【超短小説】年雄、どっちが危ない?

夜道。

年雄が歩いている少し前で、自転車のブレーキ音が聞こえた。

暗くてよく見えないが、自転車に乗ってるおばちゃんが怒鳴っていた。

「ちゃんと前見て歩きなさいよ!バカ!」

怒鳴られているのは若い女性っぽい。

女性は「すみません」と頭を下げていた。

おばちゃんは去り際「携帯なんか見て!本当バカなんだから!」と言って凄いスピードで走り去って行った。

女性が携帯見ながら歩いてたのか。

最近増えたな。

確かに危ない。

ただ、年雄は思った。

どっちが危ない?

携帯を見ながら歩いていた女性は危ないなと思うが、無灯火で夜道を走る自転車もなかなか危ない。

おばちゃんは、自分が無灯火だと気付いて怒っていたのか?

おばちゃんの自転車が凄いスピードで年雄の横を通り過ぎる時、年雄はヒヤッとした。

年雄からすれば、怪我の危険を感じたのは、携帯を見ながら歩いていた女性より、夜道を無灯火で走るおばちゃんの自転車だ。

そう思うと、さっきの出来事が変に見えてくる。

凶器を振り回すおばちゃんが「危ないわよ!バカ!」と言ってるように思える。

危ないのはお前で、バカもお前。

まあ、どっちも危ないが。

と、考えながら歩いていると、赤信号を渡ろうとしていた。

年雄も危ないし。

浜本年雄40歳。

つまり、みんな危ないけど、バカ言い過ぎって事。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?