見出し画像

図書館の”気になるクラシックCD”を、いろいろ聴いてみる #4

図書館にある”気になるクラシックCD”を探して聴いてみる。その第3回目は、一味変わった協奏曲を。

画像1

ヴォカリーズ
  ソプラノ:ナタリー・デッセー
  指揮:ミヒャエル・シェーンヴァント
  演奏:ベルリン交響楽団
  録音:1996年11月、1997年6月、11月

ナタリー・デセイ

彼女の名前は長らく、私の記憶の奥底に格納されたままであった。

「デセイ」と先に書いたが、ディスクには「デッセー」と記載されている。
フランス語の発音に近いのは、そのような書き方なのであろう。
フランス人の歌手である。

人気あるコロラトゥーラ・ソプラノとして名前は良く知ってた。

しかし、その声を聴いたことがあるか?と問われれば、自身がない。

手元のCDの山を漁ってみたら、唯一、オルフの「カルミナ・ブラーナ」を歌ったものが出てきたくらい。

画像3

   指揮:ミシェル・プラッソン
   演奏:トゥールーズ・キャピトル管弦楽団
    ※刺激的なジャケットだが、演奏は柔らかめでユニークなもの。 

人気があるのに、ほとんど聴いたことがないのは、おそらくオペラの役も含めて、かなりレパートリーを絞って出演していたからではないか?

というか、コロラトゥーラ・ソプラノの役はそんなに多くはない。
多く聴くチャンスがあるヴェルディやプッチーニには、ほとんど出演していないので、自然にそのようになってしまっていたのである。

そういえば、最近ではあまり彼女の名前を聴いていない。
どうしているのだろうか?

と、気になって調べてみた。

2013年に、オペラの世界からは引退したとのこと。

歌手の生命線ともいえる声の故障も影響があるらしい。

今ではクラシックに限らない広いジャンルを歌っていて、日本にもたびたび来ているようだ。

このCDが「気になった」きっかけは、

「デセイの声を聴きたかったから」

というわけではない。

このCDの収録曲を聴きたかったからである。

それは
グリエールの「コロラトゥーラ・ソプラノと管弦楽のための協奏曲」。

図書館の所蔵CDを検索していたら、引っかかってきたのである。

「協奏曲」

といえば、ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲など、オーケストラとソロ「楽器」が共演するもの。

ソロ「楽器」がオーケストラの伴奏に乗って華やかな技術を披露する。

中には「競争曲」と書かれてもいいほど、「1人VS大勢」の戦いのような、とてもスリリングなものもあり面白い。

グリエールが作ったのは
ソロ「楽器」ではなく、「人間の声」であるコロラトゥーラ・ソプラノとの「協奏曲」である。

人間の声の場合、オーケストラをバックに歌われるのは、例えば「アリア」とか「歌曲」とか、いうものがほとんどだろう。

協奏曲と名付けた意味はなぜだろう?

と思いながら聴いてみる事にする。

画像2

まず、歌詞は無い。

♪ ア〜~

のみの、ヴォカリーズの歌唱、CDのタイトル通りである。

歌詞がないから、声の音色のみ、それを様々な、そして繊細な表情の変化で音楽を表すことになる。

いわば楽器のようである。

そして

非常に高度なテクニックを要するコロラトゥーラ・ソプラノ。
高音で、上下に目まぐるしく変化する音程。
強弱、細かいビブラート。

人間の声であるが、聴きようによっては楽器的で
人間の通常の表現を超える唱法もの。

オペラと違うのは
オペラは人間の声が最重要、最前面にフューチャーされるが
この作品はオーケストラの各楽器との、まさに「共演」と言えるもの。
オーケストラと寄り添い効果を発揮する。

競争ではない。

メランコリックで表現豊かな曲調の第1楽章。
華麗で舞曲のような第2楽章。
コロラトゥーラ・ソプラノが、軽やかに舞い踊るような。

そして最終音は。。。

これはぜひ聴いていただいて、そして驚いていただきたい。

きわめて高度なテクニックを要するが、決して、必死に絞り出している、という感じはしない。
スーッと自然に出ているような感覚である。

もはや人間を超越した「楽器ではないか?」とも思えるよう。

だから協奏曲なのか。


他の収録曲に有名なラフマニノフの「ヴォカリーズ」など、コロラトゥーラ・ソプラノの魅力を愉しめるラインナップもよい。

でも、最後のヨハン・シュトラウスの「春の声」が一番聴きもの、かもしれない。

華やかなウインナ・ワルツだけど、すごいテクニックと音程が耳に飛び込んで来て、背筋にビリビリ、と電気が走った。

デセイの他のCDも聴いてみたくなった。


※ナタリー・デセイのオフィシャルホームページもある。https://www.nataliedessay.fr/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?