見出し画像

2024年は初演200周年。さらに深く知りたくなった、ベートーヴェンの「第九」のこと

東京・春・音楽祭2024
東京春祭マラソン・コンサート 《第九》への道―《第九》からの道
を聴いた。
(2024年3月26日 東京文化会館 小ホール)

◎「第九」をさらに知ることができた素晴らしい企画

1824年5月7日、ベートーヴェンの交響曲第9番はウィーンで初演された。

世の中に交響曲第9番は数々あるが、「第九」といえばベートーヴェンの交響曲第9番を指すことがほとんどだ。

2024年はそれから200年後という区切り良い周年なので「第九」にまつわる話題が多く出てくるのだが、今回聴いたマラソン・コンサートは、すでに超有名な「第九」をさらに深く、面白く知ることができた200周年にふさわしい、とても良い企画であった。

◎充実のマラソン・コンサート、その内容は

その名の通り、通常のコンサートよりはるかに長いもので、1回90分のコンサートが3回、合計270分にも及ぶものであった。

その内容はこちら

コンサートとは名付けられるが、単に曲が次々演奏され、それを聴く、というだけではない。

コンサート企画構成をした小宮正安氏の充実した解説が聞けるのだが、カルチャーセンターで音楽に関する講義を聴くというものではない。

「第九」にまつわる解説とその内容に即した曲が生演奏されるという、コンサートとカルチャーセンターがうまくミックスされたような内容は、難しいようでも、とても分かりやすくなっていて、「第九」という大きな作品の側面や裏側に光を当て、くっきりとその様子を立体的に浮かび上がらせるような感じ。

そのおかげで、すでに何回も聴いている「第九」の今後の鑑賞がさらに面白くなると感じたのである。

◎それにしても「第九」という作品は奥深い。

あまりにも有名な「第九」。

その音楽は毎年の年末の風物詩として演奏されるのでよく知られていることだが、それはまだまだ表面上のことである。

その作品の裏側にはあまり知られていないエピソードが存在していることを今回のコンサートで知ることができた。

例えば、第4楽章で登場するシラーの詩「歓喜に寄す」だが、「第九」でとりあげられているのは、その中の一部で、シラーの詩自体はもっと長いものであること。

またその詩は、中に「合唱」と指示されてる部分があって、ひとりではなく多くの人が声を合わせて謳う部分がある。ベートーヴェンの第九が合唱を付けた交響曲になったのはこの詩のおかげなのかもしれない。

そしてこの「歓喜に寄す」は、ベートーヴェン以外の作曲家たちによっても音楽が付けられているのである。

ベートーヴェンが第九を発表する前に作曲されたものや、あのシューベルトも曲を付けている。当然、メロディはベートーヴェンのものとは全く異なる。

そのベートーヴェンの「第九」に登場する有名なメロディにも、驚くことがたくさんあった。

「第九」を作曲する以前に、ベートーヴェン自身の別の作品にすでに取り上げていたことは知っていたのだが、なんとモーツァルトの作品にそっくりなメロディが、ふと、顔をだすのである。

その作品とは、「主の御慈しみをK.222」である。

ベートーヴェンが先輩モーツァルトのこの作品を耳にしていた可能性はあるので、あの有名なメロディは、もしかしたら「パクリ」なのか?とも疑ってしまうのだが、この例に限らず今現在でも異なる曲に、似たメロディがあると指摘されることはあるので一概には言えないが、とても興味深いことである。

◎フランス革命とシラーの詩とベートーヴェン

「第九」の誕生にはフランス革命が大きくかかわっている。

シラーの「歓喜に寄す」はフランス革命の直前に書かれた。それは当時の専制君主制である世界から自由な世界への解放を理想とする多くの人々、特に若者の心を打った。

そのひとりがベートーヴェンであり「いつかこの詩に音楽を付けたい」と思うようになったことで、「第九」はこの世に生まれることになった。

フランス革命が起こると、王政は廃止、共和政となり自由を手に入れた様に思えたが、自国での革命を恐れた周辺国の介入、恐怖政治、そしてナポレオンが政権を握るという混乱に至るようになる。

自由を得ると、不思議なものでその自由は長くは安定せず、何かの別の力によって作用されることを望む流れができるという歴史が現在までも繰り返されているのは皮肉なことだ。

そんな現代において、ベートーヴェン第九の意味、シラーの詩の意味をもう一度深く考えてみることも必要なのかもしれない。

◎マラソン・コンサートは、知的好奇心を高めるコンサート

マラソン・コンサートはすでに14回目の開催とのこと。わたしは今回初めて参加したのだが、このようなテーマを持った知的好奇心をくすぐるようなコンサートにもっと早く気が付き、参加しておけばよかったと悔やんでいる。

来年もぜひ参加したい。

このマラソン・コンサートをきっかけに、既に超有名な作品である「第九」のことを、さらに深く知りたくなったのである。


このコンサートを企画された小宮正安さんと、コンサートも聞かれていたインターネットラジオOTTAVAの斎藤茂さんとのトークも勉強になります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?