見出し画像

一人暮らしの私のアジト〜仲間たちはそれを「部室」と呼ぶ①〜

コロナウィルスが猛威を振るっていた頃、オフィスへの出勤があった私は、外からウィルスを持ち込んで両親に移してしまわないようにと始めての一人暮らしを始めた。実家からはバスで30分ほどの場所で、築年数は50年以上のマンション。
兄が長年その部屋に住んでおり、私は大学時代にその部屋をアジトのように使っていた。
兄が結婚を機に部屋を出ると聞き、家具や家電はそのままにしてもらい私が滑り込んだ。

兄の置き土産のインテリアと自前の家具の色味がガチャガチャしている部屋は、夢に見ていたピッカピカの一人暮らしとは程遠いものだった。
どうにか女性の一人暮らしっぽく見せようと、そこらじゅうに観葉植物を置いたり、真っ黒な皮のソファーを隠すように温かみのあるベージュのカバーをかけたり、カーテンの色を変えたりとカモフラージュに奮闘した。今日から私のアジトだとニヤニヤが止まらなかった。

テレワークの日のパスタ

部屋には築年数50年以上だと感じさせる造り所々あり、それもまた愛着が湧いた。私のオアシスであるキッチンもまた随分と年季が入っていて、木製のキャビネットはどこかが歪んで開かなくなり、シンクと作業台もうっすらと錆びついていた。
それでも自分だけのキッチンがたまらなく嬉しくて、テレワークの日のお昼ごはんは何を作ろうか。夜ご飯は冷蔵庫にある食材で何品のおかずができるか。など
朝ごはんが終わったら昼ごはんのことを考え、昼ごはんが終わったら夜ご飯になにを作るか考えるような日々を過ごした。

入居から3ヶ月ほど経った頃だろうか。水道周りから嫌な生ごみのような匂いがして、調べてもらったところ給排水管の老朽化で水漏れしていることが判明。キッチン周りのみリフォームすることになった。

リフォームでキッチンは嘘のように綺麗になり、年季の入った部屋とミスマッチなほどだったが、言わずもがな部屋の中で一番好きな場所だった。
この日から「食べたい物を好きなだけ作る」一人暮らしの特権を行使しまくる日々が始まる。


この記事が参加している募集

自己紹介

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?