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渋谷区の銭湯は「振り幅」が最大の魅力

仕事で渋谷区の銭湯について話す機会がありまして、実際に各銭湯に行ってきました。

そもそも渋谷区に銭湯ってどれくらいあるのって話なんですけど、なんと11軒あります。「少ない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、銭湯の減少傾向はまだまだ続いている中、地価の高い渋谷区で11軒も残っているのはすごいことだなと僕は感じてしまいます。

この11軒、それぞれに個性があってもちろん全部訪問していただきたいのですが、注目して欲しいのは「振り幅」です。

最初にご紹介したいのが、銭湯ブームの最前線「ザ・デザイナーズ銭湯」というべき『改良湯』さん。

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(今井健太郎著『銭湯空間』より引用)

渋谷と恵比寿のちょうど中間あたりにあり、マンションの1階に入っているビル銭湯ですが、2019年に建築士・今井健太郎氏の手によってリニューアルされ、アーティスティックかつ機能的な銭湯として生まれ変わりました。限られたスペースながら浴槽の深さがいろいろあり、半身浴的に楽しめたり深々と浸かれたり。照明も深海のなかに差し込む月の光のような感じで、思わずリラックスしてしまいます。サウナ・水風呂もあり、これらを目当てにデザイナーやアスリートとおぼしき人たちも沢山やってくる人気銭湯です。

一方、同じ渋谷区の代々木上原駅から歩いて5分ほど、マンションの谷間に忽然と現れる「大人のワンダーランド」大黒湯さん。

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入り口の左右にずらっと並んだ機種の揃っていない洗濯機たち。その上側にかけられているのはオーナーの趣味というボクシングやキックボクシングなどの往年の名選手のサインや写真類で、この全体的な統一感のなさは韓国やタイの町中の食堂とかに来たような雰囲気。外側だけかというとそんなことはなく中もこんな感じでごちゃごちゃです。浴室とサウナ室が脱衣所を隔てて別のところにあり(導線メチャクチャ!)、浴場をドアで囲んで「ミストサウナ室」と称する謎の一角があったり、浴槽内に緑や赤の照明があってやたらとケバかったり。ちなみに水風呂が深めなのでけっこう「ととのい」ます。

これらは銭湯という大きなカテゴリーの、おしゃれサイド側の一番端と、その真逆サイドの末端というべき2軒といえます。他9軒も機能性が豊かだったり、レトロ感にあふれていたりと個性豊か。可能ならぜ11軒まわっていただきたいと思います。

「振り幅」を新たに作りだすのは難しい

地域振興活動をしている立場からすると、これらが渋谷区にあるのは偶然なのかもしれませんが、たいへん魅力的なスポットであることは間違いなく、渋谷の多様性をアピールする上で大きな武器だなあと思います。

改良湯のようなキレイで新しいものを作ろうというのは、誰もが思いつくとは思うのですが(もちろんただ新しい以上のセンスと工夫が改良湯にはあるわけですが)、大黒湯のような存在に存在価値を見いだし、残し続けられるかどうかはオーナーや地域住民、行政などに懐の深さと視野の広さがないと出来ないように思われます。

蓄積によって生まれたカオスな存在は、一度壊してしまうと新たに作り出すことは難しいものです。私が地域振興活動を行っている大田区はじめ、多くの街がこういう存在を再開発の中で簡単に手放してしまいやすく、どうしたらその重要性を各方面にアピールできるかが常に課題です。今回の大黒湯訪問は、その重要性を再確認させてくれました。

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