短読12 犬だけで道を彷徨うのを見ても曇ったまま心が動かない
はじめに
十二首目は、豊冨瑞歩さんの歌です。ご投稿ありがとうございました。音の欠落から気持ちについて掘り下げていきました。どうぞよろしくお願いします。
まず読んで思ったこと
さらに読む
〈曇ったまま〉が不思議な感じになるのは、歌の中で見せられている場面がここで宙吊りになるからじゃないかと考えました。三句目〈のを見ても〉で、いったん視点の意識が歌の(語り手の)人のほうに向くんだけど、〈曇ったまま〉というのは本来天気の表現です。だから自分の方に意識が向かう過程で、犬が彷徨っていた空間への視点はもっと引き(全体を捉えるような形)になると思います。それによって見えてくる〈曇ったまま〉は、心情でもありながら、犬が彷徨っていた空間が持っている空の様子でもありそうな気がする(最後まで読んでしまえば四句目は心情のことだとしてわかりますが)。そこにこの歌の空白みたいなものができるのかなあと思いました。
こころがとまっているとき、無理に動かさなければ動かせない感覚があって、そのガタガタな感じというのを思いました。こころが動かないときは無理に動かさないのが一番なんですけど、でもそれってある意味自分にとって異常事態なわけだから、どことなく焦っちゃうよなあって思います。焦って動くときは大体空回りして疲労するんだけど、この歌では焦ることもできない停止感が強めな感じがしました。
短歌では「字足らず(音が足りてないこと)」は難しいと言われがちですが、心情の、喪失感や欠落感とはマッチしやすいと結構言われるのを思い出したりしました。この歌では〈まま〉が延長して結句(5句目)につなげてくれるような気もしてきます。ところで57577に慣れると字足らずは何かと目立ちやすいんですよねえ、なんでなんでしょうか。
企画趣旨はこちらから
https://note.com/harecono/n/n744d4c605855
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