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【インタビュー仕事メモ】 個人情報をどこまで事実に沿って描けるのか?

イラストレーターでコミックエッセイストのハラユキです。東洋経済オンラインや北日本新聞などのニュースメディアでも連載を持ち、取材してそれを記事マンガにする仕事も数多く行っています。

少し前に、SNSで私の過去記事の内容について問題視する声があがり、それをきっかけにあらためてインタビュー仕事のやりかたについて考えたので、それを個人メモ的に書きたいと思います。

その記事はこちら。日本で子育てする同性カップル3組を取材したシリーズの中で、養育里親活動をするゲイカップルを紹介したものです。

ちなみに、「えっ!同性カップルが里親って!?」と思った方はこちらの記事をどうぞ。


上のマンガの中で、このゲイカップル家庭の個性が里子にいい影響を与えることもある、という話を描きました。こんなくだりです。

ここからが問題を指摘された部分です。

このマンガ、公開時はわりと好意的に読まれていたのですが、かなり経ってからとある非難の声が上がりました。それは「里子を預かっている間に素性のわからない男性を家にあげるなんて、里親失格!児童相談所にクレームを入れる!」的な激しいものでした。

確かに、その行為そのものは児童相談所としても推奨はしない行為だと思います。里親としては「ベスト」じゃない。ただ、「困っている人を思わず保護してしまった」というエピソードだけで、彼らの里親活動そのものを全否定して、さらに活動を妨害するのは行き過ぎです。この保護した男性は身寄りがなく本当に困っていて、そうとう危険な状況だったそうですし、その反対の声を上げたのが、同性カップルが里親になることに猛烈に反対する人だったので、差別的に粗探しをしているようにも私には見えました。

補足しておくと、私は同性カップルなら誰でも里親になってもいいと思っているわけではありません。異性カップルであろうが、同性カップルであろうが、里親が子どものための制度であることを理解し、児相の審査に通った人だけがなれるのが里親制度だからです。

そもそも、「リスクゼロで完璧でベストな子育て環境を作る」というのは、世界中のどんな親にも不可能です。子育て中には、イレギュラーなこともリスキーなこともどうしても起きます。そして「完璧に子どもを保護するリスクゼロの子育て」が、子どもの教育上、必ずしもベストとも限らない。それが子育ての興味深く、奥深いところでもあると私は思うのです。

そういったこともXで発信しましたが、本当に児相にクレームを入れられて取材先に迷惑をかけることになったら申し訳ない。そこで、取材先に状況説明の連絡をしました。すると、こんなことがわかったのです。

担当の児相のみなさんにもこのマンガは大好評。もともと彼らの暮らしや里子との生活を大変好意的に見てもらっているので、つい最近、里親としての更新も無事に終了した。(ようするに、多少のクレームがあったところで大丈夫そうなくらい、これまでの里子たちと児相といい信頼関係が築けている。ちなみに、卒業したある里子ちゃんとは今もつきあいがあり、最近は成人式の着物などの準備まで手伝ったそう。面倒見いいなあ😆)

そして、意外なことがもうひとつ。

マンガに描いた困っている男性を保護したのは、里子がいないときのエピソード。さすがに受託中にはそんなことはしない、とのこと。

え、そうなの!?それだったら私の勘違いだったってこと!?だとしたら、ラフチェック(この連載では、取材先のご家庭には必ずラフ段階でチェックしていただいている)でご指摘がなかったのはなぜ?

再度、取材先に細かく確認したところ、友人たちの話の流れからつながった部分だったので、里子の感想も友人たちのことを指していると思っていたし、気に留めていなかったと。な〜るほど、確かに、もともとのマンガにもハッキリと「受託中のエピソード」として描いているわけじゃないから、人によってはチェックでスルーしてしまうのもわからなくもない。

ようするに彼らは、里親失格どころか、私が思っていた以上に里親としてしっかりしていたことがわかったのでした。

そこで編集部にも相談し、誤解が起きないような形に修正し、ついでに他の気になってた部分もブラッシュアップして、差し替えてもらいました。年末年始を挟んだので差し替えには時間がかかってしまったのですが、修正された部分が以下です。

今は差し替えた記事が公開されております。結果的には、記事がさらにいい形になってよかったよかったよかった!

以上のことをXでも報告して、それでも批判の声が上がっていましたが、確かに今回は私の認識ミスがあったことは間違いありません。そして、最初からベストな記事が公開できなかったことは、読者さんに大変申し訳なく思っています。なので、私が勘違いしてしまった原因を、反省を込めてあらためて考えてみました。

【理由①】
公的な事実はファクトチェックしやすいけど、個人の体験談はファクトチェックがしにくい。インタビューで聞いた内容を念のためファクトチェックすることはよくあるのだけど、個人の体験は正式にそれを証明する公的文書がない。著書やSNSや受けた取材記事など記録を多数残っている人だと、その記録との整合性でファクトチェックできるときもあるけど、人によってはそういうものもない(今回のおふたりも)。

【理由②】
だからこそ勘違いを防ぐためにラフチェック作業をいつもしてもらうのだけど、今回のように、表現方法または取材相手によっては、チェックが入らないままにスルーされてしまうこともある

そう、前から思ってはいたんですが、個人情報を事実に沿って正しく描くって本っっっ当に難しいんですよね。人によっては、記憶違いしてたり、事実誤認していることもあるし。

じゃあどうすればいいの?と考えると、実はこういうのって、最終的に頼れるのは、経験による「カン」なのかもしれません。

ひとつは取材経験を積んで、人を見極めて判断するカン。さらに今回で言うと、養育里親事情に対するカン。私は養育里親取材が初めてだったのですが、もっと取材経験を積んでいたら、その行為についてもっと突っ込んで詳細を確認していたと思うのです。あと、同性カップルへの風当たりの強さも私の考えていた以上だった。そのあたりのカンも足りませんでした。

いやはや、取材仕事は本当に難しい!!

ただ、今回は怪我の巧妙で、結果的に記事をいい形で修正できました。個人的にはWEB記事のよさはここにあるとも思っています。

というわけで、反省の意味と、今後の仕事のレベルアップにつなげるためにまとめてみました。

ほぼ独学でスタートしてまだまだ勉強中のインタビュー仕事、まだまだ勉強中です。だからこそ、今後さらに技術とカンを磨いていきたいなーと思っております。

というわけで、勉強記録みたいな個人メモをここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!

最後におまけ宣伝ですが、この連載は、書籍版も出てます。webでの反応などを参考にしつつ、連載からかなり加筆修正して作った本です。今年は続編も出版予定なので、よかったらこちらもぜひに😉

連載と連動したメンバーシップもやっております。


まだまだ未熟ですが、これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします😄

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