大学院で「コミックジャーナリズム」の研究はじめます(肩書きに「コミックジャーナリスト」も追加するよ〜)
イラストレーター&コミックエッセイストのハラユキです。ゆるいコミックエッセイから、社会派のマンガ記事まで幅広くお仕事をしております。東洋経済オンラインや北日本新聞でも連載を持っています。
突然ですが、関係者&読者のみなさまにおしらせ。バルメンバーのみなさまにはかなり前におしらせしてましたが、公にははじめておしらせです。
てなわけで大学院に通い始めました。
ビックリですよね。いや〜、私にとっても、1年前には全く予想してなかった展開でありますよ。周りで社会人大学生になった人も複数いるけど、完全にひとごとだと思ってたもの(もし自分がいま大学に入るなら「温泉学」でも学ぶ?とかは考えたりはしたな。別府大学に温泉学があるらしいよ!)
さてさて、私が通うのは、別府温泉大学ではなく、
早稲田大学政治学研究科ジャーナリズムコース
です。ここは日本で最初にできたジャーナリズム大学院で、私は、
①ジャーナリズム の勉強
②コミックジャーナリズム の研究
をする予定です。てか「コミックジャーナリズム」ってなんやねん!って方も多いと思うので、このnoteには、私がなんで大学院に入ったのかと「コミックジャーナリズム」について書いてみようと思っています。長いですが、もしよかったら最後までおつきあいいただけると嬉しいです。
なんで大学院に入ったの?
さて、ここからが本題。
まず「ジャーナリズム の勉強」に関して言うと、私、流れで社会派マンガも描くようになったもんだから、ジャーナリズム の基本を全然知らないままに、社会的なことを描いているわけですよ。一度ちゃんと基本を確認したほうがいいんじゃないかなとずっと思っていたのが進学理由のひとつです。
(とはいえ、日本ではジャーナリズムを専攻せずに記者になる人も多いのですが。アメリカだと、コロンビア大学とかジャーナリズムで有名な大学がいくつもあり、そこで学んだ記者が多いそう)
私は、わかりやすい記事を作ることはできるとは思うけど、まだまだ足りない部分がある。たとえばファクトチェック力やリサーチ力、データを読み取る力。特に数字が絡むとむちゃくちゃ弱い。
大学院では、統計などのデータに焦点を当てて今まで見えなかった事実を明らかにしていく「データジャーナリズム 」という授業もあります。数字や統計って報道ではすごく大事なことだし、イラストやマンガと組み合わせると数字やデータが苦手な人にも伝わりやすくなります。だからこそ、データへの弱さを克服したい。とはいえ、これは本格的にやるとむっちゃ数学&プログラミングの世界らしく、算数を小学校高学年で挫折した私にはムリゲーな気もするけど😂せめて基礎は学びたい。
たとえ自分でハイレベルなデータ解析までできなくとも、基本を理解し、そういう専門家の人たちとのつながりができれば、マンガでタッグを組める可能性も広がるとも思っています。
そのほか、私が弱い「政治学」「経済学」も学びたい。私は家庭のことを描くことが多いですが、家庭問題の背景には、政治や経済は深く濃く関わっているから。ジャーナリストのための政治学、経済学の授業もあるのです。政治学では戦争についても学ぶようです。
そうそう、「公共の哲学」という、現代社会でまだ正解が定まっていない、賛成派と反対派に分かれがちな社会問題について規範を考察する授業もあります。こういうのは、育児中の同性カップルなども取材してきた私にはかなり興味深い。いま話題の「共同親権」とかもこういう問題だよね。
実際に大学院に入ってみて実感したのですが、一般のセミナーで学べるような「記事の書き方」「取材の仕方」とは別の、もっと深い部分でジャーナリズムを学べそうなかんじがしています(もちろんテクニカル基礎講座もあるけど、社会人学生はそういう講座は任意。せっかくだから受けるけど)。
そんで、授業がむちゃくちゃ面白い!!若くなくて、いろんな取材を経てきたからこそわかる面白さがいっぱいあって、まだスタートしたばかりなのに、シナプスがつながるような感覚。毎日、瞳孔が開きまくってるよ😳
ちなみに、こういうのを学んだからっていって、私の社会派マンガが急に小難しくなったり高尚になったりすることはないので、そこは安心してください。政治学研究科に行ったからって、政治記事がむちゃくちゃ増えるとかもないです。
これまでと路線もノリも変わらないけど、もっとその精度を上げたい、深めたい。もっと社会をよくする記事を作りたいし、堂々と社会のことを書ける、発信できる、いろんな意味の強い力を身につけたい、そんな気持ちでジャーナリズムを勉強することにしたのです。
ちなみに、そのほかの大学院に行く動機としては、おととしにうつになったことや、息子が中学受験をしたこともかなり関係してるんですが、そこも書いちゃうと長くなりすぎるので、それはまた別の機会に。
コミックジャーナリズムって?
さてさて、大学院のもうひとつのメイン目的は「コミックジャーナリズム の研究」です。
社会派マンガを描くようになって5年以上経ち、その間には、子育て支援政策やコロナ政策やコロナ後遺症や差別問題なども扱ってきましたが、それは「社会問題をマンガで発信する意義」が身に染みてわかるような日々でもありました。
たとえば、政策や医療のことって、社会的弱者であればあるほど大事なことなのに、テキスト記事だと、難しくて読めない人がたくさんいる。でもマンガだとそういう人でも読める。わかりやすい。広い層に届く。マンガで表現することの社会的意義がすごくある、と実感したんですね。
ちなみに、私はいま「イラストレーター」「コミックエッセイスト」とふたつの肩書きを名乗っているので、私の描くマンガは「コミックエッセイ」と表現されます。でも、描いている内容によっては、「これって、コミックエッセイじゃなくて、"コミックジャーナリズム" なんじゃない?」と、あるときふと思ったんです。
そもそも、「コミックエッセイ」の定義は、デジタル大辞泉によれば「マンガによるエッセイ。作者の体験や感想などが描かれる」。ただ最近は、創作を織り交ぜてフィクション風に描かれるマンガも「コミックエッセイ」と呼ばれています。つまり、どんどん定義があいまいになっている状態です。ただ、どんなコミックエッセイでも大事なのは「共感」。
「わかるわかる!」と思いつつ読めるコミックエッセイは私も大好きで、共感で人は救われることもあるし、これからも描いていきたいし、大事だなと思っているジャンルです。
でも、体験談と気持ちのみで描かれたものと、取材などで専門知識をまぜて客観的に社会問題を扱ったものが、同じ「コミックエッセイ」という言葉でまとめられてることに、だんだん違和感を感じるようになったんです。これはもちろん、どちらが上下という話ではなく、単純に、ごっちゃになっていることに対しての違和感です。
余談ですが、ジャンル分けの話でいうと、私の新刊「誰でもみんなうつになる」は、私のうつ体験であるコミックエッセイ要素と、専門家や患者を取材し、精神医療の問題点や気をつけたほうがいい点を客観的にまとめた要素をミックスさせたもの。なので、今回は、あえて「コミックエッセイ」ではなく「コミックルポ」と表現してもらいました。ちなみに「ルポ」は「取材記者・ジャーナリストなどが現地に赴いてメディアで報告すること」です。
話を戻すと、そんな経緯の中で、突然ふっと浮かんできた言葉が「コミックジャーナリズム」。
さっそく調べてみると、なんと、すでにアメリカなどでは使われている言葉ではないですか!!!
たとえば、コミックジャーナリズム 分野のパイオニアと言われる作品は、パレスチナ潜入ルポマンガであるジョー・サッコの「パレスチナ」だそう(この人が「コミックジャーナリズム」という言葉を最初に使い出したっぽい。ちなみに彼も大学でジャーナリズムを学んでます)。
そのほかにも、アート・スピーゲルマンの「マウス」は、父親のアウシュビッツ体験をマンガにしたもので、ピューリッツァー賞を受賞していて、高校の授業で読まれることもあるそう。
おおう、すでに言葉として、ジャンルとして、あったんかい!!
さらに調べると、去年、フランスのストラスブール国立大学図書館では、「『現実』のコミック、新しい形のジャーナリズム?(La bande dessinée du réel, une nouvelle forme de journalisme?)」と題したコミックジャーナリズム展が行われていて、その中には日本の「はだしのゲン」も紹介されていたのだそう。
おおう、コミックジャーナリズム って、戦争とか、どえらいでかいテーマを扱っているものが多いんだな〜!へ〜!と本を読んでいたのですが、こことで思ったことがひとつ。
戦争とかほど壮大なテーマじゃなくても、コミックジャーナリズム 的な作品は日本にたくさんあるよね?たとえば、医療問題だったり、貧困問題だったり、政治問題だったり、宗教二世問題だったり、そんなことをテーマにした、すばらしい作品はフィクションでもノンフィクションでもたくさんあるよね?でも、日本では、「ストーリーマンガ」とか「ノンフィクションマンガ」とか「コミックエッセイ」とかに分類される。ジャーナリスティックな作品が「コミックジャーナリズム 」という分野として、全然、認知されてない…。
だけど、自分の中では、エッセイ的なことを描くときと、ジャーナリズム 的なものを描くときは全然違うスタンスで、注意点や描き方も全然違う。なのに、そこがごっちゃにされてるのが生理的にすごく気持ち悪い。ちなみに、私は概念や情報をわかりやすく整理したくてしたくてしょうがない性分なのです。部屋の片付けはできないけど😂情報は整理したいんだっっっ。
日本ほどのマンガ王国で、すでに良質なコミックジャーナリズム的な作品もたくさんある国で、そんな混沌状態なのはもったいなくない?
弱者に寄り添うことができるコミックジャーナリズムという分野やその手法がもっと認知されれば、良質な描き手も作品も増えて、それは、社会をもっとよくすることにもつながるんじゃない?
もし大学で学問としてのジャーナリズムを学び 、私のやってきた経験を組み合わせると、「コミックジャーナリズム 」を分類・整理できるし、その社会的地位も確立することにつなげられるんじゃない?
そんな気持ちがむくむく湧いてきたのです。
ちなみに早稲田大学に「コミックジャーナリズム 」の講座はないのですが、メディア分析の先生はいて、マンガ研究をしている人もたくさんいるよう。
そして私は、少し前から、海外の有名なコミックジャーナリズム 作品をコツコツとコレクションして少しずつ読んでいます。マンガは大好きだからもともとたくさん読んできたけど、海外のコミックジャーナリズム作品を読むと、表現の勉強になることもたくさんあるのです。下の写真はその一部。
そんな経緯もあり、コミックジャーナリズムの研究をしたいと思うようになったわけです。
それでね。
せっかくこういうことも始めるんだから、腹をくくって、自分の肩書きにも「コミックジャーナリスト」をつけくわえることにしました。
これは自分を鼓舞するため、そしてこのジャンルの認知を広げるためです。サイトなどのプロフィールもこれから変更していきます。名刺も新しくしてみたよ。ドキドキ。あー言っちゃった。もう逃げられないぜ‥!!
だけど、大問題がある
さて、ここまでは大学院のポジティブ面と抱負的なことを書いてきましたが、ここからはマイナス面の話。
私、大学院は、社会人向けの1年コースで入ったんですよ。このコースでは、会社員の人でも入りやすいように1年コースが設定されているんですが(実際、大手メディアに勤務中の院生も複数いる)、このコースがあったからこそ受験した部分もあるんですね。早稲田は私学だから学費も高いんですが、1年なら頑張れば!なんとか!捻出できるかなあって。
でも、二次試験の面接のときに言われたのは、
「研究テーマ自体はとてもいいと思う。このテーマを、執筆者が研究するというのにも意味がある。ただし、英語では先行研究がそれなりにある。「コミックジャーナリズム 」という名前だけではなくて、いろんな名前で研究されている(そうそう、たとえば「グラフィック・ノベル」とか「グラフィック・ノンフィクション」とか、そんなジャンルのくくりの中に入ってることも多いのです)。だから先行研究を調査するだけでもそれなりに時間がかかる」
ようするに、1年で卒業するのはそうとう大変とのこと。コースとしてはあるけれど、2年分のやることを1年で頑張りまくったら1年でも卒業できるよ、ということみたいで、過去に1年で卒業した人は生活の全てを学業に全振りしたかんじだったとか。う、うーむ…………。
そして、実際に大学院に入ってみたらば、1年目は授業数もそれなりにあり、それぞれの宿題が予想以上に大変。これに加えて研究、そして仕事って……。そうか、修士の2年って、1年目は勉強メイン、2年目は研究メインという仕組みだったんか。う、うーむ…!!!!!!!!!!!!
そう、つまり、現段階ですでに、1年で卒業というのは無理そうな気配なのです。
え、マジか。1年分の学費だけでも捻出大変なのにマジか。大学院行くと仕事量だって多少は減らさないといけなそうなのにマジか。
このあたりは多少知識があり計算できる人は受験前に気づくのかもですが、そこは何しろ全てに読みが甘く、計算が壊滅的にできないのが私です(そもそもダメもと受験だったし)。
お金を工面する方法もいろいろ調べてみたのですが、訓練給付金(かなり金額が出ることもあるからチェックおすすめ!)は条件があわず、奨学金は、ほとんどは世帯年収でカウントするから(つまり夫と合算)、可能性もかな〜り低め。ヤバい。これはヤバいぞ。学生ローンとか小規模企業共済ローン(むっちゃ金利安い)もあるからそれも使うとしても……。
正直いえば、社会派のマンガを描き出してから、イラストレーターとしての仕事がメインだった頃より、実はどんどん儲からない方向にいってるので、けっこうマジでどうやって学費捻出しようかなーってかんじであります。はははははははは(遠い目)。
というわけで、勇気を出して、もしよかったらのストレートなお願いです。
いちばん下にある「記事をサポート」ボタンより、入学祝い&勉強応援をいただけるととっても嬉しく、ありがたいです。
ちなみに、今後、noteでは、コミックジャーナリズムについてもいろいろ発信していこうと思っています。私が思うその種類分けとか、おすすめ作品紹介とか、研究報告とか、書きたいことはいっぱいあるのです。
あと、noteのメンバーシップ機能を使っているバル・ハラユキでも、メンバーだけが読める大学院裏話マンガは描いていこうと思っているので、バルのメンバー登録という形の応援も大歓迎です(いやー表で描きにくいけど面白い話がもうすでにいっぱいあるのよ!)。
というわけで、勉強&研究&仕事&育児、がんばります。そして、サポートももしよかったら、よろしくお願いします。
長い文章を読んでいただき、ありがとうございました😊
追記01
サポート、noteのアプリからはできない仕組みみたいです。なぜ😂。お手数ですが、アプリではなく、ブラウザからお願いします。そして、さっそくサポートいただいたみなさま、本当にありがとうございます!😭サポートコメント読みながら、さらにやる気が高まってきました。頑張りますー🔥🔥🔥
追記02
大学院に実際に入ってみたら、経験者に聞きたいことがいろいろ湧いてきたのでこんなオンラインイベントを開催します!録画配信チケットもあります。「突撃!オトナの大学院」著者の森井ユカさんや去年修士終了して、卒論を大幅改訂して書籍を出版した小西一禎さんらと大学院についておしゃべりします。興味ある方はぜひ😊
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