の世代に比べて人数が多い。母集団が多ければ、そういう考えを持った奴もそれなりにいるだろう。そう、人数が多いってのは強い。数は力だ。だから、リアルだろうとバーチャルだろうと数が多い分、下の世代に比べて生き方を変えやすい」
「そうなんだ」
「ピンとこないかもだけどな。いくら多様な生き方を打ち出したとしても、その社会を支えるべき人の数が少ないなら…長い目で見ると好きな生き方は選びにくいし、許されなくなる」
「そうかもね」
「ただな、別に俺は本当の意味で無駄だと思ってもいない」
「なんで?」
「あなたやフレンドに会えたからだよ」
「え」
「もう子供は望めない人生だけど、俺はあなたと出会えてよかったよ…。思い出があるからこそ、生きていられる。とても…とても幸せな時間だったよ」
「……相変わらず、そうやってこっちが欲しい事を言ってくれるんだね。だから、会いたくなかった」
「……生きててくれて、ありがとな」
悪友の左手薬指には、私の知らない指輪があった。
「……。アンタもだろうがよ……ううん。新しいパートナーと末永くね」
「幸せにな。お前も、もう一人じゃないんだから。有意義だろう、過去よりも今が」
「いや、違ったんだ」
「ん?」
「過去も私にとってかけがえもないし、嬉しかったことだったんだよ。そう感じたから、今を大事にしていくんだ」
「……今度は自分で見つけてきたんだな」
「ああ。アンタのおかげでね」
そうして、私は元パートナーの悪友と別れ、集会を後にした。
日々の生活へ戻っていく。

※※※※※

そして。
今日も、私はVRにinする。
いつか、体が動かなくなる、その日まで。
黄昏た夕日をベンチで遠く見つめる。
彼の人を待ちわびる。

(了)

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

いかがでしたか?
次回作についてですが…鉄道関係とだけ言っておきます。現在、鋭意制作中です。しばらく、鉄道関係が多くなります。

前作


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