【超短小説】年雄と餅つき

年雄が小学生の頃、この時期になると、隣に住むじいちゃん家に親戚が集まり、餅つきをした。

臼の中に炊いた餅米を入れ、杵でそれをグッグッと押しながら、餅米を馴染ませていく。

これは力がないとできないので、親父達の仕事だ。

何度もやらせてくれと頼んだが「お前がやると冷めて固くなるからダメ!」と怒られた。

ある程度餅のようになったら、今度はぺったんぺったんと杵でつき始める。

力のあるおじさんがつくと、"ぺったん"というより、"べたん!"と迫力ある音がした。

子供達はその音に興奮して「やらせて!やらせて!」と杵の取り合いになった。

でも実際杵を手にすると、あまりに重すぎてふつうにつく事ができず、全然楽しくなかった。

餅がつきあがると、長方形の木箱に"ドスン!"と入れ、年雄の楽しみが始まる。

ばあちゃんがその餅を小さく千切って丸め、並べていく作業。

それを手伝うフリをして、ばあちゃんの横にちょこんと座ると、ばあちゃんは餅を一口サイズに丸めて年雄の口にポイっと入れてくれた。

これが1番美味しい餅の食べ方。

年雄の楽しい時間。

1個、2個と食べると、次は中にあんこを包んで年雄の口の中に入れてくれた。

それは母親に「いい加減にしなさい!」と怒られるまで続く。

つきたての餅は、お腹にたまらず、消えて無くなっているんじゃないかと思う程、いくらでも食べられた。

懐かしい。

浜本年雄40歳。

あの頃を思い出し、餅を買ってきたが、美味しく料理できない自分の不器用さにため息を吐く。

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