【超短小説】年雄の成人式

年雄は自分の成人式を思い出していた。

上京していた年雄は、成人式の為に地元に帰る日を楽しみにしていた。

1年ぶりだった。

せっかくなので、原宿の有名な美容室を調べ「成人式なので、カッコよくしてください」とお願いした。

目立ちたかった訳ではない。

"一生に一度"くらいの気持ちだった。

原宿の美容室を出る頃には、年雄の髪は真っ赤になっていた。

東京ならまだしも、年雄の地元のような田舎に、真っ赤な頭で帰ると目立ってしまう。

年雄は地元に帰る飛行機の中で、小さく震えた。

学生の頃、目立つタイプでもない。

不良でもない。

普通。

好んで普通。

そんな自分が、東京に行って帰ってきたら、真っ赤な頭になっている。

両親や兄弟、親戚に変な誤解を生みそうだ。

地元の友達、幼馴染にもそう。

なぜ!なぜ赤なんだ!

目立ち過ぎる!

普通!普通で良かった!

ずっと普通でやってきたじゃないか!

後悔に震える年雄を乗せた飛行機は、無事に空港に着いた。

幼馴染のタクが、車で迎えに来てくれた。

会って最近の一言。

「ダセーな」

実家に着き兄から一言。

「ダサ」

母親から一言。

「似合わないね」

父親から・・・無言。

年雄は真っ赤な頭で成人式に参加した。

「ダサい」を貰った数は、その日1番だったと思う。

浜本年雄40歳。

あれから20年。

髪は黒いが、ダサいは変わらず。

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